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第2話

待ち合わせの駅に行くと、万里子はいつも通りのラフな格好で待っていた。

高校生時代と違うのは、背が高いことを気にして嫌がっていた、ヒールの高い靴をを履くようになったことくらいか。

「ライブハウスに行くの初めてなんだけど、万里子行ったことあるの?」

「私?何回かね。大学の子に無理やりチケット押し付けられてさ〜」

3人の中では万里子だけが4年制大学に進んだので、まだ学生だった。


++++++++++++++


早めに待ち合わせしていたので、近くのカフェでお茶をしていると、万里子が目をきらめかせて言った。

「今日は、清香を応援する日なんだって?」

この前の話をメールしたので、興味津々といった様子だ。

「うっ…カレシ持ちはいいなぁ」

高校時代は部活のバスケ一筋だったくせに、大学に入った途端、ちゃっかり彼氏ができたと報告があった。

「羨ましいでしょ?」

確かに羨ましい。彼氏がいることというよりは、ちょっと大人っぽくキレイになったことが。

「だけどさ、そういうことは私にも話してくれないと。寂しいなぁ」

頬杖をついて、万里子が言った。

「いや、あの日はちょっと・・・従姉が結婚するっていう話を聞いたばっかりだったからさ」

1歳しか違わないから、嫌でも自分と比べてしまう。


「でも、職場がいくらオジサンばっかりって言っても、男はいるじゃん?話ちゃんとできるの?」

万里子の彼氏に紹介された時に、全然喋れなかったのを思い出したらしい。

「だって、オジサンだったら、自分の父親と思って喋ればいいし」

本当のところ、最初は全然喋れなかった。入社して約1年、やっと慣れたところなのだ。

「ふーん。同世代の男の子だって、兄弟と思って喋れば…って清香は一人っ子か」

万里子には弟、真奈には兄がいるが、清香にはいない。

そのうえ、近所はお年寄りばかりで近所で一番年が近いのは3つ年上の女の子だった。

自分から合コンの誘いを断ってきたので、環境のせいにするつもりは無いが、やっぱり少しはそれに原因があるんじゃないかと思ってしまう。


++++++++++++++


真奈達の出番は2番目らしい。

最初のバンドの演奏はまだ始まっていなかったが、そこそこに人が入っていた。

「波川さん」

万里子を呼ぶ声の方に目を遣ると、数人の男女が固まって、二人を見ていた。

真奈に数枚チケットを押し付けられ、それを買ってくれた大学の友達だと万里子が教えてくれた。その中には例の彼氏もいる。

清香は一応会釈するが、男の子がいるというだけで身構えてしまう。

「清香、みんなで一緒に聴こうよ」

笑顔ではあるが、ちょっと目が怖い。

半強制じゃない。

ブツブツと小声で文句を言うと、万里子に腕をつかまれる。

「ちょっとは前向きにいかないと。普通に女の子と喋るみたいでいいんだからさ」

喋るのが無理なら、せめて笑顔でいてと念を押されて、みんなが集まる場所へ向かった。



ムリムリムリ・・・


自分の笑顔が引きつっているのがわかる。

ライブ始まる前からこんなに疲れてるなんて、もう帰りたい。

そんなことを考えていたら、万里子に隣から腕を軽く抓られた。

逃がさないよ、と目で釘を刺される。

確かに。せめて真奈の聴き終わるまではがんばらなくちゃ。

小さくため息をついて顔を上げた。

もう、ヤケクソだ。


「大丈夫?気分悪いんだったら無理しない方がいいよ」

隣にいた男の子が気遣ってくれる。いい人かも。

最初に見たときは女の子だと思ったのだが、違ったらしい。

声はしっかり男の子だ。

でも、目がパッチリしていて私よりもカワイイ、と清香は内心羨ましく思う。

「大丈夫。ちょっと人が多いから…」

意外と普通に答えられた。

いつもなら声が上ずってしまうのに。

やればできるじゃん。

腹をくくったのが良かったのかな。

一人喜んでいると、さらにその子が話しかけた。

「ライブ初めてなの?」

「うん。真奈がバンドやらなきゃ、一生来なかったかも」

その男の子・井上龍平は当分話す気なのか、体を少し清香に向ける。

「結構楽しいもんだよ。俺も、アイツがバンドやってるから行くようになったんだけど」

そう言って、斜め前のガッチリした体型の男の子を指す。

「前野さんも今度おいでよ、波川さんと。」

龍平と清香の話に乗じて、指された男の子が言った。

「うん、そうする」

1対1じゃなきゃ、平気なのかもしれない。

自然に会話が出来ていることが嬉しくて、思わず素直に返事していた。



真奈達のライブは最高だった。

歌もうまいけど、真奈自身が楽しそうにしているので、清香までそれが伝わってくる。

緊張している、とメールでは書いてあったけど、全然感じさせないくらい落ち着いていた。


「真奈、すごいね〜」

終わってから、隣の万里子にこそっと話しかける。

「うん、ここまで良いとは思わなかった。っていうか、真奈が人に合わせられるなんて」

それは言える。3人で遊びに行っても、いつの間にか一人で違う所にいたりする。自分でも団体行動は苦手だって言っていたくらいだ。


「私もがんばらなくちゃ」

清香が呟くと、万里子はにっこりして言った。

「清香はがんばってるよ。さっきは無理強いしちゃって悪かった」

そんなことない。

万里子や真奈が無理やりにでも背を押してくれないと、話なんて出来なかったんだから。

「ありがとね」

真奈みたいに、思っていること全部は言えないけど…

微笑むと、万里子も笑った。


「そこ〜何、二人の世界作ってんの!」

万里子の彼氏が茶化して言う。

「ヤキモチ?」

万里子の腕に自分の腕を絡める。

悩んでいたのが嘘みたいに自然に言葉が出る。



嬉しい…嬉しい…

自分の心臓の音がまだドキドキいっているのがわかる。


興奮が収まらなくて、その日はなかなか寝付ず、寝返りを繰り返した。



2話目も読んでくれて、ありがとうございます。

次話は、そろそろ"憧れの君"を出す予定です。

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