56 タックル
ガチャっと音がして、ドアが開いた。
間違いない、VRでエレベーターに乗っていた男の一人だ。
続く二人も、ほどなくしてドアから現れた。
オレ達は、ダンボールの影で息を潜めている。
運が良かったのだろうか。
男達はこちらには目もくれず、上り階段の方へ向かって行く。
そのまま、三人目が通り過ぎた。
現状、彼らはこちらに背を向けている。
不意討ちをするとしたら、チャンスは今だろう。
園池さんが、続いて亜衣ちゃんがダンボールの影から飛び出した。
一瞬躊躇したが、オレも物陰から飛び出す。
振り返る三人。
園池さんが、真ん中に居た鞄を持った男に、前蹴りを入れた。
185センチ位の『太った男』だったが、勢いで壁まで吹っ飛ぶ。
空手か何か習っているのかもしれないが、それにしても凄い威力のキックだ。
ほぼ同時に、亜衣ちゃんがスタンガンを持って、一番近くにいた『坊主頭』に襲い掛かった。
坊主頭は、かろうじて避けたが、尻餅をついて倒れこんだ。
亜衣ちゃんは追撃に出たが、もう一人の男に横から突き飛ばされる。
男達はよほど驚いたのか、まだ声も出していない。
オレは、まだ何もしていない。
物陰から出ては来たものの、咄嗟に攻撃する事が出来なかったのだ。
園池さんは太った男に、スタンガンを押し付けようとしてる。
太った男は、両手でそれを防ぐ。
ヤバイな、あれじゃ簡単に押し返される。
オレは手を貸す為に、前に進もうとした。
その時、尻餅を付いて倒れていた坊主頭が、ゆっくりと立ち上がった。
「何だ、てめぇら。」
坊主頭は、不振な物を見る目で、オレを眺めた。
相手が高校生位の男と知って落ち着いたのだろうか、目付きが変った。
不気味な、殺気が篭ったものだ。
「このクソガキ共、舐めんなよ!」
坊主頭が、凄い勢いで殴りかかってきた。
まるで、ボクサーのような動き、完璧なコンビネーションパンチだ。
オレは奇跡的に、全てのパンチをかわした。
どうしてそんな事が出来たのかは、わからない。
膝を曲げて屈み、連打最後の右フックパンチもなんとか避けた。
襲われたからだろうか、オレの覚悟も決まった。
その状態から、そのままタックルして坊主頭に飛びつく。
狙った以上の勢いがあり、タックルそのままの状態で、坊主頭は背中から壁に当たった。
結構な衝撃だったはずだが、坊主頭はまだ抵抗してくる。
揉み合って、園池さんと太った男の近く倒れこんだ。
たまたま、ちょうど、坊主頭に馬乗りのような状態になった。
これは、総合格闘技等でよく見る、マウントポジションというやつだ。
一対一の戦いでこうなれば普通は勝てる、といわれるような、オレに有利な状態だ。
しかし、だ。
《喧嘩屋》と呼ばれていた先輩が、「複数相手の喧嘩だと、マウントポジションなんてむしろ不利。」と言っていたのを思い出した。
今は格闘技の試合をやってる訳でも、一対一の喧嘩をしている訳でもない。
とにかく、早くコイツを倒さないと。
オレは坊主頭の胸を押さえ、顎をめがけて容赦なく思い切り殴った。
グシャッと嫌な音がして、坊主頭の力が抜ける。
当たり所が悪かったのだろう、顎の骨が折れたようだ。
坊主頭は気を失ったのか、すぐにピクリとも動かなくなった。
しかし、今はそんな事に構っている場合じゃない。
早く二人を助けなければ。
園池さんを見ると、どうにかして太った男にスタンガンを押し付けたようだ。
荒い息をしてしゃがみ込んでいるが、無事のようだ。
亜衣ちゃんは?




