第六話ッッ!!!妹よ!俺の望みの喜びよ!!!
塔は無量院ごと俺達を押し上げ、100mほどの高さで止まる。どうやら俺達は今のところ安全な場所に居るようだ。地上には依然として妹達が溢れかえっているが、やはり何か様子がおかしい。妹同士で何か揉めているように見えるが…。
「おい…!?一体何をした!?」
「見ての通りさ。塔が立ったんだ。」
いや、見て分からないから聞いてるんだけど。
俺が真面目に尋ねているにも関わらず、こいつは「自分の能力を赤の他人に教える馬鹿はいない」だとか「最強の剣属だしまだ能力は秘密にしておいたほうが絵になる」とかいろいろ勝手な事を言っている。結局分かった事は彼の天成剣の名前と、その能力によって一時的に妹達を無力化する事が出来ると言う事だけだった。
「ところでマスター。差し支えなければこの腕を修復して貰いたいのだが。」
アルテルメアがねじ切れた腕を俺に見せる。…彼女は至って冷静だ。断面からは剣のような物が無数に生えているのが確認出来る。いや、良く考えてみれば同然か。彼女は天成剣?なんだし。
「ああ分かった。どうすればいい?」
俺が尋ねると、彼女は冷静な顔でこう答える。
「某と接吻を交わせ。」
「えっ。」
彼女が言うには"鍛造された天成剣"…すなわち彼女を修復する為には鍛造者である俺のDNAが必要になるらしい。…だが良いのか?本当にキスしてもいいのか?この状況で?無量院がいるのに?
「いやー高いねー怖いねー落ちたら死ぬねー。」
俺が無量院に目を合わせようとすると奴は突然棒読みになってそっぽを向き始める。…何だコイツは、気を使っているつもりなのか?
「マスター。」
アルテルメアが俺に無言の圧力をかけてくる。心なしか顔が近い。…ってか本当に近い。
「いやいや!俺たちまだそんな関係じゃないだろ!?もっと他に───」
「ソレでも構わん。」
「ん?」
"ソレ"と言って彼女が指差したのは、俺が先ほどまで食べていたアイス。──グレゴリ君の棒だった。なるほど。当たりが出たから一応持ち歩いていたが、確かにこれならキスせずに済みそうだ。…間接キスだけど。
「降りられないな…。」
俺は柱の上から地上を見渡している。何だかんだあってアルテルメアの腕は無事に再生した。…だが地上に居るものすごい量の妹達をどうにかしなければここから脱出する事は不可能だ。おそらく無量院の能力で無力化はさせているようだが、この量を無理に突破しようとすれば圧死は免れない。
「…! 新手か!?」
アルテルメアが上空を警戒する。何かと思って目を凝らしてみると軍用ヘリらしきものがこちらへ近づいているのが分かる。ヘリは爆弾を積んでいるが、あれは多分地上の妹達へ送るプレゼントだろう。ある程度まで接近すると少女がヘリから身を乗り出してこちらに手を振ってきた。
「無量院様~!この私、弓絃葉千春が!お迎えにあがりましたよ~!!」
金髪の華奢な少女。プロペラに巻き込まれないか心配になるほど長いサイドテールをばたばたと靡かせた彼女は、その身振りからして無量院の仲間だと分かる。しかしこんなヘリまで用意出来るとはあの男…、一体何者なんだ…?
「エ"ンッ!!!!!」
「!?」
突然の事だった。ひたひたと滴り落ちる足元の血溜まり。そして俺の背後から聞こえた謎の声。…俺が覚悟を決して振り向くと、そこには直立不動で光り輝く鼻血を噴出するアルテルメアの姿があった。心なしか彼女の顔は少し赤くなっているようだ。
「化学兵器…!?」
俺は真っ先に無量院を疑った。こんなやばそうな事を出来るのは今この場にコイツぐらいしかいない。
「いいや大丈夫。あれは僕の『黒百合姫』が引き起こすちょっとした副作用でね。ぱっと見致死量でも命に支障はないよ。」
いや、何でだよ。確かに地上がやけにキラキラしてるとは思ったけど…、何だこの能力!?
「何でも良い!!!!この胸が高鳴るような感・覚…!! ときめきっ…!!!」
開口一番にアルテルメアが跳んだ。訳がわからない言葉を口走り、光り輝く虹を空に掛けながら、彼女はヘリに飛び乗る。
「えっ!?ちょ、何ですかこの人!?まさか無量院様!この足場って…!!」
そして彼女が言い切るのを待とうともせず、あろうことかアルテルメアは金髪の少女の胸を後ろからやさしく触り始めたのだ!!
「おぉおぉぉぉ!!!この手のひらにすっぽりと収まる慎ましき甘食!!!これぞ某の望みの喜びよ!!」
うん。二人はとっても仲がよさそうだし、これはこのままでいいな。
それからはしばらくぼーっとしていた俺達だったが、無量院は弓絃葉に「天成剣を鍛造されたくなければ解除しろ」と脅されてしまい、惜しまれつつも『黒百合姫』の能力は解除されてしまった。しかし無量院が恐れるほどの天成剣を持っているとは…。弓絃葉も相当な剣属のようだ。
「おい小娘、気安く某に触れるな。某に触れて良いのはこの世でマスター唯一人だ。」
能力が解除された事によってアルテルメアも無事に正気を取り戻す。て言うか先に触ったのはお前なんだよなぁ…。
「で、無量院。お前達は俺をどこへ連れて行くつもりだ?」
俺は尋ねる。流れでこいつらと行動を共にしてしまったが、俺がこいつらに付いていく義理はない。というよりむしろこいつらは俺の妹の仇だ。この世で一番信頼できない相手じゃないか。
「…簡単に説明するけど。」
俺の質問に答えてくれたのは意外にも弓絃葉だった。彼女はまだ不機嫌そうな顔をしていたが、自分たちのことについてちゃんと俺に説明してくれた。
世界人口の9割以上が妹となり、国家がもはや大掛かりな飯事となってしまったこの世界をどうにかしてひっくり返す為に旧国連によって設立された"対妹"の為の超人機関。
──それが『天成剣属』。
「そうです!!」
はっ!?突然俺と弓絃葉の間に妹がもぐりこんできた!!なんだァこいつは!!一体いつからそこにいた!?
そして俺は抵抗する間もなく妹に鎌で首を跳ねられたのだ。
タイトルを回収したかと思えば唐突に殺されてしまった淘汰郎!!でも大丈夫!!どうせ生き返るから!!
次回ッ!!第七話ッッ!!! …絶望!交錯するヴィジョン!!!