第十三話 終わる世界とブレードランナー
*
夜空を見た。
夜空を覆い隠すほどの梁に覆われる、錆びくれた街を見た。
どこか遠くを眩く照らす、ライムライトの光を見た。
「ねえ。」
誰かが誰かを見ていた。
「行こうよ。」
誰かが誰かの手を引っ張った。
「───今度は僕の番だね。」
誰かが微笑んだ。それを見た誰かは、なぜだか悲しくなった。
「…誰だよ?」
誰かが誰かに尋ねた。
「お前は一体誰なんだよ。…俺をどこへ連れて行くつもりなんだよ。」
誰かは何も答えない。ただ、ライムライトの照らす街はずれの残骸の山を静かに眺めている。
「…黙ってないで答えろよ。」
俺に似た幼い少年は、知らない少年の手を振りほどく。それでも少年は何も答えない。
「…行くならお前一人で行けよ。俺は──」
「これが終わりでもいいの?」
知らない少年が問いかける。俺に似た少年はその言葉を聞いて呆然と立ち竦み、自分がここにいる理由を今一度考え直す。
「…もしも、望む未来へ続く道を見失ってしまったら、…その時は。」
「……次の僕に。全てを託してくれ。」
*
本部中央の最後の扉を開くと、そこで待っていたのは無傷の無量院と、大層な黒い椅子に腰かけた見知らぬ黒服の中年。…妹の気配はどこにもない。
「ようやく来ましたね。父上。」
「父上だって?」
無量院の声を聞き、中年の顔を見る。だいぶハゲ散らかしているが、サラサラヘアーの無量院も将来ああなるのだろうか。
「ははははは……。よく来たなゼネラルの剣属よ。私は無量院無間。超人機関ブレードランナーの一番偉い人間だ。…とは言っても今は非常事態。いちいち畏まる必要は無いからね。」
「ああ…そうさせてもらう。…で、あんたらこの状況をどうするつもりなんだ?」
俺は部屋中のスクリーンに投射された映像に一つずつ目を移していく。全て本部の主要な箇所を捉えたかラメラのようだが、今はどれを見ても破壊をしつくす妹の大群しか映っていない。恐ろしい限りだ。
「はぁー…どうしようかねぇ。」
中年の男はため息をつく。
「こうしましょうか。父上。」
無量院が俺に銃口を向ける。………は?
「ちょっと待て…!どういう冗談だよそいつは…。」
俺は苦笑いしながら平手を上げる。相変わらず黒ずくめで黒幕なオーラを発しているせいか、コイツの表情はさっぱり読めない。殺すって顔はしていないけど、冗談って顔もしていない。
「…あー、ゼネラルの剣属よ。簡単に言うとだな、この妹蔓延る世界を元通りに戻す為にはお前の天成剣の力が必要なのだよ。だからそのー……つまり。これからお前をバラバラに解体させてもらう。」
「…は?」
「名案ですね父上。」
「……!!!!」
俺の背後に向けて放たれる銃声。小さい何かが倒れ込む音。振り向かなくても分かる。……無量院は今、俺の後ろにいるマオを撃ち殺したのだ。
「…これは天成剣の銃だ。妹として生き返る心配はない。どうか安らかに死んでくれ。」
「おい待て無耶。なぜ殺す?」
「何故って……、警告ですよ。」
「馬鹿者が!!警告で殺す馬鹿がどこにいるか!!…ここにいたわ!!っははははははは!!!」
…こいつら狂ってる。仲間であるマオを平然と撃ち殺しても何とも思わないのか……。
「あ、そうそう。あの時君の妹を撃ち殺したのもこの銃だったよね。…普通の銃じゃ妹に生き返るだけだから。…あとちなみにこれ、父上の天成剣。」
「どう見ても銃だがな。……ふふふ。っははははははははは!!!!!」
…なあ。こいつら殺していいよな。アルテルメア。
返事はいらない。心の中で、覚悟を付けるだけだ。
「遍く星の剣属よ…わが神託の元に集え!!──『天成剣鍛造』アプトフォージ!!!!」
俺は素早く剣を鍛造し、無量院が引き金を引くよりも早く、自分の出来うる限りの最大限の速度で奴の腕を突き刺した。これで奴は銃を握れない。もちろん天成剣を使わせる暇も与えない。追加で鍛造したもう一本の剣で奴の手の平を突き刺す。そして両手を封じた奴の体を押し倒して思いっきり床にたたきつける。
「っがはっ…!!!」
無量院の手放した拳銃を素早く奪うと、俺はその銃口を黒服の中年に向けてこう言い放った。
「……。」
言い放てなかった。
「さらばだ。ゼネラルの剣属。」
「………。」
決め台詞に悩むほんの一瞬の間に、俺は何者かによって背後から腹を貫かれた。せめてもの痛み分けとして引き金を引いた銃弾は、中年の眉間を確実に撃ち抜いたはずなのに。それなのに。何もかもが虚しい。
「……アルテルメアか、助かったよ。あと少しで殺されるところだった。」
「…………。」
アルテルメアが、俺の背に突き刺した刀をゆっくりと引き抜く。妹達に串刺しにされた時と同じだ。感覚が完全に麻痺している。
頭に血が上らないせいで、ぜんぜんわからない。
あるテルメあが俺を殺す理由がわからない。
あいつは俺の事を裏切るようなやつじゃない。
ぜんぜんわからない。これから先俺はどうなる?本当にバラバラにされる?俺は天成剣にされる?されてどうなる?わからない。
おれはここでおわる?
*
「これが終わりでもいいの?」
次の俺が問いかける。今の俺はその言葉を聞いて呆然と立ち竦み、自分がここにいる理由を今一度考え直す。
…ああ、そうか。
全部思い出した。俺達はみんな死んだ妹を取り戻すためにここへやって来たんだ。ここにいる俺も、そこにいる俺も、遠い場所にいるあの俺も。みんな。その為にここにいるんだ。
『果てなく啓けし万理』を起動するために。俺たちは何度も何度もさび付いたゼンマイを巻き続けた。
巻いては止まり。巻いては止まり。どれだけ短い一歩でも、その度に時計の針は少しずつ進んでゆく。
…これが終わりでいいはずがない。巻いて巻いて…ここまで復元した『果てなく啓けし万理』を。…この俺が、次の俺に託してやらないといけないんだ。
…今はまだ失敗し続けてもいい。いつか、遠くの俺が望む未来を掴み取る為に。
*
俺は目を見開いた。
───呼び覚ます為の言葉は既に知っている。
天成剣鍛造ーーーッアプトフォージ!!!
「────来いッ!! 『果てなく啓けし万理』ゼネラル・オーバークロックワークスッッ!!!」
名残龍一は多少四次元剣道を極めただけのどこにでもいるごく普通の高校生だ。彼はある日の放課後、遠くの山に落ちる一筋の流星を目撃する。
次回 第十四話 畢竟夢想のブレードランナー




