07 VRゲーム
小部屋にはたくさんのモニターと、よくわからん機械が何台も置いてあった。
まるで、小さな研究所か、ハリウッド映画に出てくるFBI等の捜査本部用車両のようだ。
何でも屋だから、色々なものが必要なのだろう。
そもそも、おっさんの雰囲気からして尋常じゃないから、ヤバイ仕事も請け負うのかもしれん。
コピー機やモニター以外は、何に使う機械なのかわからない。
気にはなるが、今から試験だ。
集中、集中……
って何やるんだろ。
「始めるぞ。その椅子に座れ。」
今度は、五分と経たずにおっさんがやって来た。
そうでなくちゃいかんよ。
「わかりました。」
座らされたのは、ディスプレイの前にあるオフィスチェア。
ディスプレイは、六十度ほど斜めにずらして置かれている。
おっさんは変ったリモコンで、オレの目の前のディスプレイの電源を入れた。
リモコンを使うという事は、このディスプレイは作業者用の物ではないモニターなのだろう。
ディスプレイがタッチパネルならリモコンは必要ないし、キーボードやマウスなども見当たらない。
そもそも、このディスプレイは斜めを向いているから、目の前に座った人間からはちゃんと画面が見えない。
「まず、オレの指示に従ってちゃんと動けるかどうかのテストだ。VRゲームで行う。」
次の瞬間には、VRゲームのヘッドセットとコントローラーがオレの手の中にあった。
もっとも一般に普及している、テレビゲーム用のヘッドセットだ。
VRゲームで適性検査って、なんかスゲェな!
ちょっとテンションがあがって、オレはいそいそとヘッドセットを着けた。
友達の家でだが、何回かやった事がある。
正直、自分用のが欲しい。
おっさんは、オレの斜め後ろに椅子を転がしてきて座ったようだ。
目の前にあった斜めのディスプレイは、おっさん用のモニターなのだろう。
おそらくその画面には、オレのゲームプレイが俯瞰した状態で映るはずだ。
「自信がありそうだな。まず、説明から入る。『覚えろ』と言った事は、出来る限り一度で覚えろ。忘れた場合は、正直にわからないと言って聞け。何度もわからないようなら、その時点で不合格だ。」
うお、厳しいな。
「わかりました。」
「適性検査が終わるまで、返事は『了解です。』『その通りです。』『違います。』を中心に使え。今回は身元を隠すコードネームは使わない。苗字で呼び合う。コレは覚えろ。」
「了解です。」
断る時はどう答えたら……、いや、断った時点で減点って意味だな。
「ついでに、通信の基本も教えておく。まず、『こちら』自分の名前。そして話したい相手の名前。伝える内容。喋り終わったら最後に、『どうぞ』または『送れ』『以上』『応答しろ』等をつける。コレも覚えろ。こちら山形だ。佐藤、基本を守って応答しろ。」
これは、たぶん無線通信の基本だな。
映画とかで聞いた事がある。
何でも屋だから、何かでトランシーバーとかを使うんだろう。
名前を入れるって事は、複数人で交信するって事だ。
「こちら佐藤。山形さん、了解です。どうぞ。」
「よし。VRゲームを起動するぞ。以上。」
二人だけなのに、何度も佐藤ですって応答するのはおかしいな。
かといって、相手が見えない状態だから、向こうの状況が変化するケースも考慮しないと。
おっさんは応答で通信相手の名前を完全に省略してたけど、オレは相手の名前を入れるようにしといた方がいいな。
初心者だからな、クセをつけとくべきだ。
「了解です。山形さん、どうぞ。」
オレはつばを飲み込むと、コントローラーを握り締めた。
一体、どんなゲームなんだろ。




