第八章 影の正体
「で・・・この子まだ連れてかなきゃなんないんだろ?リョウ」ケイはなおみを
見ながら言った。
「ああ。パンデュルになんとか防御できへんか聞いてみる」リョウは答えた。
「そうだな。」
なおみとリョウはパンデュルのもとへ戻った。
「パンデュル!問題が起きた。」パンデュルの前でリョウが叫んだ。
「知っている。ケイのおかげで命拾いしたな。」
「通報するんか?」リョウはパンデュルに聞いた。
「もちろんだ!時の番人として見過ごすわけにはいかない。今お前たちの邪魔をして
いるデビルを放っておく事は出来ない。」
パンデュルは即答した。
「あかん!わいが連れていかれてる間、こいつはどうするんや。他の人間やったら
眠らせといたらえーけど、こいつにはそれが出来ん。」
「では他のジーザスを付けよう。セイビアなら問題ないだろう。」パンデュルが
通報しようとした時なおみが叫んだ。
「だめ!!この人じゃないと!リョウじゃなきゃ・・・変われない気がする・・・」
「頼むパンデュル!通報はしてもええ。でもこいつが片付くまで・・・それまで
待ってくれ!」リョウはパンデュルに深々と頭を下げた。
少しの間沈黙があった。
「分かった・・・ただし旅の途中に失敗してなおみを消滅させることは許されない。
デビルから守りきれなかった場合・・・その場合は見逃した私も処罰されることになる。」
パンデュルは強い口調で言った。
「わかっとる!必ず守ってみせる。」
「リョウ・・・」なおみはリョウのその真剣な横顔を見ていた。
「では、これを使え!」パンデュルはグローブのようなものをリョウに放り投げた。
「これは?」
「それはバリエル。周囲を大きなバリアで覆う事が出来る。それを使えばデビルに妨害
されることはないだろう。では・・・幸運を祈る!」
そう言ってパンデュルは消えた。
そして再び黒い扉が現れた。
「もう一回やり直すで!」リョウはなおみの肩に手をおいた。
「うん。」
リョウはバリエルをはめた腕を伸ばし大きな膜を作った。
「さっきの場所にはもう行かれんからお前はトイレに連れ込まれる前のなおみに
入るんや。」
「わかった。」
なおみはそう言って自分から中学生のなおみの体へ入って行った。
「あいつ・・・わいの細かい指示なしで行きよった。」リョウはなおみの様子を
じっと見ていた。
「トイレ行こ!なおみ!あんたも来て。」まゆは、なおみをにらみながら行った。
5人が廊下に出た時、なおみはセイビアのついている女子生徒、玲子の腕を掴んで
言った。
「お願い!助けて玲子。」
玲子は驚いてなおみを見た。
なおみは続けて言った。
「まゆ!私今はトイレに行きたくないから!」
「は?」まゆは、なおみの方を振り返った。
「私をトイレに連れ込んでどうするつもり?!頭から水でも浴びせるつもり?!
ばかなんじゃない!隠れていじめをするなんて最低!文句があるんなら堂々とここで
言えばいいじゃない!」なおみはまゆに向かって怒鳴った。
「は?」まゆがなおみに手を上げようとした瞬間玲子がその手を掴んだ。
「やめなよ!まゆ!みんな見てるよ!」
まゆは周りを見渡した。そして黙ってトイレまで歩いて行った。
「玲子、ありがとう。」なおみは玲子に笑いかけた。
「なおみにそんな所があったんだ。」そう言って玲子はなおみに微笑んだ。
なおみは目を閉じた。――――
「なおみー成長したなあ!えらいえらい。」リョウはそう言ってなおみの頭をなでた。
「うん。自分でも驚いたくらい。ってゆうか・・・リョウ・・・私の事なんか子ども扱い
してるきがするんだけど・・・」なおみは小声で言った。
「ん?なんて?」
「ううん、なんでもありません・・・」
「・・・」
「で?次は?」
「ああ、あともう少しや!先を急ご!」リョウはバリエルの膜を閉じ、なおみの手をとった。
その時だった。
「うっ!!」
いきなりリョウがしゃがみこんだ。
「え?!何?!!」
リョウの後ろに黒いスーツの男が立っていた。リョウはその長髪の男に背後から
殴られていた。
「だれ・・・や??!!」リョウはゆっくりと後ろを振り返った。
「俺は・・・ユウジ・レイ・デビルだ。何故本からでて来れた!俺はお前を決し
て許しはしない。」
「どういうことや?説明してくれ!」リョウは少し苦しそうに言った。
「うるさい!!!」そう言って長髪の男はリョウの胸ぐらをつかみ、何度も顔を殴った。
リョウはすぐに反撃をしたが、みぞおちをその男に蹴られ、なおみのほうに倒れてきた。
「リョウ!!」なおみはリョウのそばへ駆け寄った。
「人間はすっこんどけ!!」リョウはなおみをはじき飛ばした。
「きゃーっ!」
「なおみ!!大丈夫か??!!」
そこへケイが駆けつけ、なおみを抱き上げた。
「ケイ?・・・うん。大丈夫・・・何??あの長髪・・・何であんなに強いの?
リョウが・・・ケイ・・・リョウが!!」
「ああ。デビルだけど黒と同じくらい強い!体中怒りの塊だからな。」
「ねえ!ケイ!リョウを助けて!!死んじゃう!!」
「リョウ!!バリエルを使え!!」ケイが叫んだ。
リョウは慌ててバリエルの膜を作った。それは白い光を放った。
「うわー!!」
長髪のデビルは慌ててどこかへ行き、リョウはそのままその場に倒れこんだ。
「リョウ!!」なおみとケイはリョウに駆け寄っていった。
「リョウ!お前早くバリエル使えよ!」
「ほんま・・や・・な・・うっかりしとった。なおみ・・・つきとばして悪かったな。
ケガせんかったか?」
「ほんとだよ!つきとばすことないじゃん!もう!・・・死んじゃうかとおもったよ・・・
リョウ・・・ほんとに良かった・・・」
「なお・・・」そのとき、なおみの後ろにもう一人のなおみが現れたのをリョウは目にした。
「リョウ・・・」もうひとりのなおみがリョウを呼んだ。
「え?おまえは・・・?」リョウが彼女に触れようとしたときそれは消えてしまった。
「どうしたの?リョウ?」
「みた・・・わいも・・お前の前世・・・」