第二章 出会い
「キャーーーーー!!ばっ、化け物ーー!!」
なおみは恐ろしくなりドアノブに手をやった。
「ちょい待ち!!」
化け物はそう言うとびょーんとゴムの様に手を伸ばしなおみの襟首をつまみベッドへ引き戻した。
「ギャーーー!!!」
ガチャガチャ。
部屋の外から母親の声とドアを叩く音が聞こえた。
「なおみ!どうしたの?!!大丈夫??開けなさい!」
お母さん助けて!
なおみが叫ぼうとした瞬間、化け物はなおみの口を手でふさいで言った。
「お母さん大丈夫よ!ちょっとゴキブリがいただけ!」
その声はなおみそっくりだった。
「あ・・・そうなの?・・・お母さんが捕まえようか?」母親は言った。
「いい。自分でやるから!」
「そう・・・?じゃあ今、お昼ご飯持ってくるからね。」
「ありがとうお母さん。」
声をまねた化け物が母親を安心させるかのように返事を繰り返した。
母親はいつになく優しい声のなおみに少し不思議に思いながらもほっとした様子で階段をおりていった。なおみは驚きと恐ろしさでガタガタと震えていた。
「よっしゃ!もーえーな。」
と化け物はその延びた手をひっこめ、怖がっているなおみに聞いた。
「悪い悪い!大丈夫か??」
「ど・・・どういうこと!!??な・・・何??何でここにいるの??ていうか・・・
わ・・・私の声・・・???幻覚??夢??」
震える声でなおみは化け物にたずねた。
「ははは!!まあびっくりするわなあこの身なりやし化け物かあ。
ちょっとショックやけどしゃーないわな。」
そして化け物は話し続けた
「わいの名前はセイビアちゅーんや!!こー見えて一応・・・・・・・・・・
神様なんやで!!」
「か・・・神様??」
なおみは人間のようにしゃべるその奇妙な化け物にさらに驚いた。
「せや!しかも超エリートや!神様トーナメントで優勝したんや。
あトーナメントてわかるか?」
「ト、トーナメント??勝ち進んでいくやつでしょ?」なおみは親しみやすい口調の神様だという化け物がほんの少し怖くなくなっていき、さっきまでの体の震えも止まってきた。
「神様トーナメントって・・・?」
「人間ちゅーんもんにはな!ひとりづつ神様がついてるんや。それでその人間が死んだ後にどれだけえー人生を送ったかでそいつについてる神様の格が決まる。
わいら神様たちの上には大救世主って言うど偉いお方がおるんやけど、その方が死んだ人間に点数を付けていくんや。で、点数の高いほうが勝ちや。それで、わいは勝ち進んで行って決勝で勝ったからセイビア言う名前を頂いたんや。ちなみに意味は救世主な。まあゆくゆくは大救世主になるゆうことを約束されてるんや。あと600年は神様として頑張らなあかんけどな。」
なおみはその話を聞いても頭が混乱しきちんと理解は出来なかった。
「え・・・生まれた時からそこにいたってこと?みんなについてるってことはお母さんにも神様がくっついてるってこと?」
「あーそうや。みんなついてる。あんたのお母さんについてるんはブルージーザスやからちょっと格下やな。」ニヤリとなおみをみながら言った。
「格が色で決まってるってことなの?」
「せや。人間界にもあるやろ。空手とかいう格闘技の帯ちゅーんかな?それと一緒や。
白が一番下、その上がオレンジ、青、黄色、救世主が緑で大救世主が茶色、そして大救世主の長が黒や。」
なおみはさっきまでの恐ろしさが消えているのに気づき、その話に興味がわいた。
「で、生まれた時からあなたが私についていた?」
「いや、さっきまでオレンジジーザスがおったわ。わいが来たからどっかに行きよった。」
「神様って途中で交代したりするの??」
「何言うてんねんなーさっき呼んだやん!わいの事。」
「え?」
「だれか助けてー!!て言うてたやん!」
そう言いながら神様であるという化け物の姿をしたセイビアはこにこしながら、なおみのあたまをゴムのような柔らかい手でなでた。
「私があなたを呼んだの?」
「あなたは本当に神様なの?神様って感じじゃ・・・でもなぜ?神様って目には見えないものなんじゃないの?どうして今わたしにあなたが見えるの?」
なおみは不思議に思った。
「せやねん。それがわいにもよう分からん。おそらくこの本に原因があるか、もしくはわいが本に閉じ込められる前になにか問題があったかのどっちかやと思うんやけどな。」
「閉じこめられた?」
「せや。ま、わいの話はもうええんや。そろそろ本題に入ろか。」
「本題?」
「いままでは、なんか人生最悪や!みたいなこと思てたやろ?わいが来たからにはもう心配はいらん。絶対にバラ色の人生をおくらせたる!!がはは!!!」
「本当に??」
「もちろんや!!わいは優勝者や!ハイレベルや!」
半信半疑だったが、素直ななおみはセイビアと自分自身に少し期待した。
「ただし!」
セイビアが急に厳しい口調になった。
「あんたしだいや!」
「どういうこと?」
なおみがそう聞くとセイビアは三本の指を出し、説明し始めた。
「神とは大きく分けて3種類おる。」
「まず、人間の失敗を未然に防ぐタイプ。次にわざと失敗させて助けるタイプ。
そして最後は過去やら未来にタイムスリップさせて救うタイプや、ただしこの最後の
方法は本人が失敗した場合はその人間の存在すらなかったものにされてまう、すなわち
永遠に消えてまう、言う事や。」
「あなたはどのタイプなの?」
「わいかー?」
セイビアはニヤリとし、得意気に答えた。
「もちろん三番目や!!」
なおみは、こんなアニメや映画の世界のような話が現実におこるのかと、
とても信じられなかった。
しかし存在がなくなってしまうかどうかについてはどうでもよかった。
たった1年だったがひきこもっていた間には何度も自殺を考えていたからだった。
「どうする?やめるか?今やったら、さっきのどんくさそうなオレンジジーザス連れ
戻して来たるで。」セイビアが顔を限りなく近づけて言った。
「臭 っ!!」
セイビアから生ごみ臭がした。なおみはその顔をはらった。
セイビアはなおみにはじき飛ばされ、デスクで頭を打った。
「痛いなー!なにすんねん!仮にも神様やで!救世主やで!」
「あ!ごめんなさい!つか軽っ!」
「そらそうや。本来わいの姿は人間には見えへんはずやからな。幻覚みたいな、
空気みたいなもんや。実体はないからな。」
「でもこの臭いは何!??あまりに臭い!!」
セイビアをはらった手をかぎながらなおみは言った。
「え??ほんまに??そーいえば、忙しかったからちょっと1500年くらい
風呂入ってへんわ。ははは。」
セイビアは腕を組んで答えた。
「1500年って・・・わかったわ。忙しかったのね。さぞかし沢山の人を救ったんでしょうよ。じゃあ少しやすんで。どこにあるのか知らないけど・・・とにかく
お風呂よ。それに入ってきて。どうせわたしはひきこもってるし、そのタイムスリップするとか言うのも別に明日になろうが明後日になろうが同じだし。行って行って。」
しっしと手で追い払うようなしぐさをしながらなおみは言った。
そしてセイビアの言うことを少し信じた。不思議なほどすぐに心を開いてしまったなおみは思った。
神様の力???
「ゆーことは、挑戦する言うことやな。そうか。ほなお言葉に甘えて1日だけ待っといてくれるか?きれいに洗って男前になって帰ってくるから!」
「ばったみたいな顔して男前もなにもないでしょ。」
「そーか?ジーザスの中ではかなり男前やねんけどな。」
「・・・」
なおみは少し笑みを浮かべ、セイビアに父親のような友人のような今まで忘れていたような懐かしい感情をも抱いていた。
「ほな!待っといてなー!!」そう言ってセイビアは笑顔で消えた。