探査
丘陵の向こうに建物が見えた。どれも高さを揃えたように中層建築が並んでいた。近づくと、砂地と舗装された路面の境界ははっきりしていて、そこから都市の領域が始まっていた。二人の男は、生命反応装置を手にしながら、都市の領域に足を踏み入れた。
『誰も居ないようだ。少なくとも装置に反応はない』
グレンが言うと、
『たぶん、どこかに痕跡があるはずだ』
と、ケンが応えた。二人は都市の中層建築が連なる区域を歩き、幅の広い通りにでた。と、静寂の中に微かな音が聞こえる。
見ると、通りの向こうから、車輌がこちらにゆっくりと近づいてくる。車体の下側に回転するブラシをつけた無人の車輌で、舗装路を掃きながら走行している。
『コントロールしている管制室がある筈だ』
グレンは、そう言って車輌の前に手をかざした。すぐに警報音がなって車輌は停止した。
『綺麗好きの住人なんだろう。一定の文化レベルを感じる。おそらく我々とも好意的な交流ができる』
ケンは、そう言って生命反応装置の方向を変えて、周囲の探索を続けた。
通りに面して建造物が続いていた。どれも入口と窓があり、地球のどこかの国の建造物だと言っても違和感はなかった。グレンとケンは、そのうちのひとつの建物に入った。
室内には円いテーブルと椅子が放置してあった。他には調度はない。続けて別の建物にも入ったが、同じように住人の痕跡はなかった。
都市の形成に高いレベルの機能性が認められたが、時間をかけて二人が探索を続けても、ここに生活していた住人のかたちはわからなかった。通りに立って眺めると、建造物は風景の奥までずっと続いていた。つい最近まで、ここが活発に機能していたことが想像される。
二人は、住人の探索を諦めた。
『母船に戻る予定時刻だ。ロイが我々の話を心待ちにしているぞ』
グレンがそう言って時計を見た。グレンとケンは、再び都市の境界へと引き返した。そして砂地にとめた探査挺のタラップを昇るとコクピットのシートに身体を滑り込ませ、ベルトを装着させた。
轟音とともに探査挺は垂直に上昇していく。舷窓からは、都市の鳥瞰が認められた。探査挺は、都市をおおっていたドームを抜ける。幾何学的に拡がる建造物と道路。周囲の砂地。やがて、それらが途方もなく大きな人工物の表面に展開する一部分にすぎないことが認められた。
巨大な宇宙船は、ひとつの都市を人工基盤の上にのせていた。
『さまよえる宇宙船か・・』
グレンが操縦悍を握りながら呟いた。探査挺の窓から見える巨大な宇宙船は、長い沈黙の時間をどこまでも守っていた。
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