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始まりの花~正妃レイナの回想~中編

本日2話目ですm(_ _)m

「レイナ、僕の手を取って」

「……はい」

 

 住み慣れた家を離れ、ガラクシアスの里に移住する。ゼロ達が一緒とはいえ、胸がドキドキした。私が知っているのは、ルベウスとアイリス、ゼロだけのとても小さな世界。里の集団生活に馴染めるか、受け入れてもらえるか不安だったの。


「ガラクシアス、お帰り~」

 ガラクシアスは寄ってくる子供達に揉みくちゃにされているが、私達は敬遠されてしまった……。挨拶をしようにも、目も合わせてもらえなくて、私は途方に暮れる。

「きっと君達があまりにも煌びやかだから、恥ずかしがって近寄れないんだ。皆、このお姫様みたいな子が僕のお嫁さんのレイナだよ。ほら、挨拶をして」


 ガラクシアスに促されても皆戸惑うばかりで、歓迎されていないのがわかった。気まずい空気が流れたけど、意を決したのか、一人の女の子が進み出る。

「……あの」

 5歳くらいの幼い女の子は、もじもじしながら私のスカートを引いた。


「わたしは、メイよ。ソーリスの里へ、ようこそ、おひめ様!」

 顔を真っ赤にして、とても可愛い。その子から感じる紛れもない好意のおかげで、気持ちが軽くなったわ。私は屈んで女の子・メイに視線を合わせる。

「初めまして、私はレイナよ。こっちは弟のゼロに、優しいお母さんのアイリス。この怖い顔の人は、私のお父さんのルベウスよ。怖いのは顔だけで、とても頼もしいから皆を守ってくれるわ。これからよろしくね」

「うん!」


 その子を切っ掛けに、遠巻きにしていた子達も少しずつだけど話しかけてくれるようになったわ。

「ごめんね、いつもはもっと気の良い奴らなんだよ? 慣れたらきっと、君達を受け入れてくれるから」

「分かってるわ。私も、仲良くしてもらえるように、頑張るね」

 ガラクシアスと会話していると、不意に鋭い視線を感じた。


「どうしたレイナ。何か気に障る事でもあったか?」

 里の人の態度にピリピリしていたルベウスが尋ねる。これ以上刺激したくなくて、私は何でも無いと首を振った。

 離れた所で様子を伺っていた少女の中の一人が、一瞬だけど私を睨んでいたような気がしたけど……気のせいよね。


◁◁◁◁◁


 ……今思い返すと、身悶えするほど恥ずかしい。

 無垢と言えば聞こえはいいけど、ただ何も知らない“お姫様”だった私。人と関わっていなかったせいで、悪意に疎かったの。迫害を経験した里の人達が余所者を警戒するのは当然なのに、よそよそしい態度に傷付くばかりで、相手への配慮に欠けていた……。


 あの頃から比べて、沢山の出会いや拒絶を経験した。私は変わったわ。少なくとも、『守られてばかりのお姫様』は、もういないのよ。


 今ではすっかり打ち解けて、代わる代わる見舞いに訪れる里の人達や、甲斐甲斐しく私を世話してくれる、ラクリマの同族達がその証だ。


◁◁◁◁◁


「レイナ、僕の手を取って」

 夫婦になる前、ガラクシアスは逢瀬の度に、そう言って私を外の世界に連れ出してくれた。私の体に障らないよう、短時間の外出だったけど、沢山の綺麗な物をガラクシアスは見せてくれたね。

 ……でも、これから向かうのは楽しい旅行なんかじゃない、命懸けの交渉の場だ。古代竜エンシェントドラゴンが住む遺跡に、鬼族オーガが暮らす荒野、排他的なエルフの里など、決して人が立ち入らない禁域。綺麗なだけではない世界の裏側も、ガラクシアスが教えてくれたの。



『……小娘が戯言をほざくな。ここから、出て行けっ!!』

「いいえ、出て行きません。私達は戦に貴方を……古代竜を利用するつもりはない。ただ、人と異種族が手を取り合える世界を作りたいだけなのです!」


 炎の精霊王であるルベウスや、有翼人の長のアイリスを引き連れていては誠意が足りない。相手も、その場では従っても警戒を解かないわ。

 信頼を得るためにも、ガラクシアスには近くで待機してもらい、私は大抵一人で異種族達に対峙していた。覚悟はしていたけど、小山のような竜に睨まれれば身が竦む。古代竜は、ただの竜にはない高い知能を誇るが、とても気性が荒いのだ。


 鋭い槍のような爪や牙は、一瞬で私の命を散らすだろう。ラクリマの恩恵があるからといって、殺されないとも限らないし、地の底から響くような声や拒絶の言葉は単純に怖い。でも、ガラクシアスのために、逃げるわけにはいかない。私は歯を食いしばって恐怖に耐えた。




 ガラクシアスが王を名乗り、ソーリスの里は小国として新たなスタートを迎えた。アイリスの知識やルベウスの鉄壁の守りで何とか国としての体裁は保っているけど、戦好きなルークスは虎視眈々と私達の国を狙っている。


 ガラクシアスの方針で、極力戦争をせずに領土を広げるために、まずは私達は未開の地を縄張りにする異種族と同盟を組もうとしていた。

 最初に、異種族の領土。次にソーリスのように孤立した集落を統合し、根っ子を伸ばすように、順に国を取り込んで行こうというのだ。だけど簡単に仲間になってくれる者もいれば、徹底的に抗う者もいて、初手から交渉は難航したわ。


 ……でも、諦めるわけにはいかない。私には思惑があった。例え私がいなくなっても、ガラクシアスを支えてくれる頼もしい味方が欲しかったの。

 ルベウス達を見れば分かると思うけど、異種族は情が深く、親しくなった人を裏切らない。ガラクシアスを王として認めてもらえたら、交流は長く続くはず。そのために私は交渉に赴く。なり振りなんて、構ってられないわ!


 何度追い払われても私は諦めず、ゼロの協力もあって、徐々に味方は増えていったわ。手を出さずとも見守ってくれるルベウス達の気持ちも嬉しかった。守られるだけだった私にも、出来る事があったのね。


「我らエルフはすでに貴女の同胞を守ると誓った。申し訳ないが、貴女の王に協力する事は出来ない。帰ってくれ」

 同盟を求めに行った先で、他のラクリマを理由に断られる事もあった。こうなると厄介で、先に縁を結んだ方が優先されるから、同胞であるラクリマごと取りこまなくては行けない。


 ラクリマは、気高い、誇り高いと称される一族。利用されるのを嫌い、策略・謀略なんて以ての外。同族の私が言うのも何だけど、異種族よりも骨の折れる交渉相手だ。……私達の本当の両親だって、権力者に捕まっても命令に従わず、拷問の末に殺されてしまったもの。


「異種族との共存共栄は私達ラクリマの悲願よ。だけど、守られ、囲われているだけでは何も変わらないわ。……私もそうだった。でもね、ガラクシアスは何も知らない私に、外の世界を見せてくれたのよ。一緒に平和な世界を作りましょう」

 ガラクシアスが示した理想は、いつしか私の夢に変わった。ラクリマもルークスも異種族も隔たりなく、平和に手を取り合える未来を私も見てみたいと思ったの。心からの言葉だからこそ、相手にも届くのだわ。


 綱渡りのような日々が続いたけど、順応の早さはラクリマの特徴よ。精神的、肉体的なプレッシャーで寝込む回数も減っていった。最初こそ邪険にされ、散々脅されたけど、異種族は良き友となった。ラクリマの皆も優しくて、後の方はよく手助けしてくれたわ。ルベウス達しか知らない、狭かった私の世界が、沢山の知識や仲間で満たされていく。


 …………それでも、全てが順風満帆とはいかなかった。




 ルリの花にあやかった、深い蒼色ブルーのドレスに袖を通す。ドレスに白銀の糸で施された刺繍、特徴のある六枚の菱形の花びらはハリの花の意匠で、私のトレードマークだ。

 淡い金髪は既婚者らしく結い上げて、パピの花の生花と青玉サファイアで飾る。……ゴテゴテしたドレスは好きじゃないわ。本当は昔のように動き安いワンピースを着たいけど、一国の王妃がそんな恰好では舐められてしまうもの。


「あの青白い肌に、生気の薄い瑠璃色の瞳。まるで氷みたいね……。王様はあんなにお優しそうなのに、不釣り合いじゃない?」

「また陛下の政策にケチつけたって。政治家気取りなのかしら?」

「しっ! 正妃様の怖~い取り巻きに聞こえるわよ」


 国が大きくなれば、移住する者も増える。それは好意的な人ばかりではなかった。私は常に異種族を従えるせいで怯えられ、いつしか“雪の女王”と呼ばれるようになっていた。……共存は、一方だけでは成り立たないわ。異種族だけでなく、人間との関係も強化しないといけない。


 頭を悩ませている私の元へ、ガラクシアスが数人の女性を連れて来た。

「レイナ。君のおかげで異種族との関係は良好だけど、反発する人間も多い。そこでだ、人との縁は僕が結ぼうと思う。彼女達を側室として後宮に迎え入れたいんだ」

 

 ………………覚悟していたのに、衝撃を受けた。


 子供を産めない私では、ガラクシアスの後継者を作れないから、側室を迎えるのは当然の事だ。こんな日が来るのは分かっていたわ。……相談くらい、して欲しかったけど。

「もちろん賛成ですわ。皆様、これからよろしくお願いします。共にガラクシアス様を支えて行きましょうね」


 心の中では泣きながら、顔では笑う。私はすっかり馴染んだ正妃の仮面をかぶるのよ。だからアイリスも笑ってちょうだい。そんな悲しい目で、私を見ないで!


「こちらこそよろしくお願いします。ねぇ、正妃サマ?」

 代表して、勝ち誇ったように笑う少女、その桃色の瞳には見覚えがあった。以前、里で私を睨んでいた美しい娘。私より少し年上の、ガラクシアスの幼馴染みだ。彼女は、ガラクシアスと同じ里のルークスだから、政治的な判断で迎え入れられた訳じゃない。


 ガラクシアスが望んだから、ここにいるんだ。




────私のために庭園に作られたパピの花園。

 悲しい時や辛い時、私は相変わらず一人で泣いていた。側室達は表向き私を立ててくれたし、ガラクシアスも正妃はレイナしか考えられないと言ってくれる。それでも、苦しい。


「……きっと、この胸の痛みは、禁忌を破った罰ね」

 ソーリスは、もっと大きくなる。それに伴って、側室も増えていくはずよ。こんな事でへこたれていては、正妃は務まらないわ。

 

◁◁◁◁◁


 あのひと、スピアーナ様を陛下は寵愛した。……陛下は、私が死んだら、彼女を正妃に迎えるのかな。仲睦まじい二人を想像するだけで、涙が頬を伝った。

「まぁむ。なかないで」

 小さな手が、感覚のなくなり始めた私の顔に触れる。


 陛下そっくりの真紅の瞳と目が合った。……情けない所を見せてしまったわ。

「ありがとう、オリヴィア。私の、可愛い娘」


◁◁◁◁◁

 

「レイナ。この子を僕達の子として育てないか?」


 側室の衝撃も冷めやらない内に、更なる追撃が私を襲う。隣国との交流に赴いていたガラクシアスが、産まれたばかりの赤子を抱いて戻って来たの……。

「交流先で出会った、訳ありの高貴な女性と僕の娘だよ。体の弱い人でね、レイナに少し似ていたから、放って置けなくて。だけど彼女は出産に耐えきれず、帰らぬ人になってしまった。この子は僕の初めての子供だし、身寄りがないから引き取って来たんだ。レイナ、君と一緒に育てたい」


 ……側室の方以外に、他にも女性がいたの? 子供まで作って、私と育てたいなんて残酷な事を言うのね。私だって、産めるものならガラクシアスの子供を産みたかった。……胸が、引き裂かれるように、痛い。


「ほら、抱いてあげて。可愛いだろう? 君に名付け親になって欲しいんだ」

 初めての娘が愛しくてたまらないといったガラクシアスから、赤子を受け取る。とても温かくて可愛いわ。薄い緑がかった髪を撫でたら、火が付いたように泣き出してしまった。必死であやして、ようやく泣きやんでくれたけど、ずっとぐずっている。……拒まれているみたいで、悲しくなった。


「……オリヴィア、という名前はどうかしら」

 平静を装って、この子の名前を考える。

「オリヴィア! この子にぴったりの可愛い名だ。ありがとう、レイナ。やっぱり君は素晴らしいよ」


 手の中の赤子を包み込むように、私を抱き寄せるガラクシアス。傍から見たら、本当の親子のように見えるかしら。私はどうしてもこの手を振り払えそうにない…………。




 逃げるようにパピの花園に向かったら、先客がいたわ。肩を怒らせたゼロが私を待っていたの。きっとアイリスからオリヴィアの事を聞いたのね。

「姉さん! こんな所出て行って、ルベウスとアイリスと、またあの森で暮らそうよ」

 甘い誘惑を振り切るように、私は首を横に振った。


「ごめんね、ゼロ。私はガラクシアスの……陛下の傍にいるわ。以前も言ったでしょう、私は陛下を王に選んだのよ。王を定めたラクリマが、王を裏切る事はないわ」

 自分に言い聞かせるように答える。でも、ゼロの追及は止まらない。


「じゃあ、なんでそんな悲しそうな顔をするの? 本当はぼく、知ってるんだよ。姉さんはあいつを、ガラクシアスを愛してるんでしょう!?」

 私は、あえて答えずにはぐらかす。

「──ねぇ、ゼロ。陛下はね、とても誠実な人なのよ」

「どこがだよ!? 姉さんはこんなに尽くしてるのに、あんな仕打ちをしてっ」

 激昂するゼロを視線で制する。場数を踏んだ私には造作のないことだ。


「私は陛下に“愛してる”なんて一度も言われた事はないし、言った事もないわ。いい? 私と陛下は愛なんて甘い物で結ばれていない。唯一無二の戦友……いえ、盟友とでも言うべき関係よ」

 私はガラクシアスを愛しているけど、見返りを望んだ事はない。


──優しい優しいガラクシアス。その優しさは皆に向けられていて、私一人が特別ではないって、知ってた。何て残酷で、酷い人なのかしら。……それでも、好きなの。

「私はね、陛下を後世にまで語り継がれる偉大な王にする。安らぎや子供は与えてあげられないけど……揺るぎない地位と、富と名声。比類無き大帝国を私は築いてみせる。これは、他の誰にも出来ない事よ」


 それが私の愛の形。だから、ゼロの手を取るわけにはいかないわ。


 

※建国から発展していく過程がダイジェストのように早いですが、転移チート+たらしチート(複数)+情報チート+武力・守護チート+異種族と異能者の固有スキルで力押しした結果ですm(_ _)m

レイナの寿命が短いため、相当ゴリ押ししてます。

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