第2話
門から数十メートル離れたところに、クラスが書かれたボードが置かれている。高校の合格発表の時もこれと同じようなものがあって、自分の番号を胸をドキドキさせながら探したけれど、それとは全く違う緊張感を今は感じる。
緊張感――つまり博美が落ちたことで、私はどのクラスになっても喜びもしないし悲しみもしないということ。だって、博美がいなければ私の高校生活は終わったも同然だから。ただ、無理やり自分に希望を持つよう言い聞かせているだけ。そうしないと、おかしくなってしまいそうだから。だから、これはもしかしたら、普通の緊張感とは違うのかもしれなかった。もっと、別の何か。これからの三年間に対する不安や孤独、そんなどんな表現にも例えようのないものが入り混じった、ある意味での将来への「緊張」を感じていた。
まるでわたしを見下ろして、更なる恐怖を与えようとするみたいにでかく構えるボードには、ざっと見三百人ほどの名前とクラスが書かれている。その中には、中学校が一緒だった子の名前もたくさんあるけれど、やっぱり知らない子もそれと同じくらいいる。この中に、博美のような優しい子は何人かいるだろう。でも、「博美、もしくは博美以上を持っている」に値する人はきっといないに違いない。
「中川麻里」という名前を見つけるのに、そう時間はかからなかった。二組の表の真ん中辺りにあった自分の名前はなんとなく違和感があって、見てると胸がムカムカしてくる。ボードを蹴ってつぶしてしまうか、それか自分の名前だけ鉛筆で見えなくなるよう黒く塗りつぶしたくなった。
私はここにいて、いいのだろうか。いる資格なんてあるんだろうか。誰かにいてもいいよと言われたって、どうせ居場所なんて見つかるはずもないのに。不安が胸の奥からチクチクとしたトゲの痛みで湧き上がってきて、思わず両手を強く握りしめた。
「あ、肩」
「え?」
「サクラがついてる」
「サクラ?あぁ、ほんとだ」
私のすぐそばで、女子二人が笑っている。その話を聞いて、なんとなくそんな予感がして、自分の肩に手を置いてみた。すると案の定何かに触れる感触があって、手に取ると一枚のサクラの花びら。
いつまでもボードの前にいるわけもいかないので、手の中にあるサクラの花びらをとりあえず胸ポケットに入れて、校内に入るため玄関へと向かうことにした。
玄関に入ったとき、思わず圧倒した。高校生全員ぶんの靴が収納されるように用意された数えきれないほどの靴箱が、それぞれ一定の間隔を開けてきれいに並んでいる。白く塗装され中が二つの段にわかれているタイプの靴箱は、長い間そのままなのか所々ペンキがはげていて、なんとなくその部分をいじってみたくなった。
自分の名前の書いた紙が貼られてある靴箱をようやく見つけ、家から持ってきたばかりでまだほとんどはいたことのない上靴にはきかえる。ブカブカだけれど歩くのに困らない、という程度のサイズの靴を選んで買ったから、最初のほうは足に違和感が残るだろう。脱いだ通学靴を靴箱の中にいれて、一年二組への教室へと慣れない足つきで向かった。