これから
そもそも、死んだ後に化物の話を聞くことができるのかはわからなかったし、最早この状況が死ぬ前に見ている夢なのかそれとももう自分はすでに死んでしまっているのかも判断がつかなかったが、とりあえず気が散るのでひと思いに飛び降りてしまうことにした。
ベランダに片足をかけて、予想以上の高さに息を呑んだ。
もう片方の足をベランダに載せることができない。全身が凍りついたように動かない。
あれほどまで死を望んでいたのに、僕の身体は必死に飛び降りることをやめさせようとする。
心臓が耳元にでもあるかのようにうるさく鳴る。
これで、終わりだ。
僕としての人生は、ここで、終わる。
そう思うとこれ以上動けなかった。
化物の方を振り返る。
その瞬間、化物の顔を見る間もなくまるで押されたように僕は4階を飛び出していた。
視線が落ちていく。地面がみるみるうちに近くなる。
あれ、こんなにも死ぬまでには時間があるのか。
落ちなきゃよかったなんて、おそいけど。
頭があるうちに、何か考えなきゃ。
そういえば、あのコンビニのお姉さん、美人だったな――
「お疲れ様でした」
気がつくと僕は、アパートのベランダにいた。
化物はさっきと変わらず、僕のアパートの中にいる。
火の消えたタバコ、化物が使ったコップ、僕が開けたベランダの窓に、なびくカーテン。
何もかも、さっきみたままの景色だった。
「僕、生きてるよな」
化物の方を向いて、すがるように聞いた。
うまく声が出たかわからない。
化物は口角をにい、とあげて答えた。
遠くに救急車のサイレンが鳴っていた。
「さて、貴方の質問に答えないといけませんね」
化物はそう言ってベッドから立ち上がった。
「その前に、ここを出ましょう。騒がしくなりますから」
その言葉から、記憶がない。