エピローグ
「結局、最後のあいつは、何だったんですか?」
山形さんは、例の《ボスの椅子》に座っている。
あの激しい戦いから、まだ一時間も経っていない。
しかし、山形さんは平然としたものだ。
「あれか、あれは悪魔だ。」
へぇ、そうですか。
って、それで説明終わりかよ。
もうちょっと、何かあるでしょ。
あれから、オレ達は電車で《時空管》に戻った。
そして今、バイト代という名の、報酬を受け取った所だ。
あんな無茶苦茶な事やって、六千円。
金の為だけだったら、絶対に割に合わないよなぁ。
聞いた事の無いレベルの、ブラックバイトだよ。
「運が良かったのよ。全く、佐藤君はあんな無茶して。誰か捕まっても、あいつはすぐに殺したりはしないの。オペレーターの指示には、ちゃんと従って欲しいなぁ。」
タマラさんは、オレが命令を聞かなかったので、不機嫌な様子だ。
確かに、命があっただけでも、運が良かったように思える。
「私達も同意見でーす。単独行動はチームの和を乱すと思いまーす。」
亜衣ちゃんまでもが、タマラさんに同調してる。
「すみません。」
まぁ確かに、オレが悪かったな。
ここは、素直に謝るしかない。
「まぁ、いいじゃねぇか。こいつは、かなり良くやったと思うぞ。『吉岡』程じゃねぇが、これからも使えそうだ。アイツの推薦は、なかなか当りが多い。お前を張ってて、良かったよ。」
まさか、山形さんがオレを庇ってくれるとはな。
それにしても、推薦って……。
『吉岡』ってまさか!?
「えっ、翔君って、あの『吉岡』さんの紹介?あんな、危ない人と知り合いなんて意外。」
どうも園池さんは、その人の事を知ってるようだ。
「あの、もしかして、吉岡竜誠さんの事?右腕に、十字架の刺青がある……。」
「そうそう、あの《喧嘩屋》。やっぱ、知り合いなんだぁ。」
げ、マジかよ。
あの人、《時空管》に入ってたのか。
いや、まぁ、あの人は、この仕事に合ってそうだな。
オレの人生の中で、あの人以外、この仕事できそうな人なんて知らない位だ。
でも、なんであの人が、オレを推薦なんて……。
あぁ、そういえばオレ、何故かあの人に、過大評価されてるんだよなぁ。
「あれ、俺、言ってなかったっけか。あと、お前と同学年の、高砂もいんぞ。」
うげ、大ダメージ。
中学黒歴史時代の、悪友筆頭じゃないですか。
アイツと居ると、揉め事に巻き込まれる事が多いから、ここ半年は殆ど連絡を絶ってたのに。
まさか、あのアナザーチェリーまでもが、このバイトをやっているとは。
悪友が他に居ないアイツが、殆ど連絡を寄越さなくなった原因も、コレか。
なんてこった。
オレは、あのグループから逃げきったつもりでいたが、実は、もっと深遠に入り込んでいたんだな。
「佐藤君は、あの、高砂君の知り合いなのかぁ。」
亜衣ちゃんは、ちょっと嫌そうな顔をした。
「ほんと、あの高砂君の知り合いなのは、ちょっと残念だね。そういえば、少し似ている所があるなぁ。」
高砂の野郎、亜衣ちゃんとタマラさんに何しやがったんだ。
今度合ったら、絶対に許さん。
「みんなさっさと帰って、ゆっくり休め。今日は、イレギュラーだったからな。佐藤にも、シフト表出来たから、渡しとくぞ。」
うーん、みんな帰っちゃうのか。
まだ昼だし、亜衣ちゃんと園池さんとの、親交を深めたいのだが。
「それじゃ亜衣、帰ろう。」
「うん。じゃ皆さん、お疲れ様でした。」
「オウ。」
「はーい、お疲れ様。」
「おつかれー。」
う、二人が帰ってしまう。
「オ、オレも帰ります。お疲れ様でした。」
急いで、一緒に帰るのだ。
そして、園池さんが行きたがっていた、カラオケに誘うのだ。
「お前はまだ、シフト表受け取ってねぇだろ。ちょっと待ってろよ。」
ああ、オレの最後の希望が、遠のいていく。
オレが欲しいのは、シフト表じゃないのに……。
オレが階段を降りると、もう二人の姿は無かった。
まぁ当然だ、あれから十分は経ってる。
それにしても、外は嫌になる位、滅茶苦茶に暑い。
オレは二人を追うのは諦めて、このまま家に帰る事にした。
つい二分前にもエアコンが効いた部屋に居たが、もうエアコンが恋しい。
暑い、暑すぎる。
夏にまで黒い服ばかり着るオレは、もしかして、アホなんじゃないのだろうか。
そう、滅茶苦茶、蒸れ蒸れで暑いのだ。
でも、なんだ、これ。
左脚に、不自然な風を感じた。
ふと、左の足を眺めると、ズボンに穴が開いている。
あぁこれは多分、あのスキンヘッドとの激戦でズボンが破けたのだ。
このズボン買ったばっかりで、今日初めて履いたのに。
確か、八千円だったよなぁ。
で、今日のバイト代が、六千円。
……。
赤字じゃねぇか!
オレは、ガクッと崩れ落ちた。
まぁいい。
バイトのシフトは、一日おきで入ってる。
命がけのバイトだが、夏休みが終わるまで稼いでやる。
それにしても、吉岡さんと高砂までが《時空管》の候補生だったとはな。
亜衣ちゃんや園池さんとは、結構仲良くなれた。
また、あいつらとも、巧くやるさ。
まだ、夏休みは始まったばかり。
そう、こういう時はアレだ、あの台詞だ。
オレ達の戦いは、これからだ!
〈第一部 完〉




