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謎めく湖に挑む美女、アリエステル


原因を突き止める、謎を解き明かす、などと意気込んだは良いもののアリスとしては具体的にどうすれば良いのか判断がつかない。


ただアリスが今早急にすべき事は決まっている。


「……ヒビキ。お姉ちゃんは背中とお尻がつらいです。具体的にはシャツとパンツがつらいです」


それはこっそりと小声でヒビキに助けを求める事だった。


水もしたたるいい女という言葉はあるが、泥がしたたるのはさすがにどんな美人も絵にならない。


「大丈夫です。昨晩マックに頂いた青いワンピースをもしもの為に持ってきてあります。馬車に戻って着替えましょう」


「ですがそれですと、お仕事ができなくなりませんか?」


少なくとも屋外作業には向かない服だ。


しかし他に替えの服は手元にないのだから、ヒビキはアリスに着がえる為の理由を提案する。


「今日は現地調査よりも、別の方面から攻めていきましょう」


「別の方面?」


「アリス、湖を見て昨日と違う所に気付きませんか?」


言われてアリスは湖を見る。


反対側がハッキリ見えない程度に大きな湖であるが、おだやかなものだ。


だが言われて見れば、昨日とハッキリと違う点がある。


「船がすくな……いえ、一つも出ていませんね?」


「ええ。昨日はそれなりの数の釣り人がいましたが、今は一艘も出ていません。であれば、彼らは湖に来ていないか……」


ちらりと宿などがある方を見るヒビキ。つられてアリスも目を向ける。


「船を出す機会を見計らうべく、陸で待機しているかのどちらかでしょう」


二人の視線の先には待機というより、あー今日はやめやめ、といった雰囲気で朝も始まったばかりの時間から宴会の準備を始めている釣り人達のグルーブがいくつか見受けられた。


若者は少なく、どちらかというと年配の男性が多い。


だが年の割に全体的に筋肉質だったり、顔や腕などに古傷が目立ったりと、一般的な釣り人のビジュアルではないあたり、かつては冒険者だった者が多いという話も間違いではなさそうだ。


「今日は調査の前段階として、聞き込み調査というのはどうでしょうか?」


「……ちょっと苦手系の方々なんですが。しかもお酒も並んでますし……」


わからんでもないなとヒビキは内心思うものの、当てもなくあるかないかもわからない何かを探すよりも、情報を持っているだろう対象に聞きこむのがてっとり早い。


「場所こそガーデンパーティーですが、酒場での聞き込みというのは、いわゆるパターン、つまりは王道というものでは?」


「……確かに!」


ハッとした顔になるアリス。


酒のグラスをかわしつつ、巧みな話術で新しい情報を得たり、敵の動向を探ったりするのは王道である。


「聞き込みの腕前というのは、リーダーとして培っていくべきかもしれませんよ? なにせ我々パーティーの行動を決定づけるには情報が不可欠ですから……今後の冒険の為にも」


「確かに、確かに! ヒビキ、あなたの言う通りです。これは私のリーダーとしての資質、試金石となるべき機会かもしけれません。失敗できませんね」


ゴリクと喉を鳴らし、キリッとした表情になったアリスは、すでに顔が赤くなりだしているおっさん達を見る。


すでに出来上がりかけで、何でも話してくれそうな雰囲気ではあるが、アリスにとっては初体験の戦場のように見えているようだった。


酔っ払いのおっさんに着飾った若くて可愛い女の子が「なんで釣りしてないの?」と聞きに行く程度の世間話レベルであるのだから、成功しないはずもないのだがこの緊張感はどこから生まれてどこへ向かう感情だろうか。


「では、まずはアリスの服をなんとかしましょう。ディア、申し訳ありませんがここでしばらく待っていたいただけますか?」


「ご一緒しなくてもよろしいので?」


言外に着替えの際に見張りに立たなくて良いのかとたずねるが、ヒビキは首を横に振る。


「御者さんもいらっしゃるでしょうし、ディアの手をわずらわせるほどではありません」


二人だけで話したいこともあるのかもしれないなと、ディアジオは気を利かせ、ではお待ちしています、笑顔でうなずく。


そうして馬車に戻っていく二人の背を見送り、手持無沙汰となったディアジオは湖で宴会を始めたいくつかのグルーブを観察する。


手当たり次第に聞き込み調査も良いが、面倒な手合いがいれば無駄なトラブルを呼び込むことになる。


「面倒そうな人物は特になしか」


少なくとも近場にいる集団にそういった者はいないようだが、ある人物を見てディアジオの視線が止まる。


「ん? あれは……」


ディアジオが目を止めたのは、静かな湖を難しそうな顔で見る目つきの悪い禿頭の男だった。


筋骨隆々で背も高く、周囲に威圧感を漂わせている。


だが彼そのものは見た目からは考えられないほどに、情に厚く義理堅い男だという事をディアジオは知っていた。


商人として、また冒険者として、何度か世話になった事もあれば、面倒をかけた事もある。


「多忙でいつも走り回っているあの人が、なぜこんな朝早くの湖に?」


その男の名はベンネヴィス。


西街の職人からはベン、親分、親方、などといろんな名で呼ばれ慕われている、職工ギルドマスターだった。


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