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12話_虚構世界、その価値は。

遅れて申し訳ないです。

感想などありましたら、ぜひお願いします。

○現在




「全部おじさんのせいってこと?」


「そうだ」


「でも『ホントだ!』って信じられないよ。なんていうか、ええと」


「『現実味がない』」


「それ。お父さんが本の中の人だったなんて言われても、そんなしょうこはどこにもないもん。でも、おじさんはわるい人なのはホントだと思うよ」


「ああ。私は『悪役』でもある。そう『役割』付ければ、何かが変わるのかもしれないと思っていたが、何も変化はしなかったな」


「おじさんは、何をしたかったの?」


「さあ?とうに忘れてしまったよ」


「それとさ、なんでおじさんは生きてるの?うたれたんじゃないの?」


「生き返ったからだ。

 一度『死』というものを味わってみたくてね。だが、結果は拍子抜けだったが、それでも多少は新鮮だった。嘘でも」


「ヘンな人」


「はは。よく言われた」


「だれに?」


「君のあずかり知らぬ所に存在した人達に。これ以上は『悪役』らしくなくなってしまうから、辞めておこう」


「かなしい昔話をするわるいキャラクターだってたくさんいるのに?」


「そもそも、私には悲しい過去など無い。『ただそこに有っただけ』の事象に、感情移入できるわけがないだろう。君は路傍の石に涙を流せるか?」


「できない。‥‥‥でも、おじさんとお父さんの話なら別じゃないの」


「何が言いたい」


「だって、おじさんは『さいしょからそういうふうに見えていた』わけじゃないんでしょ?」


「いつ変質したか、には意味はない。筋書きに過ぎないのだから、時系列の差などなく全てが無価値だ。『思い入れ』は空想でしかなく、得た感情すら造り物だと知ってしまえば、動く心など無くなるさ」


「‥‥‥‥‥‥ほんとかなぁ」


「君には一生解らんよ」


「分かりたくもないや」


「‥‥‥意外と図太い、というか。

 彼と変な所で似ている」




○過去




 真紀奈や俺、この世界の全ては、その本質は都合の良い舞台装置。操り人形に皮を貼っ付けた代物でしかない。そんな事実は知りたくなかった。


「‥‥‥、」


 記憶に残っていた熱量が冷めていく。


 真紀奈と過ごした日々は、音と画像で構成された、感情移入しようのない事実に変じる。


 「面白くない」「不快だ」と感じられるのならまだマシだ。それは『思い入れ』があるという事だから。


 これは違う。それよりも更に悍しい。いや、嫌悪感すら感じられなくなってしまう。


「‥‥‥‥‥‥‥やめろ」


 世界が、全てにフィルターをかけた。


 ありふれたモノが、ただの物に変わっていく。『思い入れ』を取っ払ったそれらは、ただそこにある物としか認識できなくなっていく。


 少し痛みがあった。握り締めた手からは血が垂れていた。


「‥‥‥‥‥、」


 その事象を観察して、爪を立てすぎたことが原因なのだと分かった。ケラチンの塊が皮膚を食い破って、そこから出血した。数分もすれば血は止まるだろう。


「、!!‥‥‥『だろう』じゃ、ねぇだろ」


 悪態をついて『反応』する。


「冗談じゃねえ」


 「痛い」とか「絆創膏付けないと」とかの言葉が反射的にすら出てこなかった事に愕然とした。このままいけば、今まで記憶し、そして今から観測する全てが、眼球というカメラから見ただけの記録映像になってしまう。


「あの野郎ふざけんなよ‥‥‥」


 抵抗を止めてしまえば、彼女さえもただの動く肉塊に成り果ててしまう。


 それだけは、させてはならない。


 そんなものは世界の終わりと同じだ。


 俺にこんな物が見えるよう仕向けた『作者』である男に怒りを向けて、世界へのスタンスをどうにか保つ。ひとまず、これで良い。鏑木一心がやるべき事は一つ、ただ一つのみだ。それ以外は砂粒より些末な物でしかない。その為だけに、動け。

 

「‥‥‥とにかく、消毒しないと」


 こんな設定にしやがったクソ作者は絶対にぶん殴る。ああ畜生、これも筋書かれた感情だと分かってしまうのが最悪だ。


 ここまでの仕打ちを受けなければならないほどの悪行を働いたことはない。何が悲しくて、言動や感情の全てに、蛇蝎にも劣る作者の影を感じなければならないのか。控えめに言って頭がおかしくなりそうだ。



 一階に降りると、食器が並ぶ台所から「もっと静かに降りてきなさい」という女性の声がした。母親の物だ。「ごめん」と謝った。しかし許してほs母は「夕飯できるから」と言った。随分とh「はい」と返事をした。


 リビングの棚から消毒液を出して軽くかけた。傷口に染みた。あの野r母が「怪我したの?」と訊いてきた。「ちょっと切った」と返した。「そう」と声が返ってきた。


 焼き魚が乗った皿を机の上に置いた。箸を2セット机に置いた。「いただきます」と言った。夕飯を食べ始めた。母は「真紀奈ちゃんと何かあったの?」と訊いてきた。「別に何も」と返した。「そう」と相槌を打った。夕飯を終えた。「ごちそうさま」と手を合わせた。流しに食器を置いた。脱衣所で服を脱いだ。風呂に入った。寝巻きを着た。階段を上がった。ドアを開けた。部屋に戻った。スマートフォンの充電を開始した。リモコンを操作して消灯した。布団を肩まで掛けた。目を擦った。目を瞑った。



○現在



「鏑木一心は世界の虚無性を知った。彼は私と同じ世界を共有した。一度知ってしまえば、二度と逃れられない現実を、あの少年は目にした。あの日から、彼はずっと目を逸らし続けている」


「それってダメなこと?」


「生きる為に他の生物を殺す事を、君はどう思う?」


「‥‥‥わるいこと。でも、しょうがないと思う」


「その通り、仕方がない事だ。そして同じく、彼の逃避も、誰もが知らず知らずのうちに行なっている悪事だ。ただの行為の連続体でしかない現実に想いを抱く事は、現実の無価値さから目を逸らすために人類皆が無意識のうちに行なっている悪あがきだ」


「なんで、そんなことをするの?自分にウソをつくのは、良くないことなんじゃないの?」


「一つ目から答えよう。なぜ目を逸らすか?それは自分を守る為だ。現実を直視してしまったら、世界に何の感情も抱けなくなる。そうなれば、世界と対面して存在する自己が無くなってしまう。記録だけを吐き出す装置と何ら変わらない物になってしまうのだ。だからこそ、人は現実に思い入れを持つ。たとえ儚い虚構だとしても、そうせねば、人間として生きていけなくなるから」


「‥‥‥わかんない」


「人間は悪すら躊躇せずに行うということだが、今は解らずとも良い。さて、二つ目に回答しよう。

 確かに、自分を騙すのは褒められたものではない。が、時にはウソも必要だ。イケナイ事ほど楽しいだろう?」


「うん」


「元気がいいな。何かした事があるのか?‥‥‥まあいい。なぜウソなのかというと、人間が最も手軽に、そして際限なく扱えるものだからだ」


「ウソが?」


「虚偽や欺瞞というだけではなく、フィクションも含めて見ると、そうなる。頭の中ならば、想像力の限りなんでもできるだろう?」


「ヒーローになったりとか、宇宙へ行ったりとか」


「そうだ。時には外界で観測した物を扉とする事もあるが、それは置いておこう。ウソをつく───想像することは、無駄かもしれないが楽しいだろう?悪かもしれないが好ましくはあるだろう?」


「うん」


「論理的な正当性がなくとも、何を起こそうと許されるのが虚構の世界だ。死人が蘇っても、運命を打ち破る運命を作り出しても、それが虚構であるのなら。個人の見る幻想ならば、無価値な現実に圧殺されることはない。

 だからこそ、絶えず『これは無駄な虚飾だ』と耳元で囁かれ続けるのは、地獄だ。それを自覚すれば、虚構の美酒は真水にもならないのだから」


「‥‥‥もしかして」


「ああ。鏑木一心は、それから目を背け続けている」

感情ひとつひとつに無価値と書かれたラベルが貼られていく。

それを見て発生する感傷さえも無駄とされる。


それでも。

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