37 パイ投げ
オレはとんでもない事実に気が付いてしまった。
そんなバカな事は、ありえない。
そして、そのありえないような事から、導かれる結論。
それは……。
園池さんは朝飯用のケーキをコンビニで買った、と言っていた。
朝からケーキなんて、ありえない。
そして、今日はオレというルーキーの洗礼の日。
ルーキー洗礼の定番といえばパイ投げ。
そう、つまりそのケーキは、パイの代わりに、オレに投げる物なのだ!
「佐藤君、パイ投げはないから。」
おおっとタマラさん、頭を押さえているようですが、ご心配なく。
避ける、なんて真似はいたしません。
顔面で受け止めてみせますよ。
例えハエやカナブンが寄ってきても、半日ずっとクリームを付けたまま過ごしますよ。
それにしても、タマラさんの思考読みスゲェな。
「現在来日中のアメリカ大統領の暗殺。可能性があるのは、早くても今日の午前十時半、遅くても午前十一時。これが歴史の転換点となります。それを止めるのが、今回の任務に於ける最重要課題です。」
おっと、またゲームの話に戻ったか。
「これを阻止できないと、第三次大戦は止められません。あなた達がどうしても失敗しそうな場合は、私と山形さんで止めます。それでもダメなら、かなり強引な手を使って時空管理局の本隊が止めます。ただし、そうなった場合、私達も無事では済みません。」
「次に優先させるのは、実行犯とその護衛、三人の強化人間の確保。本来は生かして捕らえるのが基本ですが、今回の対象は生体の殆どを失ってアンドロイド化してしまっているので、生死は問いません。これが確保できないと、大きな歴史改変のリスクを抱え続ける事と成ります。つまり、あなた達の危機は深刻なままです。その次が、超時代的道具、強化人間が存在した証拠の隠滅、私達が関与した証拠の隠滅、と続きます。これらの失敗は大きなリスクではありませんが、憂慮すべきものです。」
ふーん、そういう設定になってたのか。
「瑠乃華ちゃんと亜衣ちゃんには、既に二回、現場の下見に行ってもらいました。すでに処理済みなので、監視カメラは気にしなくても大丈夫。ただし、こちらも監視カメラを使えなくなる可能性が高いので、アシスト情報は予測情報となります。今のビルの状況はこんな感じ。」
「うおっ!」
思わず、変な声が出てしまった。
たんなるホワイトボードだと思っていた物に、突如いくつもの動画が映し出されたからだ。
それも少し3Dっぽい動画で、タマラさんのタッチ操作によって移動していた。
映されているのは、ビルにある監視カメラの画像だろう。
ほとんど全ての場所に、見覚えがあった。
適性検査ゲームで、暗殺犯達と戦ったビルだ。
ホワイトボード型タッチパネル3Dモニター、しかも、音声制御で起動しやがった。
こんなもんまで用意してあるって事は、オレを本気で騙すつもりなんだな。
でも、この程度じゃ信じないぞ。
ゲームに出て来たような、転送措置でもあれば信じるけど。
「佐藤君には、後で転送装置を見てもらいます。その後で、もうちょっと踏み込んで思考を読んでみせます。あんまり怖がらせても良くないから、それで解決って事で。」
えっ、それは無理でしょ。
もしかして、オレは完全に術中に嵌ってるのか。
まぁ、ノリノリが目標だから、それでいいんだけど。




