すばらしいご決断
いきなりのことで面食らったが、今すぐ僕を取って喰おうという雰囲気ではなかったので、部屋に戻ってコップに水道水を注いで化物にくれてやった。
化物の容姿は見れば見るほど不思議で、頭部は林檎で、残りは人間だった。
真っ黒のスーツとネクタイを締めて、目はないのに、鼻と、その下のヒゲと、大きく開いた口があった。
化物はうまそうに水を飲むと、礼を言ってベッドの上に腰を下ろした。
帰るつもりはないらしい。何をしに来たのか、そもそもどこから入ったのか、謎は深まるばかりだが得体の知れないやつに下手な行動を取ると危険だ。僕は沈黙を貫くことを決めた。とは言っても、この世にいるのもあと数時間なのだが。
しばらくの沈黙の後、化物はやっと口を開いた。
「死ぬおつもりですか」
一言目から核心を突く内容だ。だからと言って狼狽える必要はない。
「そのつもりです」
さて、どうでるか。
死ぬつもりならばと喰われるかもしれない。
教師のようにくだらない御託を並べて僕の自殺を阻止しようとするかもしれない。
どっちだって良かった。
結果には変わりないのだ。
こんな状況、滅多にない。楽しまなくては。よい冥土の土産だ。
「すばらしいご決断、感謝いたします」
しかし、化物はそう言った。
すばらしい、と。
化物の口からにたにたとだらしない笑みがこぼれている。
僕の死を歓迎している。僕にはそう見えた。
「どういう、意味ですか」
思わず、尋ねてしまう。化物が、ここに来た理由。化物が、死を喜ぶ理由。全て、聞いてみたくなった。
「聞きたいなら、死んでください」
化物の声が、冷たく響いた。