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第1話

あの人が来た。

もう、声を聴けばわかるようになってしまった。

ささいな言葉も聞き逃さないように、背後に意識が集中する。


清香さやかは平静を保って、仕事を続けた。

扉に背を向けて座る席なので、わざわざ振り返ることも出来ない。

そんなことしたら、彼に興味があることがバレバレで、気まずい思いをするのは確実だ。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



中学校から短大まで女の園で育ったから、男に免疫もない。

気が付いたら、21のこの年まで彼氏もいないままだった。


就職したら、同僚とか優しい上司とか…漠然と、出会いがあるのだと思っていた。

しかし、入ったのは平均年齢40才の中年ばかりが働く地元の中小企業だった。


4月に合わせて髪形変えたのに…

美脚に見えるストッキングとかはいてきたのに…


わずかばかりのオシャレも空しく、今では通勤時間のいい男ウォッチングだけがささやかな楽しみとなっている。



「真奈ぁ、どうしよう?このままじゃ40になってもカレシできないよ。きっと、お見合いとかで妥協して結婚するんだ〜」

久しぶりに会った、高校の友達・真奈は気の置けない友達だ。何でも話できる。

「あんた、お見合いをバカにするんじゃないよ。うちの親も見合い結婚だけど、めちゃくちゃ仲いいし」

清香だってお見合いが悪いとは言ってないけど、恋ぐらいしたい。

ため息をついて、アイスティをぐるぐるとかき混ぜた。


「っていうか清香、恋愛に興味ないんじゃなかったの?メンドクサイ〜とか言ってさ。」

そう。今まで真奈が合コンに連れて行こうとする度に断ってきた。

なにを話していいかわからないし、ギラギラした女の子たちにも付いていけない。

「そうなんだけど」


声も掛けられないあの人。

声を掛ける勇気が欲しい。

変わりたい。


「・・・まぁ、アタシとしては嬉しいけどね。やっぱり彼氏って大事だと思うよ。大好きな親友には幸せになってほしーし」

真奈はにっこり笑った。

こんな照れる言葉もさらっと言えてしまうところが、彼女の好きなところのひとつだ。


「そこで、真奈様にオネガイ!」

手をお祈りするみたいに組むと、わざと上目遣いで言う。

ちょっとした遊びを仕掛ける。

最近はぶりっ子風が二人の間のブームなのだ。


真奈はプッと噴出すと、ケータイを取り出して友人に向ける。

「あんた、そのポーズ似合いすぎ。もうちょっと首傾げてみてよ」

取った写真を見て二人で笑った。

我ながら、なかなかの演技力だ。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「で、お願いって?」

ひとしきり笑った後、なみだ目で真奈が尋ねた。

「えーっと・・・。私、カレシ作るとか以前に、男の子とちゃんと喋ったことなくて」

ついつい言葉が尻すぼみになる。

チラッと向かいを確認する。


あ、良かった。ちゃんと真面目に聞いてくれる。


真奈の表情に安心すると、続きを話すことにする。


「ほらっ、私、中学校からずっと女子校だったし」

ちゃんと、小学生の時に初恋はしたことあるけどね、と慌てて付け加える。

「ま、しょうがないか。うちの学校、おじいちゃんの先生ばっかりだったしね。

けど、そこからか〜」

彼女は考えるように、天井を見あげた。

「アタシはてっきり、オトコ紹介してって言うんだと思った」

良さそうな奴を頭の中でピックアップしてたんだけど、と続けて言う。

「そこまでのレベルにも達してないんだよ〜。今どきの中学生よりもひどいかも」

普通に、手をつないで帰ったりしているのをみると、清香は少々落ち込んでしまう。

「だからまずは、真奈に、モテそうな服とか教えてもらおうと思って…ちょっとは勇気が出るかもしれないし」


「よし、わかった。そんなお子ちゃまなキミには、これだ!」

意外に早く帰ってきた言葉とともに、バッグから紙切れを取り出して、それを清香に渡した。

「なに、これ?」

もらった紙はライブのチケットのようだ。

「実は、今日はもともとこれに誘おうと思ってたんだよね」

にやっと笑って、チケットの文字を指先で示す。

「これ、アタシの会社の人とやってるバンド。ボーカルやってるんだ」

思わず、口がポカンと開いてしまう。

歌うまいし、ギター弾けるのも知ってたけど。

「バンドやってるなんて、初耳だよ。なんで教えてくれないの〜?しかもライブやれるくらいなんて」

「だって、清香の驚く顔おもしろいんだもん」

そういえば、前からそうだった。わざと、物陰から飛び出して声掛けたり。

「まぁまぁ、そんなにむくれないで。万里子も誘うしさ。まずは男の子がいる場所に慣れないとね」

不安はあったが、高校でのもう一人の名前がでたことで、楽しみに変わっていた。

「万里子も一緒だったら安心かも」

そう言って、貰ったチケットを目の前にかざして見た。




ここまで読んでくださってありがとうございます。第2章もがんばります☆

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