11 カップル
「最初の敵は三人。無実の人間でも殺すような輩だ。容赦する必要はない。ハンドガンを所持しているが、全て鞄の中に厳重に隠し持っているから、すぐには発射できない。むしろ、工具類も入った鞄自体の方が武器として危険だ。三人のうち坊主頭の男は、格闘技の経験者だ。」
「三人は、九時二十五分十八秒に、向かって右のエレベーターで降りてくる。エレベーター内で全員処理して、そのまま最上階へ向かえ。繰り返すぞ、接触は九時二十五分十八秒、向かって右のエレベーターだ。アシスト情報右下に、小さく赤色で表示された時刻がそれだ。」
了解です、山形さん、どうぞ、と頭の中で呟く。
応答の基本を、忘れちゃいそうだからな。
目の前に表示されている緑色の時計を確認すると、九時二十三分六秒。
敵の到着は二分後か、結構時間に余裕があるゲームだな。
とりあえず、周囲の確認をしとくか。
キョロキョロしていると、左側のエレベーターが止まって若いカップルが降りてきた。
カップルは楽しげに何かを喋っているが、内容は良く聞こえない。
隠れろ、というのはこのカップルに、見られちゃあマズイという事だろう。
VRゲームとはいえ、マイクで音を拾っているので、息を殺して通り過ぎるのを待つ。
少し先で、カップルが止まった。
そして、二人は唇を……。
おいおい、勘弁してくれよ、いろんな意味で。
カップルが通り過ぎてから移動するつもりだったが、コレじゃ先にエレベーターの方が到着してしまいそうだ。
三人をエレベーター内で倒す、という事だから、不意打ちで瞬時に三人全員を倒すしかない。
という事は、エレベーターが開く時には、ドアのすぐ近くに潜んで居なくてはならない。
つまり、今すぐあっちに移動するべきって事だ。
それも、あのカップルに見付からないように……。
仕方が無いので、しゃがんだままエレベーターの近くまで移動した。
もし、この状態で見付かった場合は、完全な『不審者』扱いになるだろう。
まぁでも、こちら側は薄暗いので、向こうからは全く見えない可能性は高い。
とはいえ、エレベーターの中は当然ながら明るい。
カップルが居る場所から完全に視角になっている訳ではないので、ここから先は運だのみだ。
ドアが開いている時、カップルのどちらかがちょっとこっちを見たら、それだけで気付かれるだろう。
……どうにか目立たずに、エレベーターの近くまで来る事が出来たようだ。
おそらく、だが、カップルにも見られてはいない。
しゃがんだままで歩く男を見たら、なんらかのリアクションがあるだろうし。
エレベーターの表示のおかげで、このビルが、十階建てなのだという事が分かった。
そして、ここは地下の一階だ。
左のエレベーターは、カップルが降りてから、この地下一階に止まったままだった。
右のエレベーターは今一階、これから降りてくるのだろう。
カップルは、まだイチャイチャしている。




