第七話ッッ!!!絶望!交錯するヴィジョン!!!
俺の首が刎ねられる。とやかく言いたくは無いが俺は確かにそこで死んだ。…そう、俺は間違いなく死んだ。
───俺は、俺の目の前で死んだんだ。
*
「貴様ッ!!マスターに何をした…!?」
「ヒミツでーす!!教えませーん!!」
ヘリの内部へ進入した妹は、ただでさえ狭い場所だというのに大鎌をブンブン回して生意気な口を叩く。アルテルメアは突然気を失った淘汰郎を抱えたまま妹との距離を図る。
「しかし驚いたよ。賢い君がどうやってヘリへ侵入したのか知りたいな。」
わりとピンチな状況だと言うのに相変わらずの態度で妹に潜入方法を尋ねる無量院。褒めたおかげなのか妹は大胆にも口を滑らせてくれた。
「へへーん!爆弾のハリボテに潜り込んでたんだよ!!ぜんぜん気づかなかったでしょ?」
「うん。気づかなかったよ。うかつに能力を解除したのが間違いだった。」
無量院は言葉の合間を縫って素早く拳銃を引き抜き、妹に向けて発砲する。しかし弾は大鎌の回転によって弾道が逸れ、一発たりとも命中しないまま機内には跳弾が溢れかえる。
「ええい貴様ッ!!何をしている!!とっとと天成剣を使え馬鹿者!!」
「そ、そそそ、それはダメダメダメ!!ダメだから!!無量院様、もしやったら私、天成剣鍛造しますよ!!?」
アルテルメアが無量院に天成剣の鍛造を提案すると、弓絃葉は慌てた様子でそれを拒否する。二人の天成剣の素性は未だに分からないが、使ってはいけない確固たる理由が何かあるのだろう。アルテルメアはとりあえず妹を二人に任せて淘汰郎の服を全て脱がした。
「…外傷は無い。呼吸…脈拍…心音…瞳孔…どれも異常は無い。」
「ちょおおおっ!!!?何やってるの!?」
「何とは…、見ての通りだ。」
驚く弓絃葉。淘汰郎は見ての通り素っ裸にされている。…両足の間にある第三の天成剣もろとも。
「いやっ…見ての通りって…、あの。見たくないんだけど…。」
あまりのアレっぷりに弓絃葉は両目を覆う。…だが、ほんの一瞬で目に焼きついた第三の天成剣は限りなく最強であった。
「ぐっ…!!」
一人寂しく交戦中の無量院は大鎌で拳銃を破壊され、天成剣以外の攻撃手段を絶たれてしまった。一方で妹は自分から攻撃を仕掛けてくる事は無く、まるで何かの機会を伺うかのように時間を稼いでいる。
「…弓絃葉、この状況ではこちらも天成剣鍛造するしかないようだね。」
無量院は言う。
「なっ…、ダメですよ無量院様!さっきも言いましたけど、そんな事したら私が天成剣を…、」
「そう。だから君が天成剣を鍛造すればいい」
「…!」
一連の会話で無量院の意図を察する弓絃葉。彼女は結んでいたサイドテールの髪を下ろすと、まるで無数の光ファイバーのように発光する髪を靡かせ、それらを妹に目掛けて一斉に突き刺す。
「本日はカットの方でよろしいでしょうかー?」
しかし、弓絃葉の発光した髪は全て妹の鎌によって切断され、一本たりとも本体には到達しない。だが彼女は焦りもせず、既に目的を成し遂げたような顔で天井に向けて手を掲げる。
「天知る 地知る 子知る 我知る…って言葉、知ってる?」
弓絃葉は妹に問いかける。
「何それ?お味噌汁?」
「たとえキミが能力を隠したとしても、世界はキミの能力を見知っているし、キミ自身も自分の能力を知っている。つまり、どんな隠し事でもいつかはばれてしまうって事。」
そう──彼女に隠し事は通用しない。
「天成剣鍛造─────『開示する既知の庭師』」
「私の天成剣はね、相手に関する情報を世界中に開示する能力なんだ。」
「…だからもう、隠し事は出来ないよ?
対象の意識を数分先の未来へと飛ばす予知の天成剣──『絶対絶望未来』のブレードランナーさん。」
「なっ…なにソレ…!プライバシーの侵害!!サイテー!!」
全ての情報を開示されてしまった妹ランキング六位の妹は、未知の能力という最大のアドバンテージを失ってしまった。だが彼女は一向にこちらへ攻撃を加えてこない。やはり彼女は"待っている"のだ。
「……淘汰郎の死という未来を、予知したのか。」
アルテルメアは裸の淘汰郎を抱えながら妹の狙いをいち早く察知した。絶対絶望未来による未来予知の的中率は100%。彼女のこれまでの戦闘で予知が覆された事は一度も無い。仮に覆る可能性があったとしても、それは奇跡に等しい確率だろう。
「あと数十秒!数十秒でお兄ちゃんの首は飛んじゃうのよー!!あははぁ~!!!」
「くっ…」
残り数十秒。妹は完全に勝利を確信している。しかしこの状況でも無量院と弓絃葉の二人は動かない。かといってアルテルメアが動けば今度は淘汰郎が無防備となってしまうだろう。葛藤するアルテルメアは悔しく拳を握る…。
「そうだアルテルメア君、可愛そうな淘汰郎君の為にせめてもの手向けとしてこれを送っておくよ。」
そう言って無量院が彼女に投げ渡した物は───淘汰郎の妹の"天成剣"、『人類最後の悲劇』だった。
「大切な妹の天成剣だ。きっと彼も喜ぶと思うよ。」
「貴様なぜ淘汰郎を見捨てる…!!!やはり某の敵かッ!!」
アルテルメアは怒りに任せて剣を握り、それを無量院の喉元に突きつける。しかし無量院は動じることなく目を瞑り、彼女をすっかり信頼しきった顔でこう言い捨てた。
「…違うよ。彼を救うのは僕じゃない。"君"と"彼の妹"さ。」
淘汰郎への餞別として送られた天成剣"『人類最後の悲劇』トータルチェンジリング"。アルテルメアは剣を持って何を成す!?
次回ッ!!第八話ッッ!!! …叩き斬れ!この世の理!!!