39 3Dプリンター
「スゲェ。3Dプリンターってオレ初めて見ましたよ。こんな早く作れる物なんですね。」
今さっき、ほんの二分ほどでヘアドライヤーが完成していた。
電源も入って使えた。
タマラさんは、ウンザリしたような表情だ。
「これは、転送装置なの。やりにくいなぁ。3Dプリンターってホントに嫌い。送り側の速度が速すぎて、3Dプリンターみたいに見えちゃうんだねぇ。」
転送装置こと3Dプリンターは、ビル三階の医務室スペースの奥にあった。
長さ二メートル直径一メートル位のカプセル室の中だ。
カプセル室は、ほとんどの部分が透明な素材で出来ている。
SF作品でよく見るデザインだが、本来の用途は酸素カプセルなのだろう。
読み取り側となるスキャナも、同じカプセル室の中にあるようだ。
タマラさんは医者らしいし、病院も兼ねているなら、この程度の設備は不思議じゃない。
「まぁ確かに、スキャンしたら元のが消えて、こっちに同じのが出来たんだから、間違ってません。これは本物です。これはスゲェ。正直オレ、《時空管》舐めてました。スンマセン。」
高性能の3Dプリンターは素材を変えることによって、プラスチックだけでなく金属加工やガラスの加工、果ては料理すら出来るとは聞いていた。
しかし、聞くと見るとでは大違いだ。
元のが一瞬で消えたのは何かの視覚的なトリックだろうが、そんな事はどうでもいい。
目の前で、まさに転送されたかのように、少しずつドライヤーがその姿を現したのだ。
このスピードで電化製品が作れるなら、まさに転送装置といっても差し支えないレベル。
業務用で一般人では買えない様な価格だろうけど、家にも欲しい。
完成品の単価も高いのかもしれないが、これは絶対、産業界に革命を起こす。
液体が含まれる物以外は、何でも3Dプリンターでコピーされてしまうだろう。
こんな物をもっている《時空管》は、絶対にスゴイ会社だ。
タマラさんが、指を鳴らしてオレを指差した。
「なるほどね、液体が含まれてればいいのか。ちょっと待ってて。」
タマラさんは、園池さんがジュースを入れていた冷蔵庫に向かった。
そういえば、飲み物の持込ありみたいだったな。
次回はオレも飲み物買って来て、冷蔵庫に入れさせてもらおう。
やっぱり、夏は冷えた飲み物を多めに用意して置いた方がいいしな。
タマラさんが持って来たのは、ペットボトルに入ったピーチ入りヨーグルト味の乳性飲料だった。
淡いピンクをしていて、パッケージが似たイチゴミルク味と間違えてしまう人も居る。
紛らわしい商品だ。
イチゴミルク味だと思って飲むと、ちょっと気持ち悪い。
「これが転送される所を見れば、少しは信じてもらえるかな。」
タマラさんは、ピーチ飲料をスキャナが入っている方のカプセル室に入れた。
やって見せるつもりなんだろうか。
いくら業務用の3Dプリンターでも、液体は無理だ。
どう考えても、無理な筈だ。
えっ?
何これ……。
オレの目の前にあるカプセルの中で、ペットボトルが底の方から組みあがっていく。
しかも、淡いピンク色の液体も、ペットボトルと同時に出現にしている!
これは、何だ?
CGか?
ガラス部分が液晶になってるのか?
いや、それじゃこのカプセルは湾曲してるから、斜めから見たら画像が歪む。
3Dレーザー動画でもないな、こんなリアルな表示はできない。
科学技術大好きなオレでさえ知らない、最先端技術。
未来の技術だ、と言われても大袈裟とは思えない。
「本当に未来の技術だからね。時空管理局のシャーマンは、自分の意識とは別に、タイムリープして来た意識や知識を持っているの。だから、こういう物を作る事も出来る。これで、信じてくれたかな。」
さすがにソレは無理ですよ、タマラさん。
しかし、スパイ養成機関だ、って言われたら信じてしまいそうなレベル。
こんな膨大な予算が要る最先端技術は、たとえ軍隊でも普通の部署じゃ使わないだろう。
『普通の会社』というレベルは、十分過ぎるほどに超えている。




