その16
「玄君、ここの公式はね……」
「ああ、なるほど」
「美子ちゃんは変に深読みしないでもう少しストレートに訳した方がいいよ?」
「ふんふん」
「ご、ごめん」
「え? 何が?」
「何か気に障ってないかと思って」
こんな感じで宮野は俺達の顔色を伺いながら教えていた。 宮野がこの中で1番成績が優秀だとわかった、そんなにと言っていたが160人中25位って結構上位だろう。
逆に美子は160人中75位、俺とそんなに変わらないようだ。 だから言うの渋ってたのか。 俺に授業中に遠くから答えを見せようとしたりした事もあったからてっきり俺より遥かに上かと思ってたんだが。
「遥ちゃんの説明とってもわかりやすいよ? 先生顔負けだよ」
「そうだな、わかりやすいよ(くそ、俺の語彙力ェ)」
「だから自信持って教えなよ? こっちもありがたく教わるからさ」
「ありがとう美子ちゃん」
「どういたしまして! じゃあ教えて?」
「うん」
なんか教えて貰ってる方が偉そうなのって…… まぁ美子だしな。
「玄君、そこ違うよ」
「え? どこ?」
「ここ……」
少し俺に寄り宮野の髪が俺の肩に触れた。 指摘した箇所の説明をしているからか宮野は真剣だ。 だが姉貴以外とはこんなに近い距離まで接近しない俺にとってはそうではなかった。
顔は横を向かずに目線だけを宮野へ向けていた。 これも今更なんだが速水も美子も言ってた、よく見たら宮野は可愛いって。
確かに。 ノーメイクなんだろうけどおっとりした顔をしてるけどクリッとした目をしていてスッと通った鼻筋でとても整った顔をしていた。 普段前髪で結構隠しているが今は教えるのに邪魔なのか額に手を当て前髪を少し上げているのでハッキリと……
いや何しに来たんだよ? 俺は勉強しに来たんだろうが。
そこで視線を何気なく前に向けると膝を着いてこちらをポーッと見る美子の顔があった。
え? 俺が横目で宮野を見てるのを見てたのか?
俺と目が合うとパッと逸らして隣の直也に目をやった、見てた反応だよなこれ? 恥ずかしい……
「え? どうかしたの? ……ッ!!」
真剣に教えていた宮野は俺がソワソワしている事に気付いて自分が俺との距離を詰めていた事に気付いて慌てて離れた。
「えっとッ! そ、そういう事だから…… わかったかな?」
いいえ、全然頭に入ってきませんでした。 なんて言えないのでとりあえず頷いた。
「んだよ姉ちゃん? 静かにしてろって言うから静かに読んでたのに邪魔!」
「うわわぁーん…… あ、静かにしなきゃ」
「お前切り替え早いな」
「オホン、ところで冬休みになって4日経ちました。 明日はなんの日かな?」
なんの日かなんて問われれば明日はクリスマスイヴだ。 だからなんだ? と言いたいけどこの流れってそれを言うなんてもしかしてと思ってしまう。
「クリスマス?」
「正解! 流石玄ちゃん、今までのお勉強の成果が出てるね」
「ツッコミ所満載なんだけどまぁいいや。 それがどうかしたのか?」
「一緒に祝わない?」
「「え!?」」
正直そういう話の進み方だったけど実際に言われると驚いてしまう。 だって今まで縁がなかったからだ。
「美子はてっきり速水達と祝うのかと」
「あー、うん。 昼間には琴音達とも祝うけどさ、その後玄ちゃんと遥ちゃんもって思って。 どうかな?」
「どうって…… 俺は言うまでもなく暇だけど」
「私はクラスの誰かと祝ったのってあんまりなくて居てもつまらないと思う」
宮野はそう言うがそれを言うなら俺も似たようなもんだと思うけど。
「ううん、それはないよ! お友達と祝うんだもん、きっと楽しいよ」
「姉ちゃんこそ男子誘ったの初めてだよね?」
「うぐッ、そうだけどそうだからだよ。 いいよね?」
「まぁ美子と宮野がいいなら」
「私も2人がいいなら」
「はい、決定。 よーし! じゃあ頑張ってお勉強しよぉー!」
「お前…… 声」
「あ……」
確実に今日わかった事は美子は図書館に向いてない。
夕方になり図書館から出る頃には直也は眠りこけていた。
「起きてぇー、ナオちゃん」
「眠い、姉ちゃんおんぶ……」
「ありゃりゃ」
「俺がおんぶして近くまで運ぶよ」
「え? いいの?」
「それくらい別にいいさ」
「あッ…… なら私も」
「え? でも宮野俺達とは帰り道逆だから遠回りだろ?」
宮野は首を横に振った。
「あの、美子ちゃんの言う通りだった」
「え? 私の?」
「まだクリスマスじゃないけどこうしてみんなで集まって今日図書館に行った事…… 楽しかった。 だからもう少し…… もう少し一緒に居たいなって。 それに」
「お友達だもんね!」
「うん!」
美子が焼いたクッキーを3人で食べながら公園まで一緒に帰りその後解散になった。