第5話
元々運動はできないほうだったけど、まさかこんな間抜けな転び方をするとは。
体育の授業、バレーのトスの練習をしていて上にあげたボールが後ろの変な方向に飛んでしまって、それを追いかけてたら自分の足につまづいて、派手に転んだ。しかも立とうとしたら右足首がジンジンと痛む。どうやら、足首をくじいてしまったらしい。
「中川さん、大丈夫?」
先生が私のところにやってきて、立てずにいる私の横にしゃがんだ。騒ぎに気づいたのか、みんなトスをやめて私の周りを囲む。「どうしたの〜?」とだんだん大きくなっていく輪に、なんだかものすごく情けなくなって、
「あの、大丈夫です。ちょっとひねっただけなんで」
「でも、立てないんでしょ?」
「いえ、立てます」
別に皆に迷惑をかけたくないわけじゃない。ただ、無性にこんな自分が嫌になった。だから、無理にでも立とうとした。立って、私はほっといてくれればいいという意思を示したかった。
だが、こういう時に限って思い通りにいかないものだ。言葉どおり立つところまではよかったものの、一歩踏み出すと同時に軽い電流が流れる感覚を足首に覚える。「痛っ」と小さく叫んで、もう一度床にどてっと座り足首に手を当てた。
「保険委員、中川さんを保健室まで連れてって」
これ以上成すすべがない私は、惨めな思いでうつむいていた。「保険委員は誰?」という先生の声に、数秒遅れてから「私です」と聞きなれない声が聞こえた。声のするほうを見てみると、谷川夏美がちょうど頭の高さまで手を挙げていた。