43 横浜駅
人生で、初の横浜駅だ。
何があるのか事前に調べた訳でもないが、特に驚く様な物はない。
朝とはいえ、夏真っ盛りで十分に暑い。
「まだ時間あるけど、どうする?……あ、カラオケやりながら、ミーティングしよう。」
園池さんは、何故かテンションが上がっているらしい。
すごく楽しそうです。
「ダメに決まってるでしょ。ちゃんと打ち合わせしないと。佐藤君は、初日なんだし。」
亜衣ちゃんは、ちょっと深刻な表情をしている。
「でもさ、人生最後の自由時間になるかもしれないんだから、楽しんどいた方がいいじゃん。」
あぁ、そうだった。
カワイイのに囲まれてて、つい忘れてたけど、ヤバイバイト中の身なんだった。
オレはもう、このバイトは普通じゃないと結論付けている。
もちろん今は、ルーキー用儀式でタイムマシン設定のコント中だ。
だからといって、それでこのバイト本来の異常さが消える訳じゃない。
スパイ育成は大袈裟だとしても、一般の会社が受けないような仕事を受注しているのだろう。
そう考えれば、契約書に途中退社希望者への脅しが書かれていたのも、納得できる。
死傷者の隠蔽にも触れられていたのだから、尚更だ。
「二人共、何回か来てるんだよね。今までは、時間が空いた時どうしてたの?」
素朴な疑問を口にしてみた。
「下見の時には時間指定はないから、すぐに現場に行ってたの。でも、今日はあんまり早く行き過ぎてもマズイから。」
なるほど、そういうもんだろうな。
「時間潰す場所、調べとけば良かった。なんか適当な店にでも入ろうよ。今日は交通費以外にも、お金預かってるんでしょ。エアコン効いてるとこに入ろう。」
園池さんは何かを探すように、亜衣ちゃんを覗き込んでいる。
「預かってるけど……。さっき会社でケーキ食べたでしょ。太るよ。」
「別に何か食べるなんて、言ってないじゃん。でも、折角横浜まで来たんだから、なんかスイーツとか、食べてもいいんじゃない?」
「そういうお店は、まだ開いてないと思いまーす。」
「そっかぁ。まだ九時前だった。早く起きすぎて時差ボケしてたよ。じゃ、帰りにしよう。」
「残念ですが、任務後の雑費使用は許可されていませーん。」
「最悪じゃん。じゃ、実費で食べてこう。」
「任務後は直帰する事、という指示が出てまーす。」
ガクっ、という感じで園池さんがうな垂れた。
ケーキ食べたって、オレへのパイ投げはどうするつもりなんだろ。
あ、ケーキはもうありません、っていう隙を突くための誤魔化しか。
「佐藤君は、ちゃんと朝ごはん食べてきた?」
「朝、焼きそばパン食ってきた。」
「最後の晩餐が焼きそばパンだったら、空しいねぇ。」
「……縁起が悪い事は、あまり言わないで欲しい。」
亜衣ちゃんの目付きは、かなり真剣だった。
さすがの園池さんも、少しの間黙ってしまった。




