第四話ッッ!!!お兄ちゃんには秘密だよ!!!
…出来る。
「…出来るッッ!!!」
いくつもの部品が軋み合い、銀河に轟く巨人の圧倒的な駆動音が失望寸前の俺の背中を押す。今の俺にはきっとなんだって出来る。巨人の存在は俺をそんな気にさせてくれた。
「マス…ター…、これが…貴方の剣か…。」
アルテルメアは遥か彼方の巨人を見上げた。巨人はまるで永遠のような時間をかけて剣を振り上げ、遠い未来にでもこの世界を貫こうとしているかのように見える。
「そうか…マスター。フフ…それも良いな。この狂った世界ごと…某を剣で断ち切ってくれ。」
「…いいや逆だアルテルメア。俺はこの剣で必ずお前達を救ってやる。俺が断ち切るのはこの世界を狂わせた元凶…!ヌクレオステルンの存在そのものだ!!!俺の剣は今を断ち切る剣じゃない!!俺の剣は因果を断ち切る剣!!この剣の射程距離は無限大だ!!過去にも!!未来にもどこへでも伸ばす事ができる!!!この剣で過去のある地点を破壊すれば…!!その地点を"なかったもの"にだって出来るッ!!!!さあッ!世界を覆せ!!不可説不可説転もの運命を連ねる可塑の剣…!!!!"『過去を穿つ聖弾頭』イミテーション・フォール"ッッッ!!!!!!」
俺の声に応えるようにして巨人が剣を振り下ろすと、いくつも枝分かれした光の道筋が剣先から叛き離れるようにして伸びていく。俺は知っていた。あの光の一つ一つがこれから先起こりうる未来や、これまでに起こりえた現在を示しているものだと。そして俺は見つけた。
「…さあ!あの分岐の根元に"俺の変えるべき運命"がある!!迷うな巨人!それを貫け!『果てなく啓けし万理』ッ!!!」
今から数年前、一つの都市の空に一閃の巨大な光の柱が現れた。途方も無いエネルギーを持ったその剣は、ありとあらゆる人間達に突拍子もない"契約"を持ちかけていく。契約の内容は"望む未来を与える代わりに、死後の魂を頂く"というもの。…そして何故か魂を奪われた人間達はみんな俺の妹となるのだ。
俺が一番最初に改変した世界のあらすじはそんなものだった。
「何が…起きたんだ!?」
俺は辺りを見回す。そこにあるのは瓦礫と化した俺たちの町と、幾つもの妹達の屍と、先程から何の変化も無くその端でうずくまるアルテルメアの姿だけだ。とても世界が改変された様には思えない。
「ごめんね…。アルテルメアさん。」
抱き抱えられたまま彼女の妹が喋る。だがその声は…彼女の妹の声ではなく、俺の妹の声だった。彼女の声は先ほどよりも弱々しい。…まるでこのまま消えてしまうかのように。
「アンセルメア…何故某を庇った…!?いや…お前は…。」
「ちがうの。私の名前は…自然恵美。」
俺の妹の名前だった。
妹を名乗る声の主は、やがて姿までもが俺のよく知っている妹のものへと変わっていく。…庇う?何を庇った?いや…彼女は…?
「めぐみ…なのか?」
「そうだよ…、おにいちゃん。」
その妹は、妹だった。おそらく俺の知る限りではこの妹こそが俺の妹なのだろう。…だが俺の妹は妹というにはあまりにも妹すぎた妹だった。
…誰かの攻撃からアルテルメアを庇い、致命傷を負うようなマネをする英雄もどき。それが俺の妹。あの性格は昔からずっと変わらない。
俺は妹に近づいた。寄り添う俺の手に妹の手が触れる。しばらくして彼女は自分とアンセルメアの話を聞かせてくれた。
「私はね…ただ、あの子の願いを叶えたかった。あの子の願いは…元気になってもう一度お姉ちゃんに会うこと。けれど彼女は…力を得る前に死んでしまった。だから私は…"望む未来を掴み取る力"を手に入れて…彼女の代わりにここへ来たんだよ。」
妹は薄れゆく意識の中で最後に俺とそっくりの天成剣を鍛造してみせた。悲しみを終わらせるために、他の誰かになりきる嘘つきの剣。…彼女の天成剣"『人類最後の悲劇』トータルチェンジリング"は、きっと誰よりも優しい剣だった。
誰よりも優しい俺の妹は、誰よりも優しい剣と共に…永遠の眠りにつく。
約束を果たした彼女の表情は、安堵に満ちていた。
「実の妹が死んだと言うのに、君は涙の一つも流さないのかい?…冷たい人間だね。」
男の声がする。…間違いない。俺は怯えるアルテルメアの様子から察した。妹を殺したのは…この男だ。
見覚えのないその男はいかにもな黒幕のオーラを発していた。
*
ここはとある世界のとある国のとある地下のどこか。薄暗い通路の奥にある一室の扉には『妹ひみつ会議・おにいちゃん立ち入り禁止』と書かれたプレートが吊るされている。部屋の中では揃いも揃って淘汰郎の妹達が円卓を囲み、謎の会議を始めようとしている。
「みんな、集まった?」
「ううん、4位がまだ来てないみたい。」
彼女達の呼ぶこの順位は、通称『妹ランキング』。順位が高ければ高いほど天成剣が強かったり可愛かったり淘汰郎の妹に近かったりするようだが厳密な基準は未だに作られていない。
「遅刻遅刻~!!」
「あっ4位!まったくも~遅いんだから~…。」
「それでは会議を始めます!今回の議題はおにいちゃんの確保について!」
「はいは~い!さっそく提案ありま~す!」
「6位さんどうぞ!」
「…首さえ確保すれば、残りの部品はどうなってもいいよね?」
大鎌を担いだ6位の妹はにこにこしながら乗り気で言う。
その日、全会一致で淘汰郎の扱いが確定した。
過去を改変した淘汰郎。あと!いつのまにか妹が何者かに殺されちゃった!!!この人でなしッッ!!!!!
次回ッ!!第五話ッッ!!! …無量に咲かせ!無常の華!!!