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第9話

カジュアルなイタリアンレストランは、オープンしたてだからか、混み合っている。

高いものを注文する、と宣言していた清香だが、遠慮する気持ちの方が勝って、無難なコース料理を選んだ。


「清香ちゃんって、百々ももしろ女学院だったっけ?」

「そうですよ。中学校からずっと」

清香の通っていた学校は、地元では有名なお嬢様学校だ。

母も卒業生だからか、どうしても娘をそこに入学させたかったらしい。

「やっぱり、お嬢様が多いの?」

「そんなことないですよ。うちも親の見栄で入っただけですし」

高校生になってからは式典の日以外は私服でも良かったから、割とラフな感じだ。

それに、本物のお嬢様とは話が噛み合わず、高校から入った子たちとの方が仲が良かった。

清香がそう話すと、由比も自分の学生時代の話をしだす。

「そうそう、懐かしいな。百々女の高校の制服を見るのってレアだからさ、始業式とかの日は早めに家を出て駅で待ち伏せしてる奴らとかいたなぁ」

そういえば、制服で通学する日は電車が混んでいた。

そんな理由があったとは。

「由比さんも待ち伏せしたクチですか?」

「いやぁ…1回だけね」

首を掻きながら、恥ずかしそうに答えた。


こういうことをアルコールの力を借りなくても言えたら良いのに…

そっとため息を漏らすと、それに気付いたように由比が声を掛ける。

「どうした?疲れた?」

本当に心配そうに見るので、咄嗟に理由を取り繕う。

「もう、お腹一杯で」

お腹に手を当てて、それらしく言うと、由比も信じたようだ。

「結構、量あったね。あ、でも、あとデザートだけみたいだよ」

メニューを広げて、清香に渡す。

「じゃぁ、がんばって食べます」

そう言って、ワインを口に含んだ。



「今日は、急にごめんね」

店を出たところで、改まった様子で言われたので、清香もつられる。

「とんでもないです。ご馳走になってしまって…ありがとうございました」

リハビリのようなものと思ってついていったが、由比との食事は案外と楽しいものだった。

「あ、そうだ。私、谷中さんから預かり物があったんでした」


食事に誘われたことを礼子に話したら、どこかからそれを持ってきた。

『由比さんがねぇ…』というにやけ顔で渡された紙袋には、セロハンテープで封をしてあるので、中身が気になったが開けられない。

「礼子さんから?なんだろ?」

由比は怪訝な顔をしてそれを受け取ると、がさがさと中身を確かめる。


・・・


取り出そうとした手が止まり、清香の顔と紙袋とを何度も見比べる。

「どうしたんですか?何だったんですか、プレゼントって」

清香が不思議に思って、手を伸ばそうとすると、由比がそれをさえぎって紙袋を中身ごと握り潰した。

「あ!」

残念そうな清香に、由比が引きつった笑い顔で言った。

「ゴミだった」

近くにあるコンビニに歩いていくと、ゴミ箱に突っ込む。

『ガキか!』という呟きと共に。



+++++++++++++++



「それは、やっぱりアレでしょう」

苦笑いで真奈と万里子は目を見合わせる。

あの後、由比も礼子も教えてくれなかったので、二人に聞くことにしたのだ。

こんな無邪気な子には言いにくいわ、と言いながら、真奈が清香に耳打ちする。

「…っ!」

その言葉で、由比の行動に納得が言った。

「谷中さん、何考えてんの〜」

恥ずかしすぎる。

「その由比さんって人も可哀想だよね。清香にそんなもの…」

万里子は言葉が言い終えないうちに笑い崩れる。

「私の方が被害者だよ!何にも知らずに渡して。しかも、捨てられて残念そうにしちゃったし」

そこで、真奈も一緒にお腹を抱えて笑う。

ひどい、と呟いて、カフェの机に額をつけた。


「なんか楽しそうだね」

万里子の彼氏の修一が、龍平たちとやってきた。

今日は、万里子の大学の友人・耕司のライブだった。

「修、聞いてよ…清香が…」

「万里子、ダメ!」

真っ赤になって慌てる清香に、また二人は爆笑する。


「で、落ち着いた?」

2分くらいは笑い続けていた二人に、龍平が呆れた顔で言う。

まだ、苦しそうに首だけで返事をする。

二人が喋れない間、清香が当たり障りの無いように『恥ずかしい失敗をした』と説明したのだが、その様子がまた笑いを誘ったらしい。

恨みを込めて、真奈と万里子を睨むと、片手で拝むような仕草を向けた。



ロックにも色々あるんだ。

正しくは、種類があるのは知っていたが、どういうものか知らなかったのだが。

真奈たちのは、清香にとって聴きやすいポップな感じだった。

今日のは違う。

お腹の底に響くような大音量。

全身から搾り出すように奏でる音楽。

心の中のモヤモヤも吹き飛ばすくらいの勢い。

呆然と聴いていると、万里子が心配そうな顔を向ける。

清香は、大丈夫、と指でマルを作って見せた。



まだ耳が痛い。両耳を手で何度も押していると、龍平が言った。

「前野さん、意外と激しい曲も好きみたいだね」

「そうみたい」

彼と喋ると、電車の中でのことを思い出してしまって、あの時触れられた腕が落ち着かない。

清香は、心の中で『大丈夫』と呟くと、手首を後ろで掴む。

「真奈は、すっごい楽しそうだったよねー」

上ずりそうな声を、どうにか抑えて、真奈に振った。

「うん。今、思いっきり歌いたい気分!」

目を輝かせて、清香の手を取ると、鼻歌を歌いだす。


「…じゃぁ、カラオケ行こっか?」

清香の提案に、真奈がすぐに頷く。


今回は少し早めに更新できました〜

読んでくださっている方、本当に感謝感激でございます。

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