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第7話

一言も交わさないまま、謝恩会へと向かう。

並んで歩く愛子をチラリと横目で見ると、相変わらず、無表情に前をまっすぐ見つめている。

そんな彼女を、なんだか怖くさえ思う。


「…ねぇ、どうだっだの?皆に囲まれちゃってたし…大丈夫?」

沈黙に耐え切れず、ついに口を開いた。

いつもと違う空気に、どうしても遠慮がちになってしまう。


睫毛を震わせると、彼女がこちらを向く。

「うん。あとで、ね」

そう言って、前の方にいた母親の方へ駆け寄った。

残された清香は、一人とぼとぼ歩き出した。


もうどうすればいいのかわからない。

愛子とは結局気まずい雰囲気だし。

岩田には告白されるし…

そして、なぜかユウは機嫌がいいし。


そう、先ほど見た彼は、愛子とはまるで正反対の表情だった。

だから、どうしていいかわからない。

2人を祝福すればいいのか。

それとも、愛子を慰めればいいのか。

どちらにしても、清香自身の気持ちは封印すると決めていた。


それなのに・・・

胸がチクチクする。


謝恩会の会場であるレストランについても、清香は落ち着かなかった。

隣の席にいた母親は、いつの間にか他のお母さんたちと一緒に固まっている。

もともと、保護者のための集まりみたいなものだし、しょうがないか。

普段なら自分も友達の所にいくのだが、今日ばかりはそんな気分になれない。

「清香」

ユウが向かいに座った。

「知ってたのか…?」

何のこととは言わないが、愛子のことだとわかった。

一応、気を使っているみたいだ。

「うん。この前聞いたから」

「ふーん」

手に持ったジュースを啜る。

「ビックリだよな〜。あの学年一の美少女が」

嬉しそうな口調でユウが言う。

視線を感じて顔を上げると、愛子がこちらを見ていた。

居心地が悪い。

声を掛けようと口を開こうとすると、ふいと顔を逸らされた。


なんで?

清香の気持ちに気付いたとか…


愛子の態度の理由がわからない。


「ねぇ。それで、どうなったの?」

愛子からはまだ聞けそうにないので、小声でユウに問いかけた。

聞いたほうがいい。

聞いたら気持ちをすっきりできるかもしれない。

「え?三井から聞いてないの?」

つられて彼も小声になるが、目がきょろきょろしている。

「だって…なんでかわかんないけど機嫌悪いし」

そう言って愛子の方をチラリとみる。

ユウも彼女の表情を振り返って見て納得したのか、軽く息を吐き出した。

「うん…」

続きを待つが、なかなか言葉が続かない。

「…付き合うことにした」


・・・

自分で決めたことなのに、封印するって。


机の下で握り締めた手に力を込めると、平静を装う。

「へぇ、愛ちゃんのこと好きだったんだ?」

結局、清香も岩田も勘違いだったんじゃないか。

そう思うと、少し皮肉めいた口調になってしまう。

「好きって…正直わからんけど、お試しで良いっていうからさ」

"お試し"でうまくいくのかは疑問だけど、愛子の望みが叶ったのだから、いいのか。

大丈夫、どうせもう皆と会わないのだし、忘れられる。

きっと。


「で、なんで愛ちゃんがああなるわけ?」

うまくいったなら、もっと機嫌が良くて然りなのに。

「なんでだろうね。俺、別に変なこと言ってないつもりだけど」

首をかしげながら、愛子に対して言ったことを連ねていく。

清香はそれを複雑な思いで聞いていたが、聞いているうちに理由がわかってきた。

返事を貰って喜ぶ愛子に『今度映画に行こう』と誘われたユウは、清香と一緒なら、と言ったらしい。

「それは、愛ちゃんも怒るよ」

「え、なんで?」

ユウは眉を顰める。

「だってそれ、初デートってことでしょ?なんで私がのこのこ付いていかなくちゃいけないの」

ため息が出る。愛子はこれから苦労しそうだ、と思う。


「お前最悪だな〜」

今の話を聞いていたのか、岩田が来て、清香の隣に座る。

「なんだよ」

「だって、出来たばっかりの彼女に他の女の子の話って…」

清香もそれに同意して頷く。

「清香じゃん。女の子じゃないよなぁ」

軽く言われたその言葉に、"忘れなきゃ"という努力も意味をなさなくなった。

急激に頭が冷えていく。

「それはどうも」

涙こそ出なかったが、口の端がつり上がる。

岩田が冷えていく空気を察したのか、心配そうに清香を見る。


呼び捨てにするのは男の子扱いしてただけってわけ?

特別みたいで嬉しかったのに。


「あ〜、ユウ!さっそくウワキかよ?」

あちこちのテーブルを移動してた男の子の集団が、ユウを見つけて言った。

それが、イライラに火を点けた。

「はぁ?違うよ。お前らどっか行けよ」

彼は、からかわれながらも、どこか嬉しそうだ。

「大丈夫?」

岩田が小声で声を掛けるが、気持ちはおさまらない。

「…うん。私、もう帰るわ」

短気な性格を自覚してるので、この場は逃げておいた方がいいだろう。

自分でも何を言ってしまうかわからない。

「なんだよ、岩田は前野とデキてるのか」

先ほどの男の子が今度は、清香たちをからかう。


こんなことなんでもないのに。

いつもだったら、笑って流せるのに。

今日はそれが出来そうに無い。


「ばっかじゃないの」

睨みつけて言うと、一瞬、周りが静かになった。

「…こっえ〜。前野って、やっぱり女じゃねぇよな〜。男になった方がいいんじゃない?ケンカしたら、俺負けそう」

その発言に数人が笑う、清香はついにキレた。

自分のカバンを掴むと、その男の子の前に行き、手を振り上げる。


やっちゃった、と思った瞬間、岩田の手によってそれは止められた。

「なにやってんだよ。ユウ、笑ってんじゃない」

友達だったら笑わないで欲しかった。


行き場を無くした手は、力なく垂れ下がった。



一応、『苦い思い出編』はこれで終わりです。

やっと本題のお話に戻れます!

次回は、6/8くらいまでに…

あくまでも予定ですが。

こんなお話を読んでくださってる方、本当にありがとうございます。

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