警視ジャヴェルの手帳
マドレーヌなる人物にはだまされてはならない。奴は何か後ろ暗いことがある。法律で、裁かれるような。かつて卑しき子として牢獄で生まれ、そして厳格、規律、清廉の力を信じ警察に入ったこの俺の嗅覚が、奴からぷんぷんする隠し事のにおいを嗅ぎつけてる。犯罪者どもは俺のことを犬と呼ぶが、なるほど嗅ぎつけることにおいては警察犬にだって負けるものか。
当たり前のことだが、国家に属するものは上から下まで清廉でなければならない。奴からは、市長なのにもかかわらず汚いにおいがする。
俺は、犯罪者どもを、まったく社会に用をなさないウジ虫どもを、みなとっ捕まえてやる義務がある。刑罰をなすの権利、つまり刑罰を定めるの権利は、人間の作った法則が持っている。そうして国家に忠誠をつくし、監視することが俺の義務であり、人生だ。
それにしてもマドレーヌ市長とやらは全く怪しい。第一に、奴は男女の工場を分け、学校を分けた!そうして言う、「風俗が乱れるから」と!我がフランスの法律はそのようなことを認めるだろうか!男が人を殺せば死刑!女が人を殺せば死刑!そこに変わりなどないではないか!風俗を乱す、ならば不貞は等しく裁けばよろしい、それこそが私の、そして警察の、すなわち法律の役割である。法律の下に犯罪者は男女変わらず裁かれそうでない市民は男女変わらず守られる。それこそが政治家や警察のいる意義ではないか!奴とて市長様ならば政治家だろう、ならば法律の下にいるべきだのに、奴は清廉、つまり神の法の下にいる。
そうしてまた第二に、奴のあの怪力!フォーシュルヴァン爺さんというのが馬車の下敷きになったとき、大勢の人がいた。しかし誰も馬車を持ち上げられなかったのを、奴は一人で持ち上げてしまった!あのような怪力の持ち主を、私は一人しか知らない。かつて起重機のジャンと呼ばれた、ジャン・ヴァルジャンだ。あの元囚人とマドレーヌ市長というのは、何やらどうにも似ている気がする。
とにかく、あのマドレーヌというのが尻尾を出すまで、見張っていなければなるまい。