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満員電車狂想曲  作者: 南野真冬
1/1

*プロローグ

この世には、

現世であるくせに不思議な空間がある。


一つは神社。

普段は神様を信じていない者でさえ、ひとたび鳥居をくぐって仕舞えば、しおらしく、そして馬鹿馬鹿しいほどに従順にお願い事とやらをするのである。

信心深くもない者が真剣に祈る様は、なんと言おうものか。笑ってはいけないと思ってはいても、ついつい笑みがこぼれてしまう。これでは現世から神や幻想が退散してしまっても全くおかしくない。


一つは学校。

同じ年代の者を集め、同じことを教えるのに決して全員同じクローンのようにならないのは本当に不思議である。所謂個性というものだろうか。それとも生まれ持った才覚というものか。はたまた家庭の環境か。

答えは多々あるが、一人として同じ思考の人間がいないのは良いことだ。もしも全くの他人が、同じ年に同じことを習ったという理由で、私と全く同じ思考回路を持っていたとしたらゾっとする。他人のくせして、内実は私のドッペルゲンガーであるだなんて耐えられはしない。おそらく恐怖に打ち震えて生きるよりも、そのまま頭から土の中に埋まることを選ぶだろう。私は心が弱いのだ。


そして、満員電車。

大抵の人間が乗らなければならない毎朝の動く牢獄。満員電車。

あれだけの人間があの狭い空間にギュウギュウと押し込められ、多くの人間が文句も言わずにただ黙って乗っている様はもはや不気味である。

しかし、異常な密着率にもかかわらず、乗客たちは皆我関せずとばかりに自分の世界へ閉じこもり、ガチャリと鍵をかけているようなのである。

なんと羨ましいことだろう。私はきっとなにかの弾みで自分の世界に閉じこもる術を失ってしまったのだろう。なんとも傑作なことに、私の耳は満員電車に乗るだけで人々の思念、思考、想像、幻想が一挙に集め、無秩序に奏でてくれる。おかげさまでロマンスグレーの紳士に席を譲られてしまうほどの過呼吸に陥ることもあった。前述した通り、私は心が弱いのだ。できることならば、何も聴きたくないのだが、耳栓をしてもイヤフォンで音楽を注入しても全く効果はない。思念の不協和音オーケストラはその振動でも私を苦しめるようだった。

私は諦めが良いので、「不協和音オーケストラ不聴作戦」を諦め、不協和音をなんとか調和に導くための試行を始めることにした。 明確な情報にしてしまえば調和への道はきっと開けるだろう。開くしかないのだ。私の平穏のためにも。


以上が長い長い私の身の上話である。

と紹介はしたが、「これ」を読むのはきっと私だけだ。

しかし、あたかも読者がいるように書いた方が、私の意欲も上がるというものだ。未来の私よ、思い出せ、「読者などいない」

惑わされてはいけないからな。心の弱い私が未来で居もしない読者のことで気に病んでしまったら私の未来に関わる。

「これ」は、聞こえるはずのない。しかし、確かにそこにある不協和音を紐解いた狂想曲の記録である。 そう、あくまで「記録」である。

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