第4話
入学式が終わり、翌日には始業式。そして実力テスト。土日の休みを挟み、月曜から平常授業が始まった。
さすが、博美が目指していた高校。実力テストは難しくて、これは平均点が驚くほど低くなるだろうと思っていたら、私はクラスの中でも最下位に近い順位だったわけで。授業だって中学とは比べ物にならないほどスピードが速く、私が焦っている間にも皆は器用に友達を作り、入学から1週間経ったばかりにもかかわらずもう仲良しグループが決まっている、という状態だった。
そんな中取り残されてしまった私、と前の席の彼。彼の名前はまだ分からなかった。入学式、担任が名前を呼ぶと生徒は返事をし、入り口から体育館へと入場した。その時彼はいなかった。確か当日のホームルームで欠席はいないはずだったけど、でも彼はいなかったのだ。理由なんて、赤の他人の私に分かるはずがない。ただ分かっていたのは、彼は私とは違い一人でいても苦には感じないということだけだった。
また、徐々に学校に慣れてきたのか、遅刻がめだつようになってきた。遅刻する人、というのはどこの学校でもそうだけど大体決まっていて、遅刻グループ、といってもほとんど単独に等しいけれど、谷川夏美は今週毎日遅刻し続けている。谷川夏美はだいたい二時間目の授業の中盤くらいに黙って教室に入ってきて、教卓に遅刻理由の書いた紙を置く。一番後ろの窓側の席に度がすぎるほどクールに座り、長い髪を肩の後ろに持っていく。そんな、皆が思わず一目置いてしまうような大人っぽい子。
私はよく分からない男の子とクールな女の子、この二人を観察するのはあの胸の軋みを紛らわすためにはうってつけだと思った。私は、全然おもしろくなくて聞いてて眠くなる授業中二人の様子をぼんやりと眺め、黒板に先生が何かを書くと気分が乗ればノートに写す。十分休憩では、五十分ヒマの砂から耐えて逃げ続けることができた自分へのご褒美として仮眠をとる。そんな毎日。
たまに博美のことを考える。高校に落ちて近くの私立に通うことになった博美は、もう私の存在なんて忘れてしまっただろうか、とこれくらい。私はできる限り、博美とのことは思い出さないようにしている。早く忘れて、高校生活に集中したい。