その36
「おおー、孫にも衣装ならぬ弟にも制服だね!」
「…………」
「うふふッ、玄も遂に私と同じ高校生かぁ〜、成長したね」
「一個しか変わらないのに偉そうにすんなよ」
入学式も終わり今日からは本格的に高校生だ。 クラス分けは美子が同じクラスになれるといいねと言っていたからか同じクラスだ。 美子と遥も一緒だったが亮介や速水、木村とは別れてしまった。
男子では1番仲良かった亮介と違うクラスとなると少し寂しい。 速水や木村も去年までは美子と一緒だったので寂しいはずだ。
そしてもうひとつ、予想外な事に俺と遥は隣同士の席順になった。
「よろしくね玄君…… ええと、わからない事あったらなんでも聞いて!」
「おう、よろしくな遥」
遥は木村の提案で高校に入る前に美容室に行きあの野暮ったい前髪を切りイメチェンさせられた。 高校デビューと言ってしまえばそれまでだが元が良かった遥は美子に並んで注目されている…… ような気がしないでもない。
「友達とか…… 出来るかな? ちょっと不安、知らない人も多いし」
「俺もこのクラスの男子知ってる奴いないんだよなぁ、まぁ今の遥なら向こうから寄ってくるんじゃないか?」
「そ、そんなッ…… どうしよ」
寄ってこられたらこられたで困るのか、でも遥からしたらそうかもしれないな。
「友達欲しいならなってあげようか?」
「「え?」」
前の席の男子がこちらにクルッと振り向いた。 俺と遥は当然誰こいつ? となる。
「俺は矢吹 英二だ、お前らと同じで誰も知ってる奴いねぇなと思ってたんだけど仲間がいて良かったわ。 席もちょうど近いしよろしくな! 英二でいいから」
「あ、ああ。 俺は由比ヶ浜玄だ、よろしく。 俺も玄でいいよ」
「私は宮野遥です。 よろしくお願いします」
まるで高校球児のような坊主頭の英二はニコッと笑って「おう!」と答えると俺と遥を交互に見た。
「もしかして2人は付き合ってる?」
「はぁ!? んなわけないだろ!」
「え? そうなん? 隣の宮野は真っ赤だけど?」
「ち、違うよ! 私元々こんな顔してるので……」
「はははッ、悪い悪い、ちょっと仲良さそうだったから揶揄ってみただけだ。 もう察してるけど2人とも同中だよな? お前の学校レベル高いな、宮野みたいなの居るなんて、それに仲良いようだし。 あっちの囲まれてる七瀬って奴も可愛いしこりゃこのクラス当たりだな」
「あ…… あー、あいつも俺らと同じ中学なんだわ」
「マジか!? じゃあ七瀬って彼氏とか居る?」
「…… 居ないんじゃねぇかな」
そう答えていいんだよな? いやだからなんだってんだと自問自答。
「マジ!? あの見た目で彼氏居ないんなら俺にもワンチャンありか?」
「お前がそう思うんならそうなんだろうけど」
「玄ちゃーん! 遥ちゃーん」
「え?」
その時美子が自分に集まる人をかき分け俺と遥の名前を呼んでこちらに向かってきた。
「ふぅー、お待たせ!」
「呼んではないけど?」
「ふえ? 玄ちゃんの視線を感じたような気がしたから」
「え? え? 宮野だけじゃなくて玄と七瀬も仲良いの?」
「うん、玄ちゃんとはとっても仲良しだよ。 ところでそちらさんはどちらさん? 玄ちゃんの友達?」
「ズコーーッ! なんだよ玄、お前このクラスの美女網羅してんじゃねぇかよ。…… もしかして隣のクラスの速水って奴と木村って奴も知り合いじゃないよな?」
「んー琴音と葎花の事? お友達だよ」
「予感がしておりました…… っていうかそしたら俺も玄と宮野の友達になったって事で自動的にその友達じゃね?」
「そっかそっか! 確かにそうだね。 七瀬美子だよ、よろしくね」
そこら辺は美子と同じ思考回路なんだな。 でも新しい友達が出来た、あとで亮介の事も紹介しなきゃ。
午前中の授業が終わりちょうどいいので英二を誘って亮介と一緒に飯でも食おうかと思った時……
「玄君…… えっとお昼!」
「宮野さんって言ったよね確か? 私達と一緒に食べない?」
「え!? あッ! ええと……」
不意に近くの女子のグループからお昼のお誘いを受け遥は戸惑っている。
「あ…… もしかしてもう食べる人居た?」
「あの、その……」
遥には遥の、女子には女子の交流があった方がいいのかもしれない、そう思ったので。
「遥、友達出来そうじゃないか?」
「あッ!」
「同じクラスだし毎日顔合わせるんだ、いつでも食べれるだろ?」
「う、うん…… わかった。 じゃあ今度」
遥はそう言って呼ばれた女子の方の席へと行った。 木村のイメチェンが功を奏したのかもしれないな。
「なあ英二」
「ん?」
俺が英二に話しかけると今度は……
「玄ちゃん、お昼琴音と葎花と一緒に……」
「七瀬ちゃんこっちで食べない?」
「うええッ!? ええと、ああ……」
美子も美子で忙しいらしい、まぁ最初だしな。
「美子、今日は英二と亮介と昼飯あるかさ」
「あれ!? げ、玄ちゃん!」
「七瀬ちゃーん」
美子は仲良くなった女子グループに連れて行かれてしまった。
「いいのかあれ?」
「まあいいんじゃないか? それより隣のクラスに俺の友達居るんだ、一緒に昼食べないか?」
「おうサンキュー、そうさせてもらうわ」
俺と英二は亮介の方のクラスへ向かった。




