死ぬことはもうない
その後、あっという間に僕のアパートは警察や救急車に取り囲まれて黒山の人だかりができた。
僕はそんな様子を、化物とともにアパートの屋上から眺めていた。
「お疲れ様でした。本当に」
化物はにたにたと笑いながら言った。
僕はそれに答えない。ただ、先程まで僕がいた場所を見ている。
「これからの話をしましょうよ」
これから。何のだ。僕は死んだのだ。次なんて、ないはずだ。どうなるというのだ。
にたにたと笑い続ける化物を見ていると、無性に腹が立ってきた。
なにか言ってやろうと思うが、声が出ない。
必死に声を出そうとする僕を見て、化物は高らかに笑った。
「今の貴方には、視覚と聴覚、そして意識しかありません」
僕の実態である身体はもう失われたらしい。
幸い、自慢できるような体躯でなければ、見惚れるような容姿でもない。しかし、声は低くて透明感があると言われたことがあり、少し自慢だった。
それを言ってくれた人にもう一度会うことができていれば、こうはならなかったのかもしれなかったのだけれど。つべこべ言ったって仕方がない。
これからの話とやらを聞こうか。
化物の方を見やる。
「貴方は幸せですよ。自殺するなんて」
化物はそう言いながらまたにたにたと笑った。
僕の実態などないはずなのに、僕の視線や考えていることまで分かってしまうなんて、こいつは一体何者なのだろうか。こいつに僕はどう見えているのだろうか。
怪しいやつだが、今はこいつを信じることしかできない。
もう死んでいるのだ。
どうなろうと怖いものはない。
どうせ、死ぬこともないのだから。