01
時刻は昼下がり。
昼食時を少し過ぎた頃だ。
一国の王子である僕……クランベルン・ディ・マナトリアスは、人の視線を気にしながら自分の城の庭を、一生懸命に走っていた。
「誰にも気づかれていないよな?」
警戒するのは人の視線。
今の僕の姿は、誰にも見られてはいけない。
庭の端から端へと素早く移動しながら、周囲に誰もいない事を確認しつつ、僕は行く手にあった生垣の中に小さな体を押し込んだ。
そして、口の中で数える。
「3・2・1」
ぴったりだ。
生垣の中からでも分かる人の気配。
葉っぱに覆われた視界の中を、人影が横切った。
その人影は、城に勤めている兵士。
鎧に身を包んだその男性は、眠たそうにしながら右から左へ通過していった。
こんな所に人が潜んでいるとは思いもしないのだろう。
そのまま何も気づかず向こうへ歩いていく。
この城に勤めている兵士の行動パターンは大体把握している。
あの兵士が、完全に僕の視界から消えるまで、あと五秒。
「4・3・2・1」
よし。
いなくなった。
僕は、身をひそめていた生垣から飛び出して、この付近の敷地を覆っている大きな壁を目指す。
約十秒ほどで全長15メートルほどある、灰色の壁の元へ到着。
ここを昇りきるのは大変だけど、タイミングさえつかめば何とかなる。
多くの兵士の視線や移動経路を考えると、一分ちょっとくらいの猶予しかないけれど、苦労は当然。
全ては、城の外にでるためだ。
僕は今、城から脱走しようとしている。
王子として生まれた僕は、四六時中・年中無休、国の為の勉強をしなければならない身だ。
それが必要な事なのだと分かってはいるんだけど……。
けど、やっぱり退屈なのだ。
自分で言うのも何だけど、僕はまだ子供だ。
他の子供のように休みたいし、遊びたい。
一日中勉強なんてしてたら、頭がおかしくなってしまう。
そういうわけで僕は、話の分かる勉強係の手を借りて、たまに外へ脱走しているわけなのだ。
目の前。
見張りがいなくなったタイミングで、壁へとりつく
この分ならうまくいきそうだ。
辺りを見回しても、他の見張りの姿はない。
よし、今日も完璧。