52 ロッカー
小窓はかなり狭く、持っていたバッグが邪魔だったが、何とかねじ込むようにして中に入った。
警備室の中は、ゲームと寸分違わぬように結構広い。
そして、あの時のゲームと同じ様に、誰もいなかった。
オレの後に続いて、園池さんも中に入ろうとしている。
少なくとも、オレだけにおかしな事をやらせるつもりではないようだ。
安心して、園池さんに手を貸してあげた。
さらに、亜衣ちゃんも続けて入ってくる。
二人はスリムなので、結構スムーズに入れた。
中に入るとすぐに、二人は隠れるようにしゃがんだ。
オレも同じようにする。
どうやら、当分はコーヒーショップの打ち合わせ通りに進めるようだ。
これは予想外。
VRゲームと似たような事をやる可能性はあるとは思っていたが、あまりにも再現度が高い。
ちょっと気になる事がある。
いや、すごく気になる事と言っていい。
無茶苦茶、気になるぞ。
もしかして、マジであの警備員のおっさんが、ロッカーの中に居るんじゃね。
さすがにそれはないか。
見たい。
あぁ、超見たい。
どの場所のロッカーだったのかは、完全に覚えている。
あのロッカーだけでいいから、今すぐに開けたい。
……ゴメンなさい。
もう、我慢できません。
二人に怒られるかもしれないが、これ以上我慢したら身体に悪そう。
オレはまた、ベストを脱いで手に巻きつける。
しゃがんだまま、警備員のおっさんがいたロッカーの前に素早く移動した。
瞬時に立ち上がると、躊躇無くそのロッカーを開ける。
居た。
なんと、ゲームとそっくりの風貌で、同じように猿ぐつわをされている。
当然だが、息もある。
オレは即、ロッカーを閉めた。
警備員のおっさん、オレの為になにもそこまで完全再現しなくても。
ヘタすりゃ、これで出番終わりなのに。
フハ、と思わず少しだけ声を出して笑ってしまう。
ゲームの時も思ったが、どこかで見たことのある顔だ。
後ろから、足を叩かれた。
亜衣ちゃんが身を低くするように、手で指示している。
あわてて膝を曲げる。
園池さんと目が合ったが、呆れたような溜息をつかれた。
だって、見たかったんだもん。
唇に人差し指を当て、シー、とやられた。
この場合は『内緒だよ』じゃなくて『静かにしろ』だろうな。
いやー、しかしこれはスゲェ。
あの完璧な再現は、マジで笑える。




