第九章 母の想い
体を抑えて足を引きずるリョウにケイが肩をかして歩いていた。
「大丈夫なの?相当のケガみたいだけど・・・」なおみが心配そうにリョウに聞いた。
「ああ・・・これは大丈夫や。シュラインに行けば一発で治るからな。」
「シュライン???」
「ああ。ほら、わいがイケメンに戻った例の地獄風呂やん。」
「え?何そのお風呂、顔だけじゃなくて傷までなおしてくれるの???」
「そうや・・いや、ちゃう。顔は治すんちゃう戻すんや!あーいてて」
「治すんでしょ・・・」
「ちゃうわ!わいはもともとイケメンやっちゅーねん。」
「バッタのくせして何言ってるの・・・所詮あなたはバッタのおばけ・・・」
なおみは生きていたリョウをみてホッとしながら言った。
「それにしてもあの長髪も超イケメンだったね・・・」なおみは少し笑顔で言った。
「だな」ケイも笑っていた。
「よし!着いたぞ!」
そこはシュラインと書かれたとても大きな宮殿だった。
「え?これがお風呂??」
中から美男美女が続々と出てきた。
「人間はここからは入られへんから、ケイ!こいつのことちょっと頼む。」
「りょーかい!」
「ごめんね!ケイ・・・あの女の人、ずっと置き去りになってるんじゃないの?」
「あー彼女なら眠ってるから大丈夫だよ!」
「じゃあ行こうか!」突然ケイはなおみの肩をたたいた。
「どこに?」
「リョウに頼まれてるんだ。なおみを連れて行ってほしいって・・・まあ来れば分かるよ。」
ケイは、なおみの前を歩いた。
少し歩くと5と書かれた白い扉の前にいた。そして重そうにそのドアを開けた。
「あれ?」なおみにはいつものパンデュルのいる部屋にしか見えなかった。
「パンデュル!」ケイは叫んだ。
「あらーケイじゃないー!もおー久しぶりじゃないのお!何してたのよお何年ぶり
かしらあ?」
「そうだな。600年ぶりくらいかな」ケイが答えた。
「何この人・・・じゃないパンデュルって・・・ケ・・イ・・?」
「ああ。こいつはゲイだ」ケイはなおみの耳元で言った。
「えっ・・・??!!」
「あら!お姉さんどうしたの?そんなに驚いちゃって。てゆーかどーして起きてるの?」
パンデュルは言った。
「ああ。話すと長くなるが・・・聞くか?」
「あーいい!いい!なんかめんどくさそっ!・・・で?どちらに?」
「22年前だ。」
「りょーかーいじゃあねケイ!また来てね。」そう言ってパンデュルはケイに
投げキッスをした。
パンデュルは消え黒い扉が現れた。
「あはー・・・パンデュルにも色んなタイプがいるのねー。」
「あいつらの前世は動物だ!」ケイはなおみに言った。
「動物??」
「あー。しかも人間に捨てられたペットだ。犬や猫、ハムスターや金魚・・・その他
色々だ。動物は人間よりも人間に執着する。
それを後に人間やジーザスに生まれ変わらせるにはあまりにも想いが強すぎて人間に危害を
加える恐れがある。で、あの姿なんだ。」
「へーそうなんだ・・・てゆうか金魚も?!・・・でもなんでゲイ??」
「あいつの飼い主はゲイだ!」
「あはー・・・なるほどね・・・ペットは飼い主に似るって言うよねーはははー・・・。」
「ところでケイ?あなたが代わりに私の過去をかえてくれるの?」
「いや、まさか。俺は過去を見せてあげる事しかできないよ。」
「見せる?」
少し歩くとお腹の大きな女性が歩いていた。なおみには見覚えがあった。
「もしかして・・・お母さん??」
「正解。」
「じゃああのお腹にいるのは・・・」
「きみだよ!」ケイは答えた。
なおみの母親のそばに男性が近づいてきた。
その男性は母親の手を握り「大丈夫だから。必ず説得するから、待っててくれ。」
それを見てなおみはケイに聞いた。
「あの男の人って・・・おとうさんじゃない?あ。家に入ってく。」父親は大きな家に
入って行った。
なおみは父親の後をついていった。家の中から激しい言い合いが聞こえてきた。
「母さん!どうしてだよ!」
「あの子はだめ!あなたはこの家の跡継ぎなのよ!あんな得体のしれない子・・・
ピアノだってろくに弾けないし字も汚いわ!頭も悪そう!」
「でももう子供もいるんだよ!」
「そんなこと知らないわよ!あなたが親を無視して勝手に子どもなんか作ったんでしょ!
とにかくあの子とは結婚させません!」
「母さん!!」
なおみの父親は、怒りを抑えそして、しばらく考えていたが再び家の外に出てなおみの
母親のもとへ行った。
「どうだった?」なおみの母親は心配そうに聞いた。
「もうやめよう!僕にはきみと子供のほうが大事だ。式は二人で挙げよう。」
「でも・・・」
「大丈夫・・・娘が生まれればきっと母さんも気が変わるよ。」
「お父さんとお母さんって親に反対されて結婚したんだね。おばあちゃんは私が小さいときに
亡くなったみたいだけどそういえば話もしたことなかったな。」なおみはうっすら覚えて
いる祖母の顔を思い出そうとしていた。
「モントル!」
「一年後に設定しました。」
「早くおおきくなれよ!」なおみの父親は幼い赤ん坊のなおみを、あやしながら言った。
「そんなにすぐに大きくならないわよ。」なおみの母親は笑った。
「なおみのお宮参り、七五三、成人式、結婚式。なおみの晴れ姿を見れば母さんも
きっと・・・」
「そうね・・・それとなおみには私達みたいにならないようにしなきゃ。好きな人が
見つかった時は、ちゃんとしたお嬢さんですね!って言ってもらえるようにしてあげ
なきゃね。色々習い事もさせてあげたい・・・」
「ああ。楽しみだな・・・」なおみの父親と母親はとても幸せそうに話していた。
その光景を見ていたなおみの頬には涙が伝っていた。
「お父さん・・・お母さん・・・そうよね。私・・・愛されているんだ。」
ケイがなおみの肩をポンとたたいて言った。
「当然だろ。」
「ケイ・・・リョウが私に見せたかったことって・・・」
「ああ。なおみの母親への感情がかわるだろうってさ。」
「うん。そっかあの振袖はきっとお父さんが楽しみにしていたからなんだ。
何にも知らないで・・・」
「リョウはそろそろ風呂もあがった頃かな?帰ろうか。」
「うん。ありがとう。ケイ」