表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/73

06  蚊

一時間ほど、そのまま放って置かれた。

オレの中で『怖い山形さん』は『ムカつくおっさん、通称山形さん』に変っていた。

恐怖空間に長く居たせいか、ほとんど恐怖を感じなくなっていたのだ。


一応、『さん付け』をしているのは、つい、『山形』などと、呼び捨てで話しかけてしまう事を防止する為の策でしかない。

バイトの面接に落ちると、あの美少女とお近づきになれないからな。

もうすでに、敬意なんて欠片もないぞ。

待たせるのも大概にしろよ、おっさん!


「なんだ、まだそこに居たのか。座って待ってりゃいいじゃねぇか。」


やっとこっちに来たと思ったら、さんざん待たせた挙句の第一声がコレだ。

しかも半笑い。

ガラは悪いが、かなりの長身イケメンで、高級そうな仕立ての良いスーツを着ている。

やっかみも加わって、本当にムカつく。

顔の傷を見て、ヤバイ奴という認識を取り戻さなかったら、殴りかかっていたかもしれない。

殴り合いになったら確実に負けるだろうし、それだけではすまなそうだ。

とにかく、気を落ち着かせた。

美少女のバイト仲間になる為だと思えば、この位は我慢すべきなのかもしれない。


「ここの代表の山形だ。名前は、サトウショウ。年齢は十六。そうだな?」


「そうです。募集の返信メールに書いてあったので、履歴書を持ってきました。」


「その辺に置いとけ。そんなもんに興味は無い。」


なんだよそれ、これ書くの二時間位かかったんだぞ。


「これから、適性検査をやる。ダメだったら即帰ってもらう。」


「適性検査ですか。わかりました。」


「左側の奥の部屋に検査機器が置いてあるから、行って少し待ってろ。」


「はい……。」


また一時間とか、待たせる気じゃないだろうな。

釈然としなかったが、乗りかかった船だ。

とにかく、適性検査ってのを受けてみよう。

小部屋に向かって一歩進んだ。

突然、ふらついた。

目の前を何かが、物凄いスピードで走りぬけたような……。


あれっ、今の何だ?


ついさっきまで目の前にいた筈のおっさんが、何故かドアの外の階段付近にいる。

何が起きた?

一瞬であそこまでは、移動できないぞ。


オレは、何度も瞬きをして、頭を擦った。

暑い中歩いて来た後での、立ちっ放しだったし、貧血……かな。

少しの間、気が遠くなって、意識が無かったのかもしれない。

多分、そういう事なのだろう。

こんなの、初めてだぜ。

緊張し過ぎの状態で、長々と待たされたからだな。


「蚊だ。」


「この蚊ってのは現状、人以外で最も殺人を行った生物だ。そんなもんを駆除せずに放し飼いにしている。全く、この時代の奴らはイカれてる。中には入れんから安心しろ。」


この人、よっぽど蚊が嫌いなんだな。

そりゃ夏なんだから、蚊なんていくらでもいるだろう。

でもまぁ、倒した時の達成感はなんとなく分かるから、頷いておく。

満足そうに手のひらを見つめるおっさんを尻目に、オレは小部屋に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ