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1話 メンタルの弱い世界


 富山県富山市、取り立てて珍しくも無い見た感じ何の変哲もないとある一軒家。

 周囲には他の家は無く、寂しげに建っているその家の中では一人の少年がとある作業を熱心に行っていた。


 「ん~~~…」


 唸り声を上げながら、勉強机の上に置いてあるノートパソコンを睨み続ける少年。

 時折カタカタとキーボードを叩いているが、その手はすぐに止まる。その度に少年は頭をガシガシと掻きながら「ん~…」と唸り声を出している。


 「駄作だなぁ…」


 少年はパソコンの画面を見つめながら小さな声で呟く。

 パソコンの画面にはなにやら大量の文字、文章が続いている。その文章をしばらく眺め、キーボードを打ち込み、そして溜息…先程からこの少年はその繰り返し……。


 少年の名前は小字文説(しょうじぶんせつ)と言い、今年で中学三年生の何処にでもいる一般的少年である。

 そんな何処にでもいる彼の趣味は、創作小説を書く事であった。そう、彼が先程からパソコンの画面に打ち込んでいるのは自分で考えた創作小説である。

 現実では存在しない魔法と言う力やモンスターの様な生物などが存在する空想の世界を描く事を趣味としているのだが……。


 「ここまで書き込んでおいてなんだが…イマイチありきたりだなぁ~」


 自分の描いた作品に対して辛口な評価を下す文説。

 今彼が書いているのは事故死した少年がファンタジーな世界へと転生する物語である。少年は異世界へと転生し、その世界で次々と仲間を集め冒険をするという物なのだが……。


 「なんかありふれた設定だよな。転生や異世界なんて今じゃメジャーな設定だし」


 彼の言う通りインターネットの世界だけでなく現実世界の本屋にもこの手の書籍は大勢存在する。現に自分の部屋にもこの類の漫画、小説、アニメと種類豊富で置いてある。

 溜息を吐きながら机の上に置いてあるコーラが入っているペットボトルに口を付けて飲む。中の炭酸はほとんど抜けており、ぬるくて甘い液体に嫌気が指しすぐに口を離す。


 「なんかこう、もっと斬新な設定を盛り込んだ方が良いかな? いや…それもあるが……」


 自分の小説を読み返しながら、文説は設定以外にももう一つ自身の作品に対して問題点がある事に気付いていた。

 

 「やっぱり文章力がないんだよなぁ。もっと勉強しとけばよかった」


 彼の小説の書き方がはっきり言って下手くそなのだ。

 彼はこれまでいくつか小説を投稿してきたがその数々はハッキリ言って他の作品と比べると文章が乏しく感じられる。彼自身、自分にはあまり文才が無い事は自覚してはいる。だが、それでもやはりイロイロと物語を打ち込んでしまう。

 文説は今書いている小説を保存すると、これまで自分が書いてきた小説を一通り再度読み返してみる。

 どれもこれも今書いている作品とほとんど変わらず、面白みに欠ける作品である。だがそんな中、彼は自分の書いた一つの作品に目を留める。


 「あ~書いたなぁ~。こんな小説も…」


 彼が読んでいる作品は彼が息抜きに書いた作品であるが、他の作品と違い僅か数話だけしかネットに投稿していなかった。というより本人でさえもこれ以上続きを書くつもりもなかった。

 

 「今にして思えば何でこんなモン書いたんだろ?」


 彼が辛口なコメントを投げるその作品は今書いているファンタジーな世界観の世界なのだが、その中に少し独特な設定があるのだ。

 その設定のせいでこの作品はシリアスな場面もどこかギャグに見えてしまうのだ。


 「消しとくかコレ」


 気まぐれで保存していた作品であるが正直残しておく必要も無い。そう思うと彼はその作品を削除しようとする。

 

 「削除…と…」


 削除の項目を出し作品を消そうとする文説。

 だが、彼が削除ボタンを押す直前、目の前のパソコン画面が激しく光り出す。


 「うおっ!? なんだなんだ!?」


 あまりにも強い光に思わず目を閉じてしまう文説。

 光はおおよそ10秒近く放たれ続け、その後少しずつ光は収まって行く。


 「ふう…何だったんだよ?」


 ゆっくりと閉じた瞼を開く文説。

 だが、視界に入って来た周囲の光景に彼は目を疑う。


 「……えっ…何処よここ?」


 彼は戸惑いながらそう呟く。

 

 「俺…今まで自分の部屋に居たよね?」


 誰に問いかけるでもなく、そう確認するように自分に投げかける。

 彼は自分の見慣れた自室に今まで居た筈であった。だが、気が付けば屋外に居たのだ。しかも、どう考えても自分がいる場所は見慣れた外の景色とはかけ離れている。

 此処は見た感じ街の中だろうか? 往来では大勢の人が歩き、周囲には石造りの民家がいくつか確認でき、一番奥の方には漫画などで見かける大きな王宮が確認できる。


 「えっと…整理しようか」


 頭を押さえながら今の状況を何とか整理しようとする文説。

 自分は確か1分前までは自分の部屋で小説の整理をしていた筈だ。そしてその中の一つの作品を削除しようとしていた。ここまではまだ分かるのだ。


 「そこから削除ボタンを押そうとするとパソコン画面が光って、そんで気が付けばここに居た」


 簡単に状況を整理し終わると、彼はふっと小さく笑みを浮かべ、そして大声で叫んだ。


 「これってどう考えても異世界に来たって事じゃね!?」


 腹の底から叫びながら今の自分の状況を口に出す文説。

 激しい混乱に陥り、周囲の者は突然大声を上げる文説を見ながらヒソヒソと話している。傍から見れば突然大声を出す危ない人に見えるかもしれないが彼にはそんな事に構っている余裕はない。周囲の目など気にせずにアタフタと慌てふためく文説。

 するとそこに怪しげな3人組が近づいて来る。


 「おいおいおい、何騒いでんだクソガキ?」

 「え…あ…」


 振り返るといかにもガラの悪そうな男達が目の前に立っていた。

 全員漏れなく目つきが悪く、髪型もモヒカンやらリーゼントやらとどう考えてもまっとうな人間の髪型ではない。というより異世界でこの髪型は相当珍しいと思うのだが……。


 「街の中でぎゃーぎゃー騒ぎやがってよぉ」

 「す、すいません…あはは。あ、あの俺はこれで…」


 この状況、長居は無用だ。絡まれる前にどこかに移動しようとするが既に時遅し。文説は既にこの3人にロックオンされていた。

 男の1人が文説の腕を捕まえ、下衆な笑い声を出しながらお約束ともいえるセリフを言う。


 「オレ等の近くで騒いで不愉快な思いさせたんだ。そうだな…迷惑料ぐれー頂かねぇと」

 「お、そうだな」

 「オラ、金目のモン出せや」


 ぐわーヤッパリかよと内心で叫ぶ文説。

 どこの世界でもこのような輩の言うセリフは大体相場が決まっている。もしも女相手なら自分たちにちょっと付き合えなどこの手の類は言って来る。そして自分の様な男には金銭を要求してくるのだ。


 「あーそのーお金は有りません。あはは…」

 「ウソついてんじゃね!! オラ、ジャンプしてみろや!?」


 いや、異世界でその脅し文句はおかしくね!? 

 内心でそうツッコミを入れる文説。日本の、それもソコソコ古いヤンキーに脅し方だと思うのだが……。


 「そっちがその気なら少し手荒い方法をとらせてもらうぜ」

 

 やばい、コイツ等直接手を出して来る!?

 思わず周囲を確認するが、文説が助けを求めようと目を向けると皆は揃って目を逸らす。


 「テメーがナンも出さねぇならなぁ――――精神的に痛めてやるよ!!!」

 「……はい?」

 

 聞き間違えなのだろうか? 目の前の男が何やら少し場違いな発言をしたような……。


 「へっ、そりゃいいや」

 「オラ、辛い思いを心にしたくなきゃ金目のモン出せや!!」


 仲間のチンピラたちもそう言ってくる。

 周囲の人たちは相も変わらず自分のことを可哀想な目で見ているのだが、正直リアクションに困る。なにせ肉体的ではなく精神的に痛めつけると言われても……。


 「…意地張りやがって…そんなに心をズタボロにしてほしいのかよ?」


 いや…お兄さん。そのセリフ、あまり人に恐怖を与えられませんが。というより誰か一人位ツッコメよよ!!

 

 「覚悟はいいなぁ!! メッタクソに悪口言ってやるからなッ!!!」


 いや、お兄さん!? 申し訳ありませんけど直接暴行働かれない時点でもう安心しきっているんですけどォ!?




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