04 面接
《何でも屋 時空管》は、五階建ての雑居ビルの二階にあった。
横にある看板に書いてあるのを確認できたから、間違いないだろう。
雑居ビルの一階部分がコンビニなのは、非常に便利そうだ。
複数の枠がある看板の、他の部分は空白だった。
空きが多いビルなのか、上階全てが時空管のスペースなのかはわからない。
コンビニ入り口の横に、隠れたようにある階段を登ればいいのだろう。
徒歩で駅から五分。
なかなか、地価の高そうな物件だ。
金回りは、良いのかもしれない。
オレの家から歩いて、八分程で到着した。
自転車でも十分はかかるオレの学校よりも、よほど近い。
それにしても、今日も暑い。
夏休みは、始まってまだ三日。
当分の間は、自由でクソ暑い日々が続く。
セミ共うるせぇぞ、静かにしろ。
バイトの面接、なんてのは初めてなので、少し緊張していた。
制服を着て、スクールバッグを持ってきたが、コレでよかったんだろうか。
バッグの中には、面接で使う履歴書・未成年同意書という書類等が入っている。
学校でアルバイトの許可を取るのは、なかなか大変だった。
あくまでも夏休みの小遣い欲しさにやるバイトで、家庭の生活が切羽詰ってる訳じゃないからだ。
色々と誤魔化しつつ、ではあったが、なんとかアルバイトをする許可を得る事が出来た。
十六歳の夏を、楽しく過ごしたいだけ。
バイトは、夏休みが終われば辞めるつもりだ。
長くやる気がないからこそ、知り合いの紹介や、友達と一緒のバイトは選択肢から外した。
何でも屋、という職業に思い入れがある訳でもない。
しかし、それでもヤッパリ少し緊張する。
履歴書ってアレで大丈夫かな。
意を決して、階段口に入ろうとした時だった。
「あっ、すみません……。」
セーラー服を来た少女が階段から降りてきて、ぶつかりそうになってしまった。
長い黒髪と整った顔、そして清潔そうな雰囲気。
色素が薄い感じというか、少し地味な印象もするが、かなりカワイイ。
《静城学園》という一駅先にある、良家の子女が通う中高一貫校の制服。
制服のスカーフ留めに『Ⅰ』と書いてあるから、たぶんオレと同学年の高校一年だろう。
「あ、あぁ、こっちこそゴメン。」
見とれてしまって、謝るのが遅れた。
共学だから女子は見慣れているが、美少女に見惚れてしまうのは、男子の性質みたいなものだ。
「あの、もしかして、あなたも《時空管》のアルバイトの方ですか?」
あなたもって事は、この娘は《時空管》でアルバイトをしてるのだろう。
こういう娘でも、バイトなんてするのか。
小遣いに困っていそうには見えない。
それにしても、本当に美少女というにふさわしい娘だ。
まだ面接まで時間もありそうだし、できればこの娘と会話していたい。
「オレは今日、その《時空管》のアルバイトの面接なんだ。もし受かったらよろしく。」
オレとしては、爽やかな笑顔で微笑んだつもりだ。
他人から見たら、キモいかもしれんが。
「そうなんですか……。よろしくお願いしますね……。」
美少女は口を歪めて、オレを憐れみのような目で見た。
えっ、もしかして、可哀想になるほどキモかったか。
「こ、ここのバイトはどう?」
「えっ……。大変です。普段は週末だけなんだけど、夏休みだから日数が多いし。でも、他のバイトではありえないような、貴重な体験ができますよ。」
なんだか、悲しそうな目だ。
「ハハ、なんだか怖くなってきたよ。」
「あぁ、ごめんなさい。面接に来たって事は、もう決まったも同然なのに怖がらせちゃって。怖い思いをするにしても、回数は少ないほうがいいですよね。はぁ……。」
何だ?
溜息をするような事があるのかな。
それになんで、そんなに怖い事がある前提なんだろ。
「代表者の山形さん以外は、みんな優しい人です。仲良くしてくださいね。」
なるほどね、その山形さんって人が怖いんだろうな。
「もちろん!初日から知り合いができて良かったよ。」
「あ、そろそろ二時になりますよ、これから面接ですよね?」
あぁ、そうだった!
「オレ、行くよ。それじゃ、またね!ホントよろしくぅ。」
「よろしく。」
初めて彼女は、少しだけ笑顔を見せた。
今の瞬間を写真にすれば、絶対に売れる。
オレが買うから。
名残惜しいが、急いで階段を駆け上がった。
あっ、そういや自己紹介しなかったな。
佐藤翔ですーって、ここから叫ぶ、のはダメだろうな。
ってか、あの娘の名前も聞き忘れてた!




