40 諜報機関
「うーん、もう時間が無いね。いっそ、スパイ養成機関だと思っててくれた方がいいかな。」
うっ。
まさか、本当に思考を読まれてるのか……。
各国の諜報機関が、思考盗聴技術を研究してるって話があったな。
脳波を電波に変換するとかなんとか、ほとんどオカルトの部類だけど。
いや、落ち着けオレ。
捜査や尋問のプロは、表情だけで心を読むともいう。
そうだ、タマラさんは精神科の医者で、心理学のプロフェッショナルなのかもしれない。
でも、そんなプロがいるって、マジでここスパイ養成機関なんじゃ。
そういえば、日本もついに対外向け諜報機関を作るとか何とか、クラスの奴が言ってたぞ。
いやいや、オレはバイトに来ただけだ。
一般人高校生のオレが、バイト先でスパイ候補生に選らばれるなんてありえない。
あ、でもありえない様な事だからこそ、発覚しにくいって論理もある。
オレの事調べ上げてるみたいだったし。
それに、山形さんのあの一般人とは思えない雰囲気。
オレは黒歴史時代に、この地域のギャングもどきで一番有名な、《喧嘩屋》と呼ばれる先輩に付いて回っていた。
その関係で多くの危険そうな人々に会ったが、先輩よりも、という雰囲気の人は誰一人居なかった。
しかし、山形さんはあの人よりもずっと危険な感じだった。
やっぱりオレ、とんでもないバイトに来てしまったんじゃ……。
「確かにとんでもないバイトだけど、あんまり怖がられても困っちゃうな。これから現場に行って、任務に着いてもらうんだから。」
げ、また心を読まれた。
心理学者おそるべし。
これは、マジでスパイとか出来るレベル。
ここ、本当にスパイ養成所なんじゃ……。
そう考えると、色々と辻褄が合うぞ。
国家レベルの予算なら、ああいう凄い機械を用意するのだって楽勝だろう。
美少女が多いのも、色気で簡単に情報を聞き出す作戦の一環。
そういえば、ここで会った人はみんな美形だ。
山形さんもかなり女にモテそうだし、タマラさんも美人でセクシーだ。
ん、でもオレは……微妙だな。
やっぱ、勘違いか。
「お待たせぇ。」
「着替えてきました。」
園池さんと亜衣ちゃんだ。
二人は、この辺では見た事のない学校の制服へと着替えていた。
どういう事だろう。
「女の子の場合、制服で身元がわかるって思い込みで、疑われにくいからね。ファッションで制服を着るっていうのがあるから、知り合いに指定以外の制服でいる所を見られても、ある程度は誤魔化せる。男の子の場合、指定以外の制服を着てると、不自然に思われちゃうけどね。」
タマラさんの説明からして、完全に身元隠蔽工作だな。
これは、マジでスパイ紛いの事をやらされそうだ。
そもそも、何でも屋なんだから、興信所まがいの事をやるのは業務範囲内だろうし。
「佐藤君には、ベストとブーツが用意してあります。靴はここで預かっておくから、ブーツを履き終えたらベストを着て準備完了。」
タマラさんが指差す方を見ると、どこかで見覚えがあるベストとブーツがあった。
二つとも、あつらえた様にオレにピッタリだった。
「あなた達は候補生だけれども、既に時空管理局の一員です。自分達の未来を自分達の手で守って下さい。あなた達なら出来ます。では、行ってらっしゃい。」




