第五章 過去の修正
「なおみ。初めてのタイムトラベルは無事に事を終えたようだな。」
「あ、うん」なおみはパンデュに返事をした。
「パンデュル!次は20歳のなおみの所へ連れて行ってくれ。」リョウが叫んだ。
「え?次は20歳なの?・・・去年じゃん!0歳から順番に行くんだと思ってた」
「別に順番に行ってもえーけど簡単にクリア出来る所から行くほうが段々と身体も
慣れてくるし要領も次第に解ってくるからこっちの方が効率的や」
「そうなんだ・・・」
「了解した!20歳のなおみの扉だな!?では今回も幸運を祈る!!」
パンデュルはそう言って消えまた黒い扉が現れた。
扉を開けるとそこはなおみの部屋だった。
リョウとなおみは20歳のなおみの様子を見ていた。
コンコン・・・
なおみの部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「何?」20歳のなおみは答えた。
「明日の成人式の準備は出来てるの?」母親が部屋に入ってきた。
「どうしてもいかなきゃだめ?」
「あたりまえでしょ!一生に一度の事だし高いのよ!その振袖。」
「だからいらないって言ったのに。」
「何言ってるの、明日は朝早いんだから早く寝なさい。」
「・・・」
成人したからって別に何か変わるわけじゃないしなんか意味あるの?
みんなにも会いたくない・・・みんなあのこと覚えてるよ・・・
20歳のなおみは深い溜息をついた。
チャララーン チャララーン。
部屋の携帯が鳴った。
「もしもし。」
「あ!なおみ!明日なんだけど一緒に美容院行けなくなったの。急遽知り合いの人が
ただでやってくれるって言うからお母さんにそうしなさいって言われて・・・」
「分かった。」
「ごめんね!なおみ。」
「うんじゃあ明日会場で。おやすみー。」
それは一緒に明日の成人式に行く約束をしていたゆうこからの電話だった。
自分の一年前の様子を見ながらなおみはつぶやいた。
「やっぱりここだよね・・・」
なおみが部屋にひきこもったのはこの次の日からだった。
「いや・・・ここに居たくない・・・」
「あかんちゃんと見とけ!」ドアのあったほうになおみが戻ろうとしたがリョウは
その腕をつかんだ。
「だって・・・」
「モントル!」リョウがモントルに叫んだ。
「明日の会場に設定しました。」モントルは答えた。
なおみは会場でのゆうことの約束の時間に少し遅れてしまい振袖姿のまま走っていた。
会場についたなおみは振袖の着くずれを直すためにトイレへ駆け込み個室へ入った。
後からゆうこが何人かの友人と入ってきた。
「ねえゆうこ!今日ってなおみ来るの?」
「来るはずだよ。昨日電話した時は来るって言ってたから。」
「まじで?よく来れるよね。彼が死んだの・・・あの子のせいだよ・・・」
「なおみなんて・・・大嫌い・・・」ゆうこはつぶやいた。
「昨日電話したんでしょ?」
「ドタキャンしてやった。ついでに美容院もキャンセルしてやった。」
ゆうこが言った。
トイレにいたなおみは耳を疑った。
え・・・なんで・・・あ、だから今日美容院で断られたんだ・・・
なおみは予約していた美容院には行ったが入れずに慌てて別の所を探していて、遅れてしまったのだ。
ゆうこ・・・
「キャンセル?それはやりすぎじゃ?」ゆうこの隣にいた友人が言った。
「それぐらいいいんじゃない!彼はゆうこの大好きな人だったんだよ!」
別の友人は答えた。
「え・・・そうなの?ゆうこ・・・」
「絶対に許さないから・・・」ゆう子は言った。
トイレの個室にいたなおみはそこから動けなくなった。
なおみと一緒にそれを見ていたリョウが聞いた。
「おまえこの後・・・どうした?」
「式が終わるまでここにいて、家に帰った。みんなに会うのも怖くなって・・・
外にいてもみんなが私を知ってる気がして・・・」
「それでそのままひきこもった。そうやな?」
「うん。」
「今回のやり直しはここや。」そう言ってリョウは赤く点滅するモントルを調節した。
「どうやってやり直すのよ。」
「あやまるだけや。」
「なんて言ってあやまればいいの?あやまっても・・・彼は生き返らない。」
「それでもあやまるんや。」
「許してもらえないよ。」
「それでもとにかくあやまるんや。」
「無理だよ!絶対にやり直しなんて無理!!」
「ごちゃごちゃ言ってんと行け!」
えーー!!だめだめ無理無理!!行けない!!やり直しなんて!!・・・・
リョウはなおみの背中を押した。
「キャー!!」
あの時だって本当はここから出てゆうこに話をしようと思った・・・
だけど怖くて出来なかった・・・
無理やり自分の体の中に入らされたなおみはリョウを見た。
なによ・・・
どうしてそんなに優しそうな目で私を見るの?!
リョウ・・・・
リョウはじっとなおみを見守った。
私には神様のあなたがついてる・・・
出来る・・・
きっと・・・
そうだよ・・・出来るよね・・・
なおみは勇気を出してトイレの個室から出た。
「ゆう子・・・」
「な・・・なおみ・・・聞いてたの?」
「うん。ごめんなさい。本当にごめんなさい。私・・・本当にばかで・・・
ゆう子には許してもらえない。ううん。許されなくても仕方ない。本当に・・・
なんて言えばいいか・・・」
「行こう!」ゆう子はなおみをおいて友人と出ていってしまった。
あ・・・ゆうこ・・・・
やっぱりだめ・・・・
「なおみ!出てこい!」リョウが叫んだ。
なおみは目を閉じた――――
「リョウ・・・やっぱりだめだよ・・・」
「え?お前神様のわいに向かってなにを言うてんねん!?」
「だって・・・」
「大丈夫や!なおみは、だだわいの言うとおりにしとけばええんや!」
「あれでよかったの?」
「心配せんでええ!わいを誰や思てんねん!」
「・・・」
「わりと簡単やったやろ?」
「簡単じゃないよ・・・そもそも成人式なんて来なきゃ・・・あんな振袖なんて・・・」
なおみは目を曇らせて言った。
リョウは自分の両手をなおみの肩に勢いよくおいて言った。
「いや!結果的に式には出れんかったけど今ので確実に状況は変わってるはずやから
安心せい!」
「本当・・?」
「あー、ほんまや。せやからわいは誰や?」
「・・・・」
「えーか?!なおみ!お前が今一緒におるんは神様!お前の人生を変えてくれるセイビア!
わいの事を信用してついてきたらええんや!なんも考える必要はない!」
リョウは笑顔でなおみを元気づけた。
「うん・・・そう・・・だね」
そうして二人は再びパンデュルのいる部屋へ向かった。
「ところでなおみ・・・あの本は・・・お前が拾ったんやんな?」
「うん。」
「ひきこもっとったお前がなんで外に出たんや?」
「あ。・・・1年たって引っ越したの。東京から大阪に・・・私の事知ってる人は
いないところだからって・・・でもやっぱりまだ怖かった。自分が・・・他人が・・・」
リョウはなおみの顔を覗き込んだ。
「まあ!これからは変わる。期待してええから!」
「そっか、そうだね!わかった!がんばる!!」なおみは何度も元気づけてくれるリョウを
見て少し笑顔になった。
「ねえ、リョウ・・・私の行きたい過去があるんだけどそこには行ける?」
「行けんことはないで。どっか変えたい所があるんか?」
「お父さんに会いたい・・・10歳の時に死んだの・・・私が嘘をついたまま
死んじゃったから。」
「ああ・・・そうか・・・わかった。」
パンデュルの部屋から二人はその場所へ旅立った。
そこには車でドライブをしている10歳の
なおみと父親がいた。
「お父さん!!お父さんだ!よく一緒に虫取りにいったの。また遊びたい・・・」
なおみはリョウに言った。
「あーそれであの虫取り網・・・ずっと持ってたんか・・・よし!行ってこい!!」
「うん。行ってくるね。」
そして10歳のなおみの身体に入って車を降り、父親と二人でちょうを捕まえていた。
「なおみー今日はやけに上手だな!ちょうちょ捕まえるの。」父親は首をかしげた。
「あ、あはは・・・成長しただけ。」
あ・・・やば・・・
「そうだなもう10歳だもんな。」
「そ・・・そーだよー。」
そしてなおみはゆっくりと父親のそばに寄り話し始めた。
「お父さん・・・!」
「ん?どうした?」
「お父さんにうそついてた。」
「うそ?」
「ピアノ・・・本当はいやでずっとずる休みしてるんだ。」
「そうか・・・じゃあピアノはやめようか。」
「え?いいの??」
「そんなに嫌なら無理にやらなくてもいいんだよ。お母さんに一緒に話そうか」
「お父さん・・・」
なおみは目を閉じ自分の体から離れた。
「リョウ・・・ちゃんとお父さんに言えた・・・」
「みたいやな・・・」
「あんなに簡単ならちゃんともっと早く言っておけばよかった・・・
「あれだけがずっと引っかかってて・・・この少し後にお父さん・・・
死んだの・・・あんなに優しいお父さんなのになんで言えなかったんだろうね・・・
大人になれば、なんでもない事なのに。」
「まあ・・・そんなもんや」
「私・・・お父さんにウソを言っていたことがずっとトラウマになってて・・・
嘘をつかなきゃいけないところでつけなくなった・・・」
なおみの目は少し涙で濡れていた。
(^▽^)/