その40
「ここね、ケーキ美味しいからっておすすめなんだって。 木村さんが」
「へぇ、そうなのか」
というかここに来るのが用事なんだろうか? まぁそうだよな、来てみたかったんだよな。
「だから来てくれたお礼に玄君にご馳走してあげたい…… なんて思ったんだけどごめん! 勝手な事言って、私が何言ってんだろとか思うかもしれないけどお付き合いさせちゃったしその用事も玄君とここに来たら楽しいかなってあれ? えっと本当に何言ってんだろ……」
「なんて」から遥にしてはめちゃくちゃ早口になった。 そしてどんどん声が小さくなっていって最早ゴニョゴニョとしか聴こえない。
そして何を言っているかわからないうちにメニューを渡された。
まぁいいや、なんか適当な安い物でも頼むか。
「とりあえずシフォンケーキでいいかな」
「飲み物は? 頼んでいいよ」
「お金大丈夫なのか?」
「ぜ、全然! 大丈夫だから気にしないで頼んで」
「…… じゃあカプチーノで」
「私も同じのに」
店員を呼びオーダーし終えメニューをしまうと遥に見られていた。
「あれ? なんか他にも頼む物あった?」
「ううん、もうないよ…… そういえばさっき本屋で何買ったのって聞いたよね、これ買ったんだ」
遥が取り出したのは女性向けのファッション雑誌だった。
「あのね、もっとお洒落とかに気を付けた方がいいよって言われて。 でも私は流行りとかそういうの疎くてこういうの買って少しは学んだ方がいいのかなって」
「へぇー、なんか木村って面倒見がいいんだな。 俺もお洒落とかはそんなにだけどさ」
「「…………」」
あれ? 俺もしかして会話ぶった切った? くそー、俺って奴は話し下手、いや聞き下手か!
と思って何か話そうかと思うと会話がないにも関わらず遥はニコニコとしている。 ならいいか……
「あ、来たよ」
「みたいだな」
シフォンケーキとカプチーノが来て遥は小さな口でパクリと一口食べた。
「美味しい、美味しいよ玄君」
「あ、ほんとだ」
美味しいと言っても驚くほどの美味しさではないしぶっちゃけただのシフォンケーキなんだけどその物の味以上に美味しく感じた。
「あ、玄君笑った」
「え?」
「なんだか今日お昼過ぎから玄君の元気がなかったような気がしたから。 お…… お友達として玄君に元気になってもらいたいっていうか。 その、私まで楽しんじゃって何やってんだろって思うんだけど」
「そうだったのか? それを気にして遥はこんな事を?」
「うん…… ごめん!」
「いや、謝る事じゃないだろ」
寧ろ遥にそんな気を遣わせちゃって悪いな。
「速水さん」
「!!」
遥の口から速水と聞いて俺はビクッとした。 あからさますぎだろ俺……
「やっぱり…… もしかして玄君って速水さんの事が好き?」
「な、なんで?」
「なんとなくわかるよ、玄君見てると」
もし、もし遥が俺の事を好きだったら俺はこんな時に一体なんて言えばいいんた? でも遥は友達としてって言ったし。
「そう…… だと思う。 俺自身よくわかんないけどさ」
「大丈夫だよ」
「?」
「玄君は優しくて頼りになるって私知ってる。 そんな玄君が好きになった人なら私応援する、速水さんだって玄君の良いところわかってくれるよ」
なんで?
「買い被りすぎじゃないか? 俺って所詮見てるだけでなんも行動に起こさないつまんない男だぞ?」
「そんな事ないよ。 玄君は私にとっては…… ううん、あの時途方に暮れてた私
の事助けてくれた、私凄く嬉しかったもん」
「遥…… 」
あの時は…… みんなとはぐれて迷ったならついでに一緒に探すか程度だったんだけど。 遥にとってはそこまで……
「ありがとな遥、少し元気になった気がするよ」
「えへへ、良かった」
その後カフェを出て俺と遥は帰る事にした。
「じゃあ玄君また明日」
「ああ、気を付けて帰れよ遥」
遥と別れて帰っていると後ろの方からまた視線を感じて遥が見ているのかな? と思ったけど別れてから結構歩いているのでそんなわけないと思い振り返った。
「由比ヶ浜!」
「え? 速水?? どうしてここに? 美子達と一緒だったんじゃ……」
「ちょっとこっち来なさい!」
俺の腕を引っ張り人気のないところへと連れて行かれた。
「な、なんだよ?」
「はぁ…… あんたをつけてた」
「は!?」
「さっきは言い過ぎたって思って。 けど遥も居たし」
「あ、ああ」
もしかして速水は俺の事…… なんて甘かった。
「あんた美子か遥、もうどっちかと付き合っちゃいなさいよ」
速水の口から言われた事はまったく思っていた事とは違う事だった。
「どうしてだよ?」
「見てればわかるでしょ! 2人ともあんたを好きなのよ!!」
「俺は…… 俺は速水の事が好きなんだ!」
「はあッ!?」
言ってしまった、こんなタイミングでこんな人寂しい路地裏でムードも何もなく……