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その26


「ふんふんふーん♪」

「な、なぁ次はどこいくんだよ?」



薬局から出て俺は速水の隣を歩いていた。 かなり上機嫌なようでいつものクールさはどこへやら。



「どこ行こうね? 全然決めてないや」

「マジで? てことはこうして歩いてるだけ? こんなんじゃ誰かに見つかるかもしんないぞ」

「ウチはこれでも楽しいけど…… うーん、そうだね。 あ、前に篠田が言ってたとこあるじゃん? なんだっけ?」

「あいつが? 何言ったっけ?」

「ええと…… 漫喫! 漫画喫茶! そこに行ってみたい」

「ああ漫喫か」



意外といいかもしれない、漫喫なら余程運が悪くなければバレないかも。



すると肩をトントンと触られた。



「なんだ?」

「…… ん」



俺の目の前に手を差し出した。 その手の意味するものは?



「な、なんだろ?」



と、ポケットをゴソゴソと弄っていると片方の腕を掴んで俺の手を握った。



「手繋ぎたかった」

「な…… るほど!」



違う、やはりいつもとまったく違うぞ速水! でも速水からしている事だし振り払うわけにもいかずにそのまま手を繋ぐ。



「でもこれって……」

「これってデートみたい?」



これって同じ学年の誰かにバレたら俺達って付き合ってると勘違いされないか? と言おうとしたけどデートもあながち間違ってないかも。



「あ、いや…… なんていうか」

「ここだよね?」

「え? ほんとだ」



いつの間にか漫喫の目の前に着いていた。 



「入ろっか」

「ああ」



受付を済ませてとりあえず部屋の中へと入り一息ついた。 ふう、ちょっと落ち着く。



「わぁ、部屋狭ッ」

「こんなもんだよ。 俺なんか適当な漫画選んでくる」

「あ、ウチも行く行く!」



漫画を選びに行ったはいいが……



「速水、漫画選ばないの?」

「え? 由比ヶ浜が何読むのかなぁって思って」



めっちゃ恥ずい…… 俺が何読むかなんて注目されるのもそうだけどあの速水って事が余計に恥ずかしさに拍車を掛ける。



そして部屋に戻って漫画を読んでいるのだが速水は何も読まずに俺の真正面に座りジーッと俺の顔を見ていた。 



もう穴が空きそうになるくらい見つめられている。 これじゃあ全然漫画に集中出来ねぇ。



「速水もなんか漫画持ってきたら?」

「いい、そんな気分じゃない」



だったらなんでここに来たしッ!!?



すると速水はニット帽を取り丸めていた髪を下ろして眼鏡を外した。



「ふぅー、コンタクトの上から眼鏡するのって変な感じだった。 ん…… あれ? もしかして由比ヶ浜ってニット被ってて眼鏡掛けてたウチの方が良かった?」

「いや、いつもの速水に戻ったなって思って」

「いつもの〜? あー、いつものウチッてどんな感じ?」

「気が強そうで男子が話し掛けると睨む」



本当はクール美人で俺の目の保養になってましたなんて言えないから誤魔化した。



「あはッ、やっぱそんな感じか。 睨んでるわけじゃないけど男子と喧嘩してた時の癖なのかな? まぁ今男子と喧嘩したって勝負になるはずないけど。 ウチね、最後に男子と喧嘩した時ボコボコにされちゃってそのほんのちょっと前から男子の力に敵わなくなってさ。 その時に自分って改めて女の子なんだって自覚してさ」



確かに速水って小学生の頃は男勝りというか男子っぽかったもんな。 スカートなんて履いてるとこ見た事ないし。



「でも少しは女の子っぽくはなったでしょ?」



速水は髪を手でなびかせると手を床に付けて四つん這いで俺に擦り寄る。



「由比ヶ浜はウチの事どう見てる? ウチの好みとか知ってガッカリした?」

「どう見てるって…… ガッカリとかはないけど意外だなって」

「そっか、じゃあさ……」



手に持っていた漫画を速水はパッと取り床に置いた。



「ねえ由比ヶ浜、ウチらって別にもうデートとかしたりするの恥ずかしがる歳でもないんだよ?」



俺の両頬が速水の手に包まれる。 



「で、でも隣のクラスの向井と真鍋は思いっ切り揶揄われてたぞ?」

「そんな事する奴は精神的にガキなのよ。 もうウチらは今年から高校生になるんだしそれにウチら皆一緒でしょ……」



顔と顔が接近する。 こ、これはまさか人生初のキスというやつでは?



と思った瞬間速水は壁ドンをした。 顔は歪み目には涙を溜めているような気がした。 俺が手を伸ばそうとしたら俺から離れて反対の壁の方へ背中を付けた。



「はぁーッ、はぁッ…… ウチは一体何やってんだろ!? ごめん由比ヶ浜、もう帰る」

「え!? いきなりなんだよ?」

「…… なんでもない、けどお願い今日の事は誰にも言わないで? てか忘れて。 あとこれメイク落とし」



床へ雑にメイク落としをボトッと落とされ速水は部屋から出て行った。 



またかよ!! 急に態度変わりやがったあいつ! また俺なんかしたか!?



「おいさっきからうるせぇぞガキ、ここはイチャつく場所じゃねぇんだぞ?」

「すいません……」



知らないおっさんが仕切りの上から顔を出し注意された。 え? ここまで来てこれがオチかよ!





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