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わたしは死ぬけれど、しあわせになってね

作者: 有里 詩月

「__さんの余命はあと半年です」


「そんな…__は、__は、生きれないんですか…?まだ、たった16年しか生きていないのにっ……」


説明する医者に対して、お母さんの声は悲痛だった。か細く、絞り出したかのような声。そんな声を出されたら。責めるにも責めれない。やめてよ。もう怒れない。もうお母さんの前で泣けない。弱音なんて吐けなくなる。だから、今だけは。せめて今だけは気づかないで。扉の向こうで自分の娘が泣いてるなんて気づかないで。






「おはよ〜涼音」


「おはようさんです」


私は病を抱えている。死ぬかもしれない重い病。いつ、この親友である香織に言うべきだろうか。


「なに重い顔してるのー?私が悩みを当ててやろう。ズバリ、恋の病か何か重い病気でも患っている!」


「ブフォッ……!?」


当てられた!?バレていた!?いや、きっとこれは冗談、いつものなんてことない冗談のはず。


けれど長い年月を共にした香織には私の感情の変化が伝わってしまったようだ。


「まさか、涼音ほんとうに恋の病を……?」


「そっちかい」


「なんだ〜って、え?そっちってどういうこと。重い病気まじでなってたりするの?冗談?」


急に香織の目が真剣さを帯びる。墓穴を掘った。こんな形で言うつもりじゃなかったのに。できるだけ心配させたくなかったのに。けど、涙を浮かべかけている香織を見たら少し意地悪したくなった。


「そうだよ?私、死ぬかもしれないんだー」


「…」


返事がなくて何事かと顔を覗き込めば大粒の涙を香織は流していた。


「ちょっ!?」


「す、涼音がしぬなんていやだ……」


その振り絞ったような声に、私も泣き出す。死にたくない。香織ともっと遊んでいたい。かみさま、なんで私なの。思いは溢れて瞼を乗り越えた。その日は二人して目を腫らした。





それからは一日を大事に過ごした。二人で行ったカフェも映画も、全て日記に遺して。文化祭も体育祭も、花火大会も全力で楽しんだ。悔いのないように告白もした。振られちゃったけど私以上に香織が泣いていて、可笑しくなって二人で笑った。たとえ残された時間が少なくても、私は人生を謳歌していた。もう、いいかなと思っていたら幸せなニュースが飛び込んできた。


病気を治す特効薬ができた。すぐに投薬をしてもらって経過観察に入る。悪い値なんて無くなって、病は治った。本当に、あとはもっともっと香織と幸せになるだけだった。






だからきっと、幸せすぎてばちが当たったんだと思う。













そうして今、私は喪服に身を包んでいる。


「ガンですって。余命宣告も受けていたようよ」


目の前には静かに笑う香織が大量の花の中で眠っている。


信じたくない。香織が私を置いていったなんて信じたくない。けど香織は戻ってこない。


「なんで、何にも言わなかったの…」


もう呟きも届かない。いつの日か死にたくないと。怖いと香織に縋ったことをひどく後悔する。まだ治る可能性があった自分と比べて香織はどうだった?余命宣告を受けて、私よりも死が身近にいるのになにも弱音を吐かなかった。ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん。みがってでごめん、ひとりでしなせてごめん。


「涼音は幸せになってね」


その言葉の未来に香織の存在がいないことにきづけなくてごめん。わたしはばかだ。おろかものだ。しんでしまいたいほどつらい。けど、しねない。わたしは、しあわせにならなきゃいけない。つらいのもいきてるあかしだから、いま、なみだをながしているのもいきているから。だから、香織。




あのよでみてて。しあわせでいっぱいな、わたしのじんせいを、めをさらにして、みひらいて、ひとつもみのがさないで、みてて。

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