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その25


「おい、どこ行くんだよ!?」

「…………」



速水は何も答えない。 一体なんなんだ!? 美子も意味不明なところはあるけど速水の今の行動もかなり意味不明だ。



いつまでもパーカーを引っ張られているわけにはいかないので体勢を直すと速水は手をパッと離した。



「ほら行くよ」

「だからどこに?」

「黙ってついてきて!」



少し大きめな声で言われたので周りに居た人達の気を若干引いた。



「わかった、わかったから落ち着けよ、な?」

「じゃあ来て」



そのまま速水について行くと某薬局に入った。 そしてどこへ行くのかと思いきや……



「こっち!」

「え? トイレ?」



そこはよく薬局にある共同トイレだった。 



「入って」

「誰が?」

「ウチとあんたしかいないでしょ!」

「はあ!?」



速水は扉を開いて俺と中に入りそのまま扉に鍵を閉めた。 なんだこの状況……



「そこに座って」



速水が指差す方向は便座。 別に俺は今トイレする気分ではないというか出来るわけがない…… が速水の圧が凄いのでとりあえず座った。



「はぁーッ……」



大きな溜め息を吐いて速水はバッグをゴソゴソとし出すと取り出したるは化粧ポーチらしき物。 



「いいよね?」

「な、何が?」



まさか…… まさかッ!?



「お願い、あんたに化粧させて」



そのまさかだった。 わざわざそのためだけに神妙な顔をして俺をここまで連れて来たのか!? んなバカな……



「ええと…… 速水が俺に化粧をして一体なんの意味があるんだ?」

「言わなきゃダメ?」

「まぁ気にはなるだろ? 普通こんな事ってないと思うし」

「………… 実はウチのドツボだったんだ」

「へ?」

「由比ヶ浜が化粧した顔」

「は!?」



速水は顔を真っ赤にして言った。



「由比ヶ浜もわかるでしょ? ウチッて小学生の頃から男子と何かあると喧嘩したりとかして野蛮女とかいろいろ言われてたりしたの……」

「ああ、うん…… それは知ってる」

「そのせいかわかんないんだけどウチがトキめくのって男らしい男とかじゃなくて可愛くて少し女の子っぽい男の子がさ…… ゆ、由比ヶ浜なんかに何言ってんだろウチ」



所謂男の娘が好きって事か? 速水ってそういうのが好きなのか!? マジかよ速水ェ……



俺に秘めたる大事な自分を告白した速水は俺に近付いて肩を掴んだ。



「だから…… だからウチに由比ヶ浜をお化粧させて!!」

「うッ……」



なんかよくわかんないし凄く困る事を要求されているんだけど速水の表情は真剣そのものだった。



それに俺だって密かに想いを寄せていたというか良いなと思っていた速水にこんなに接近されたら答えは……



「わ、わかった……」

「い、いいの? やったぁ!」



普段はクールな感じでキツめな目つきをしている速水の顔がパァアアッと明るくなった。



「じゃあじゃあお化粧していくね!?」

「あんまり変に…… というか自然な感じにしてくれよ?」

「わかってるって」



速水は化粧品を俺の顔に塗っていく。 それはもう鼻息が当たるほど俺に顔を近付けて。



「出来た……」



そう呟くと速水は俺から一歩下がりワナワナと震えていた。 



ま、まさかここまでやって思ったように行かなくて化粧をした俺にドン引きをしているのでは?



「うぐぐぐッ」



そして口を押さえた。 あまりに酷くて引き付けを起こしているのか!?



「ううッ…… か、可愛いーーッ! やっぱりウチの思った通り!!」

「へ?」



また俺に急接近して横から更に反対、正面に回って俺の顔をじっくりと恍惚の表情をして舐め回すように見ている。



「あの場では言えなかったけど由比ヶ浜のお姉さんを見た瞬間からこれはもしかしてと思ったんだよねぇー! うふふッ」

「満足したようで何より…… てことでこの化粧落としてくれないか?」

「ダメ!! 絶対ダメ! そんなお預け我慢出来ない!!」



クールで誰に対してもキツい目つきでいつも怒っているような速水はもうそこには居なかった。 俺の知っている速水じゃない……



今俺に化粧をしてキャッキャと無邪気に喜んでいる速水が本当の速水だったのか。 あ、いや違う、喜んでいたのはついさっきで今は俺が化粧落としてくれと言ったからまたキツい表情になっている。



「じゃあ俺はどうすればいいんだ?」

「ウチと遊んで」

「これで?」

「もちろん!」

「いや、流石にこんなのもし万が一でもクラスメイトに見られたら俺もそうだけど速水も変な噂が立ちそうだけど?」

「…… 確かに。 でも目立たなくすれば良いと思う」

「目立たなくする?」



速水は長い髪を丸めその上にニット帽を被りバッグから眼鏡を取り出して掛けた。



「眼鏡するんだ?」

「あんまり目は良くないからね、普段はコンタクトだけど。 どう? これなら遠目には私だって判断し難くない?」

「う、うーん。 そう言われればそんな気がしなくもないけど俺は?」

「大丈夫大丈夫! 由比ヶ浜も女の子みたいだしバレないって」



本当か? トイレにある鏡で自分を見ると確かにそうかもしれないと思ったがまさか速水とこの状態で遊ぶ事になるとは。




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