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05  ボス

何回かドアをノックしたが、反応が無かった。

ガラスのような素材のドアには、《何でも屋 時空管》と書いたプレートが貼ってある。

ここで間違いないだろう。

すぐ側、ドアのガラス越しに見える場所には、受付のようなスペースがあった。

普段は誰かいるのかもしれないが、今は誰もいない。

面接の時間まで、あと十分を切っている。

日本の社会人は十分前行動が基本だ、という話を聞いた事がある。

これ以上遅いと、印象が悪くなるかもしれない。

仕方がないので、オレはゆっくりとドアを開けた。


「失礼しまぁす。」


お辞儀をしつつ入り、中の様子をうかがう。

中は、何かのTVドラマで見た、個人弁護士の法律事務所のような感じだ。

エアコンが効いていて涼しい。


部屋は、オレの身長ほどある木製の衝立や壁で、四つに区切られていた。

手前には、受付と待合室をかねたようなスペース。

中央に、広い会議室のようなスペース。

広いスペースの奥に、左右に分かれた二つの小部屋。


中央のスペースには、会議で使うようなテーブルと椅子が置いてあり、立派な本棚やソファのようなマッサージ器、三つのパソコンデスクセットが置いてあった。

ここにも誰もいない。


左側の小さなスペースには、大型のコピー機などが置いてあるようだ。

人影は無い。


そして右側の小部屋には、『ボスの席』としか表現のしようが無いデスクセットがあった。

メガネを掛けた男が、足を机の上に投げ出して座っている。

年齢は二十代の後半だろうか。

下を向いてスマホをいじっているようで、こちらに気がついてはいないようだ。

たぶん、あの美少女が言っていた『怖い山形さん』だろう。

かなりヤバイ感じがする。

何か、鬼気迫るものがあって、心霊スポットに来たような錯覚すら覚える。


オレは中学の時に、大きな勘違いをして、この辺のギャングもどきグループとかかわった事がある。

その時に、ヤバイといわれる高校生の先輩達にもたくさん会った。

殆どのメンバーは、たんなるウェイ系のアホだったが、ガチな人も何人か紛れていた。

グループに参加したのはごく短い間だったが、何度か暴力沙汰に巻き込まれた事もある。

喧嘩相手が、刃物を取り出した事もあった。

その時は、通信教育で習っただけの格闘術の知識等が役に立ち、奇跡的に何とか無事で済んだ。

殴られても痛くないように、と服の中に入れていた週刊誌が、オレの命を救ったのだ。

その週刊誌は、一生涯買い続ける事を誓った。

怖くなったオレは、高校進学後、グループを逃げ出して距離を取っている。

それで、オレの反抗期は終了。

バンダナで顔を隠してオラつくスタイルで、本当に良かった。

しつこい奴らに顔を覚えられていたら、逃げ切れなかっただろう。

トラウマレベルの、オレの黒歴史。


あの頃、一番危険だと思った《喧嘩屋》の先輩よりも、奥の小部屋に座っている『ボス』はデンジャラスな感じだ。

しかし、あの男に話しかけなくてはならない。

約束した面接に遅れたとか、来なかった、なんて事になったら絶対に許されなそうだからだ。


「失礼しまぁす!面接にきましたぁぁっ!」


近づく勇気が出なかったので、可能なかぎり声を振り絞った。


「うるせぇなぁ!ちょっと待ってろ!」


イライラした口調の返事だった。

オレが来ていたのには、気がついていたのかもしれない。

怒らせても良くないと思い、そのまま待っている事にした。


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