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第八話 タブー

「先の発言を審判に対する暴言とみなし、ハイ掘削所の反則負けとします」

 バトルが短時間で終わった理由が反則負け、それも審判への暴言だと知って、食事をしていた者も手を止める。何を言ったら暴言とみなされるのか、そこに皆の関心は集まっていた。

「暴言だと!? 俺はただ、幼女キターッて喜んだだけだろ?」

「それです。私は幼女ではありません、撤回してください」

 幼女を否定する声は、幼い女の子の声にしか思えなかった。『遠隔受信』のアビリティで出された黒い球体を通しての声だとはいえ、声質が変わるなんてことは聴いていないし、実際そんなことはないのだろう。もしそうだったら、能力を使用したマユタンが得意げに解説しているはず。彼女の性格からして、そう思えた。

 伊吹は審判への発言は注意しなくてはと肝に銘じた。

「口は災いの元ですねぇ~。他のを聴きましょう」

「えいっ!」

 シオリンの提案を受け、マユタンが別の球体に触れると、今度は男女の声が流れてきた。

「ちょっと、このキスマークは何!? どこの女に付けられたの!?」

「君が付けたんじゃ……」

「私とは、ご無沙汰でしょうに!」

 ヒステリックな女性の声が家じゅうに響く。伊吹としては闘技場の方が気になったが、シオリンはこっちを聴きたいのか、目の輝きが明らかに違っていた。

「修羅場ですねぇ~。キスマークだなんて、やっぱり浮気?」

 浮気を疑うシオリンとは違い、伊吹はキスマークと聞いて『遠隔受信』の発動条件が脳裏をかすめた。『遠隔受信』で拾える音は、キスマークが付いている人の周りだけ。つまり、マユタンが付けたキスマークを通してのみ、遠くにある音が聞こえることになる。

 自分が付けたわけではないのに、伊吹は問い詰められている男性に対して、申し訳ない気持ちになったが、相手がいるだけいいよなと思い直した。

 見知らぬカップルを羨ましく思いながら、形状がアレなゼリーをパクつく。



 翌日、職場で渡された仕事チケットは2枚あった。そのチケットを見て、チガヤが自分のユニットに説明する。

「今日のお仕事は2つあるんだけど、1つはギボウシでの除湿作業だから、こっちは私とワニックで行くね。ワニックの『水分蒸発』があれば、すぐに終わると思う」

「ギボウシか、闘技場がある街だな」

 今日もバトルに出られそうだと知り、ワニックがにんまりとする。

「もう1つはユニット交換会の準備だよ。会場の掃除と飾りつけが主な作業みたい。場所はね、アンフィテアトルムっていう私営の闘技場だって。知ってる?」

 サーヤとマユタン以外が頷く。

「前にモデルの仕事をした場所の近くですねぇ~」

「そうなんだ」

 シオリンが答えるのを見て、貰った招待券のことを思い出す。同じ日に召喚されたカリスタから、浮遊島で会った際に受け取ったものだ。

「あのさ、そのユニット交換会の招待券があるんだけど」

 ポケットから取り出してチガヤに見せる。招待券の文字が読めないので、バトルイベントがあることくらいしか知らなかった。

「ユニット交換会、特別無料招待券。開催日は明日だから、行けるね。会社、お休みだし。当招待券をお持ちの方は、バトルイベントに無料で参加できます……だって」

「ほかに何か書いてない?」

「バトルイベントで賞金をゲット。目指せ、夢の金貨100枚。最初の1勝で金貨1枚、ダブルアップも可能。バトル内容は、当日になってのお楽しみ」

 ダブルアップということは、勝ち続ければ賞金がどんどん増えていくから、夢の金貨100枚なんだなと一人納得する。

 金貨100枚と言えば、ケイモが『次元転移』を発動させる対価として要求する謝礼の額に等しい。もしも、運よく金貨100枚が手に入ったら、『次元転移』で元の世界に戻れるが、そうはならないだろうなと自分の中で結論を出す。

 手に入ったとしても、みんなで分け合うことになりそうだし、そもそもバトル内容が不明では何とも言えない。もし、普段やっているようなバトルだったとしても、勝ち続けるのは容易ではない。運がよくても幾らか貯められるくらいが関の山だろう。

「ふぅ~ん、バトルかぁ……」

 と言って、チガヤが招待券を返してくる。彼女の顔からは“止めても、出るんでしょ”という諦めが見て取れた。

「勿論、今日のバトルにもエントリーするが、いいんだな?」

「うん……」

 了承しか求めていないワニックの問いにチガヤが頷く。

「では、エントリーしてくるぞ」

 意気揚々と受付に向かうワニックをチガヤは呼び止めようとしたが、大股で進む彼にかける言葉を見つけられないようだった。

「じゃ、僕らは仕事に行くね。ワニックには、こっちの仕事が終わっても間に合いそうなら、今日のバトルに出るって言っておいて」

「わかった」

 仕方ないなといった感じで言い、チガヤは受付に向かったワニックの後を追う。

「行こっか」

 伊吹は残った面子に声をかけ、アンフィテアトルムへと向かった。



 アンフィテアトルムは、会社からガチャ神殿に向かう途中にある。神殿への大きな道から小道に逸れたところでヒューゴの家があり、その先にあるドーム型の屋根が特徴的な建物だ。

 前に来たときは入り口にオスワルドが立っていたが、今は彼の代わりに樽体型の男性が立っていた。肌の色は褐色、頭に乗っかっている感じの黒髪が特徴的で、白いシャツに黒いベストを身に着けている。

「ユニット交換会の準備をしに来た者ですけど」

「どこの会社?」

「スコウレリア第三事務所です」

 伊吹が会社名を言うと、門番は内ポケットからリストを出して確認した。

「ん~……あった、あった。さぁ、入って」

 リストに社名を見つけたのか、中に入るよう指示される。カウンターに挟まれた細い通路を通って中に入ると、前に来た時と同じ丸いバトルフィールドと、階段状の観客席があった。

「あら、また会いましたね」

 声がした方を見ると、カリスタが立っていた。彼女の後ろには何人か集まっている。

「昨日は、どうも」

「準備を手伝いに来てくれたの?」

「はい」

「それじゃ、こっちに来て。作業のことを説明するから」

 近くにいた集団の中に伊吹たちが入り込むと、カリスタは作業の手順を説明し始めた。

 最初に、棒の先に麻布が付いた道具でゴミを集め、一箇所にまとめたところで炎のスキルで焼却。次に座席を水拭き。最後に、交換会用の垂れ幕を設置するというのが観客席側の作業だった。

 バトルフィールドでは、イベントに使うアイテムを造る作業が行われており、伊吹はこちらを担当することになった。とは言っても、何か作業するというのではなく、任せた人たちが遊んでるから仕事をさせてというものだった。

 カリスタに言われてバトルフィールドに降りると、二人の女性が鉄製の簡易カマドを取り囲んでいた。二人ともキャミソールにホットパンツという格好で、何やら楽しげにお喋りをしている。

「あの……」

 この人たちに仕事をさせないと、そう思って声をかけた相手は見覚えがあった。

「あっ、いつぞやのセクハラ男」

 ショートカットでスレンダーな女性が言う。口元のホクロが印象的で、それを闘技場で見た覚えがあった。

「あのときは、よくもやってくれたわね」

 隣にいた長身の女性はウェーブがかった髪をかきあげ、しかめっ面で眉を上下させる。彼女の顔も記憶にあるが、いまいち思い出せなかった。

「何なのよ、その“忘れました”的な顔は!?」

「落ち着いて、マリーナ。これは、私たちを怒らせて、平常心を失わせようとする作戦かもしれないわ」

「そうね、シモンヌ。作戦でなければ、きっと誰かの陰謀よ」

 彼女たちが名前を言ったことで、ようやく前に戦った相手だということを思い出す。だが、思い出したことを伝える前に、彼女たちが再び喋り始める。

「忘れてるのなら、思い出させてあげるわ。私はSレアのマリーナ! スキルは自分より軽い物を動かす『物体移動』、アビリティは感度を上げる『敏感革命』よ!」

「そして、私はシモンヌ! スキルは球体を作り出す『球体錬成』、アビリティは卑猥な単語に音をかぶせる『淫語消滅』なの!」

 ご丁寧にも能力紹介までされたことで、自分が初めて『快感誘導』を使って倒した女性だということに気づく。しかも、対戦時にはマリーナの『敏感革命』で過敏になった二人に対して『快感誘導』を放っている。

「あの、思い出しました……」

「思い出したって何を? 顔? 名前? まさか、私たちに上げさせた“あはぁ~ん”な声のこと!?」

「それとも、アヘ顔の方かしら!?」

 間髪入れずに予想外の返しがくるので、呆然と立ち尽くす。

「本当に卑猥な攻撃だったわね。お陰で、あれからというもの、夜中の依頼ばかりになって大変なんだから! 毎夜毎夜、リア充の家に行って『敏感革命』を使わされてるのよ!」

「こっちもね、下ネタを言って喜ぶお年頃の子に呼び出されて、『淫語消滅』を使わされてるの! 音がかぶせられた卑猥な単語を当てようクイズを目の前でやられてみなさいよ、聴いてるこっちの方が恥ずかしくなるわ!」

「お仕事があるのは、いいことです……」

 なんて言いつつも、少しは仕事を選んだらどうだ……という気持ちもあった。

「で、何をしに来たの?」

「仕事をさせて来いって言われて……」

 マリーナの問いに答えると、二人は一斉に身構えた。

「仕事ですって!? まさか、貴様もリア充かっ!? 私に『敏感革命』を使わせて何をする気だ!?」

「待って、マリーナ! もしかしたら、卑猥な単語を当てようクイズが目的かもしれないわ!」

「いやいやいや、そっちじゃなくて……交換会の準備のことで」

 そこまで言うと、二人は「なぁ~んだ」と気の抜けた顔をした。

「準備なら、やってるわよ。ほらっ」

 シモンヌが避けると、簡易カマドの近くに、丸い形の揚げ物が複数置かれているのが見えた。揚げたてだからか、香ばしい匂いが漂ってくる。

「何ですか、これ?」

「明日のバトルイベントで使うそうよ。これを頭に乗せて戦って、先に相手のを壊した方が勝ちらしいわ」

「へぇ~……。これって、どうやって作ってるんですか?」

「知りたい? そうよね、知りたいわよね。どうしてもというなら、教えてあげてもいいわ」

 もったいぶるマリーナにお願いする前に、彼女の説明は始まっていた。

「まずは、シモンヌが『球体錬成』で20cmほどの球体を作成。次に、その球体を特製の溶き汁に付けて、それを油でカラッと揚げるの。『球体錬成』で生み出した球体は30秒で消滅するから、これで中が空洞になってる揚げ物の完成よ」

 天ぷらみたいなものか、という感想を言おうとしたが、伝わりそうにないのでやめる。

「マリーナ、実際に見せた方が早いんじゃない? 準備はよくて?」

「いいわよ、シモンヌ」

 二人は目を合わせると、シモンヌが『球体錬成』で球体を生み出し、それをマリーナが『物体移動』のスキルで溶き汁が入ったボールに入れ、そのまま火にかけられた油鍋へと叩き込んだ。

 勢いよく入れたせいで油が跳ね、彼女たちにかかった。

「熱っ! 熱いわ、マリーナ……もっと、そっと入れて……激しくしないで」

「か、加減が難しいのよ、シモンヌ」

 飛び跳ねた油が体にかかって熱がっている様は、踊りを踊っているようだった。はた目から見れば、遊んでいるように見えても不思議はない。

「そろそろ出すわよ、シモンヌ」

「マリーナ、今度は気を付けてね。そっとよ」

 『物体移動』のスキルで油鍋から球体を取り出すと、こんがりと良い具合に揚がっていた。ゆっくりと移動できたので、入れた時のような騒ぎにはならなかった。

 揚げた球体は油きりバットに落とされ、マリーナはホッと一息ついたかと思うと、くわっと目を見開いた。

「どうだ!」

 マリーナが得意げに言うので、思わず「おぉ!」と言ってしまう。だが、やっていることは単なる揚げ物だ。

「で、何をしに来たって?」

 シモンヌが話を元に戻す。

「遊んでるから、仕事をさせて来いって言われて……」

「遊んでないわよ! 失礼ね!」

 憤慨するシモンヌをなだめるように、まぁまぁと開いた手を上下させる。

「たぶん、跳ねた油を熱がってるのが、遠くからは遊んでるように見えたんですよ」

「私だって、好きで跳ねさせてるんじゃないわよ!」

 今度はスキルを使っているマリーナが憤慨する。

「まぁ、そうですよね……。要は跳ねなきゃいいわけで」

「だから、『物体移動』は加減が難しいって言ってるでしょ!?」

「う~ん……」

 と唸り込んで、何か打開策は無いものかと辺りを見回す。壁にはチャレンジバトルで使用される武器が並べられていて、その中のひとつが目に留まる。弓だ。

「ちょっと待っててください」

 二人に断わって弓が置いてある場所へと移動する。武器として使われるものだけあって、傍には矢も用意されていた。

 伊吹は矢を2本だけ取ると二人の場所に戻り、矢尻を抜き取ってマリーナに渡した。

「何なのよ、これは?」

「これを箸代わりにすれば、油が跳ねることもないと思います」

「ハシ? ハシぃ~?」

 マリーナは初めて聞く単語を繰り返した。

「えっと、ものを摘まむ道具ですよ。その2本で揚げるものを挟むんです」

「こうか!」

 箸代わりの矢を右手に1本、左手に1本持ったマリーナが、既に揚げた球体を掴もうとする。挟んだかに思われた球体は、サクッと割れてカスがこぼれた。

「あぁっ! せっかく作ったのにぃ~! おのれ、はかったな! 貴様、本当は私たちの作業を妨害しに来たんだろ?」

「いやいやいや、違いますって……。僕がやるんで、球体を出してください」

 申し訳なさそうな目をシモンヌに向けると、彼女は一瞬だけ疑わしげな目を向けた後に『球体錬成』で球体を生み出した。それを右手に持った2本の矢で挟み、溶き汁が入ったボールに入れ、充分に汁を付けてから油鍋に入れた。

 ジュワッという音ともに、一度沈んだ球体が浮かび上がる。油は一切、跳ねなかった。

「ほら、こうすれば大丈夫じゃないですか」

「確かに……。それにしても、ずいぶん器用に細い棒を使うのね。よし、貴様に細い棒使いの称号を与えよう! それとも、細い棒マスターがいいか?」

「どっちも結構です……」

 マリーナは褒めているつもりらしかったが、彼女に棒使いと言われても、卑猥な単語にしか思えなかった。棒を武器にしている武芸者だっているというのに。

「しかし、これでは私の出番がなくなってしまう……」

「それじゃ僕が入れる方を担当するんで、取り出す方をお願いします」

「仕方ない。貴様の提案をのんでやる」

 仕方ないと言いつつも、自分の作業があることに、マリーナは満足げだった。

「マリーナ、『物体移動』で取り出したら、油を抜いてから置いてね」

「わかったわ、シモンヌ。しっかり抜くわ」

 どうにも部分部分で彼女の単語が卑猥なものに思えたが、伊吹は気にせずに作業をすることにした。

 作業は約1時間ほどで終わって集計に入った。程なくして、頼まれた個数を達成していたことを確認する。

「言われた数は揃えたわ、マリーナ」

「そうね、シモンヌ。終わったって、報告に行ってくるわ」

「それじゃ、私は片づけでもしてるわね」

 マリーナはバトルフィールドの階段を駆け上がり、観客席へと向かった。シモンヌは簡易カマドの火に砂をかけて消し、溶き汁の入ったボールを持って階段を上がっていく。一人残された伊吹も、抜き取った矢尻をはめ込み、元あった場所に矢を戻しに行った。


 再び三人が集まる頃には、場内の清掃作業も終わり、交換会用の垂れ幕が設置されていた。

「今日のところは、これでおしまいね」

 首のストレッチをしながらシモンヌが言う。

「今日のところは……って、明日もあるんですか?」

「そうよ。私たちは明日も、ここでお仕事なの」

「また揚げ物ですか?」

「それは今日だけよ。明日は演出要員として呼ばれてるの」

「演出要員、ですか……」

 演出要員と言われても、舞台で言うところの照明や音響といった設備もないので、何をやるのかイメージすら湧かなかった。

「シモンヌ、見せてあげましょうよ」

「そうね、マリーナ」

 二人は向き合うと大きく頷き、シモンヌが『球体錬成』でカラフルな球体を次々に生み出した。砂地には山のように球体が積み上げられていく。

「10、11、12……」

 球体の傍ではマリーナが数を数えていた。数えているのが球体の数でないことは、その倍以上ある球体数からわかる。

 『球体錬成』で生み出された球体は30秒で消える。そのことを考えると、早く何かしないと消えてしまうと落ち着かなくなる。

「24、25、26……そろそろ行くわよ」

 マリーナは『物体移動』で球体をまとめると、天井近くまで垂直に移動させ、そこで四方八方に飛び散らせた。カラフルな球体が散らばり、30秒経って消えていく様は、花火のようだった。

「綺麗なものですね。『球体錬成』に、こんな使い道があるなんて思いませんでした」

 素直に褒めると、二人は腰に手を当ててドヤ顔を向けた。

「もっと褒めてもいいわよ、遠慮しなくていいわ。ねぇ、シモンヌ」

「そうそう、もっと褒めなさい。そして、心に刻みなさい。どんな能力があるのかよりも、与えられた能力をどう使うのかが大事だってことを」

 褒めてくれ……というのはさておき、能力の使い方云々を聴いて、彼女がまともなことが言えたことに驚く。

「ところで、名前を訊いていなかったわね」

「あっ、僕は伊吹です」

 マリーナに尋ねられて、名前も言っていなかったことに気づく。

「そう、イブキね。覚えておくわ。明日は、もっと凄いのを見せてあげるから、ここにいらっしゃい」

「そうね、マリーナ。球体も金色にして、派手な一発を見せてあげようじゃないの」

 球体の色は別として、その一発に期待が高まる。

「楽しみにしてます。じゃ、作業も終わったんで、同じ会社の人のところに戻ります」

 二人に軽く会釈して、観客席にいるサーヤたちの元へと向かう。

 掃除と飾りつけは既に終わっていて、ちょうど伊吹が戻ってくるのを待っていたところだった。かたまって座っているサーヤ、マユタン、ウサウサ、ブリオ、シオリンの前に行くと、サーヤが椅子から飛び立った。

「そっちは、もういいわけ?」

「うん、頼まれた数は揃えたから問題ないよ。今から行っても、バトルに間に合いそうだね」

「そうだな。それじゃ、闘技場へ行こうか」

「了解なのです」

「オイラも行くんだな」

 サーヤの“闘技場へ”という言葉に反応したのはマユタンとブリオの二人だけで、ウサウサとシオリンは黙って立ちあがった。伊吹は何となく「おや?」と思ったが、深く考えることなく闘技場があるギボウシへと向かった。

 その道中、会社近くでシオリンとウサウサは家に戻ることになった。バトルに出ないことは、伊吹がいない間に話していたらしい。あまり出たがらなかったシオリンが来ないのは予想できたが、何でも見たがっているウサウサが来ないのは意外だった。

「ウサウサ、どうして今日は来ないんだろう?」

 闘技場への道を歩きながら、サーヤに問いかける。

「誰かさんが、昨日のバトルで“もう光は、たくさんだ!”とか言ったからじゃないのか?」

「あっ……」

 昨日のバトルを思い出して、「しまった」という気になる。ウサウサのアビリティ『光耀遮蔽』が、あまりにも対戦相手の裸を光で覆うものだから、堪らず口走った言葉が“もう光は、たくさんだ!”だった。

 これを近くで聴けば、その能力を持つ彼女としては出づらいなと、今になって自責の念に駆られる。

「まぁ、彼女の口から直接聞いたわけじゃないから、本当のところはわかんないけどさ」

 落ち込む伊吹を見かねてか、推測であることをサーヤが付け加える。

「でも、詫びておくよ。なんか、バツが悪いし……」

「それがいい。ウサウサは感情を表に出すタイプじゃないから、気になることがあったら、言葉で伝えておいた方が無難かもな」

「うん。顔に出ないというか、表情が隠されちゃうんだけどね……アビリティで」

 供物に感情は不要だと言われてきた彼女には、表情を隠そうとする癖がある。そこに、隠したいものや見たくないものを光で覆う『光耀遮蔽』が加わって、気持ちを読み取れない人物の究極系になっていた。

 こんな感情を隠すコンボがなければ、今頃はもっと打ち解けていた気がしてならない。そういう意味でも、伊吹にとって『光耀遮蔽』はクソアビリティだった。

 そうこうしているうちに闘技場に着き、中に入るとワニックが出迎えてくれた。いつになく嬉しそうな顔で。

「喜べ、アイツと戦える」

 どう考えても、喜んでいるのはワニック自身だった。

「アイツって?」

「ガリだ」

 一瞬、寿司のことが頭をよぎったが、前に対戦したワシ顔の亜人種を思い出す。人呼んでスーパーコモンという、珍しいのか珍しくないのかわからない二つ名を自ら名乗り、Sレアが展開した『電磁結界』を破ったコモン。それがガリだった。

「彼の会社とは、戦ったばかりなのに……」

「ヘッドハンティングされたそうだ。今はツチ農林組合にいる」

「会ったの?」

「ああ。さっき、そこで見かけたから話しかけた。次に当たるのが、ヤツの会社だと知った時は鳥肌が立ったぞ」

 ガリと対戦したがっていただけに、ワニックの興奮は相当なものだった。

「そりゃ、ワニックはアイツと戦うのが嬉しいかもしんないけどさ、勝つことを考えたら喜んでらんないっての」

「その人は何者なのです?」

 ガリのことを知らないマユタンがサーヤの足先をつつく。

「平たく言えば、身体能力の高い飛行ユニット。レアリティはコモンだから能力はないけど、下手な能力があるより遥かに厄介だ」

「そんな人に空を飛ばれたら困るのだ。やっぱり、飛行ユニットは必要なのです」

 だから、飛行ユニット限定ガチャを回したんだよ、と言いたい伊吹だった。

「飛行ユニット対策は考えてある」

 待っていましたと言わんばかりに、ワニックが胸を叩いた。

「どんな?」

「ヤツが飛んだら、何かをぶつければいい。当たれば落ちる」

 訊いたサーヤが半笑いで話し始める。

「いや、そもそも投げられるような物を持って、バトルフィールドに入れないし……」

「うん。身に着けられるのも、ユニフォームに限られるからね」

 伊吹が補足したところで、ワニックは人差し指を立てて左右に振った。違う、と言っているらしい。

「フィールドに入った後に、能力で生み出した物なら問題ない。例えば、ウサウサが出した壁をだな…………おい、彼女はどうした?」

「今日は出ないってさ」

 サーヤに言われてワニックは大きく口を開いたが、すぐに取り直して拳を強く握った。

「では、仕方あるまい。ユニットにはユニットを。この中の誰かを、俺が責任を持って奴にぶつけるとしよう!」

 提案したワニックと最初に目が合ったのはサーヤだった。

「あたいをぶつけてもノーダメージだ」

「ふむ、確かに」

 次にワニックと目が合ったのは伊吹だった。

「僕は女の子を倒さないといけないから……」

「それもまた然り」

 次に目が合ったのはマユタンだったが、ワニックは何も言わずに視線を逸らした。重量的に厳しいのだろう。

 ブリオは目を合わせようにも、口に手を入れてボーッと天井を見つめていた。

「ブリオ、覚悟はいいか?」

「……?」

 名前を呼ばれたブリオはワニックを見て頷いた。たぶん、今までの話は聴いていない。

「よし、任せろ」

 ワニックはブリオの手を取って強く握りしめた。


 バトルフィールドに整列して初めて、対戦相手が3人であることを知る。ワニックが言った通り、そこにはガリの姿があった。思えば、前に戦った時もガリのチームは3人だった。舐めているのか、それとも人が少ないのかは知らないが、5人で来られるよりは与し易いのは間違いない。

 対戦相手のツチ農林組合はガリを中央に、向かって左に巨大なエリンギの化け物。右側にスレンダーな赤髪の女性がいた。巨大エリンギは根元に細かな脚が複数生え、目は見当たらないが大きな口があり、全長1m弱といったところだ。女性は背中の開いたレオタードを着ている。

 伊吹たちは、左から順にブリオ、ワニック、サーヤ、伊吹、マユタンの順で並ぶ。

「相手の能力、わかる?」

「勿論なのです。巨大キノコのスキルはワニックと同じ『瞬間加速』で、アビリティが……」

 言っている途中で空気の波が押し寄せ、マユタンが急に黙り込む。

「『能力解析』は、させないわ!」

 スレンダーな女性が、マユタンに向けて手を突き出していた。

「むむっ、能力情報がかき消されたのだ」

「それって、まさか……」

「知ってるでしょ? 能力によって生じた事象を打ち消す『無効波動』よ」

 誇らかに笑いながら、スレンダーな女性が自分の能力を解説する。

「アビリティで消されたって、もう一回やれば問題ないのだ」

 もう一度、マユタンが『能力解析』で巨大エリンギの能力を見ようとすると、今度はスレンダーな女性の手から白い光が伸びた。

「むむっ、むむぅ~……」

 マユタンは拳を握ってワナワナと震わせた。力んでいるのか、顔が赤くなっていく。

「『能力解析』が使えないのです。この力は、もしかすると……」

「知ってるでしょ? 能力を発動させなくする『発動阻止』よ」

「これでは能力を判別できないのです」

 能力を封じたことで悦に入っている女性に対し、マユタンが唇を尖らせて悔しがる。

「いや、彼女の能力は『発動阻止』と『無効波動』だってわかったし、巨大キノコの方もスキルがわかっただけで充分だよ」

 残るガリにスキルが無いことはわかっているので、不明なのは巨大エリンギのアビリティだけとなった。能力を封じるスキルを使った時点で、その人の能力がバレることを考えると、『能力解析』の使い手がいたら相手に能力を知られるのは避けられない気がした。

「能力の使用をやめてください。ルール説明を行います」

 幼い女の子の声がしたと思って、声がした方を見ると、フリル付きのエプロン風ドレスを着た子供が、出場者の顔を見上げていた。

 あどけなさが残る顔というか、ランドセルがよく似合いそうな少女は、自分よりも大きな杖に寄りかかるようにして立っている。

「私は、このバトルの審判を務めるユーリです。これからルール説明をするので、ちゃんと聞いてください」

 いつもと審判が違うということよりも、幼女にしか見えない子が審判を務めることに若干の戸惑いがあった。ただ、その幼い声は何処かで聴いたような気がしてならない。

「それでは、ルールを説明します。勝利条件は、相手陣地の旗を取る。相手チームを全員、強制離脱させる。このどちらかになりますが、指定された物以外を持ち込んだ場合は、その時点で反則負けになります。あとですね、運営スタッフに暴言を吐く、正常な進行を妨げる行為があった場合も、反則負けになります」

 審判のユーリが説明し終えると、傍に立っていたメタボ気味の男性が前に出た。

「私は回復役のユーインです。みなさんの治療に当たらさせて戴きます」

 続いて、おでこの広い男が前に出て話す。

「転移係のギュンターだ。死にそうな奴は、俺が転移させてやるから感謝しろ。以上だ」

 ユーインとギュンターが一歩下がる。こちらも、いつもの回復役と転移係ではなかった。いつもの人たちは休みなのかもしれない。

「合図係が笛を吹いたらバトル開始です。ルールを守って、フェアな戦いを心がけましょう」

 そうユーリが呼びかけると、彼女たちはフィールドの端へと移動していった。

 ワニックは自分の頬を叩いて気合いを入れると、ガリを睨んだまま身構えた。それを見て、ガリは腕組みをしたまま少し顎を引く。

 両者の間だけ別の空間が広がっているかのように殺気立っていた。

「僕は彼女を、マユタンはキノコをお願い」

「了解なのです」

 伊吹が小声で伝えると、マユタンも小声で答え、それぞれの相手を見据えた。

 一瞬、場内が静まり返った後に、観客席で角笛が吹かれる。

 開始と同時に巨大エリンギは猛スピードで自陣の旗に駆け寄って静止した。そのスピードからして、『瞬間加速』を使ったであろうことは想像に難くない。

 だとしたら、巨大エリンギは4秒間2倍のスピードで行動した後、4秒間のスピード半減タイムに入ることになる。倒すなら今が絶好のチャンスだということは、『能力解析』のスキルを持つマユタンも理解していた。

 この好機を逃すまいと巨大エリンギを追尾し、ボディアタックを食らわせようとした時だった。彼女の動きは極度に遅くなって、そこだけスローモーションで再生しているかのような状態へと変わる。

「これは、変……変……変……」

 ショックを受けて口にする言葉もゆっくりだった。何が起こったのかと、再び『能力解析』を巨大エリンギに発動したことで、その疑問が氷解する。

 不明だった巨大エリンギのアビリティは、周りにいる者の動きを遅くする『速度制限』だった。この周りにいる者の中には、発動した者も含まれている。

 巨大エリンギ自身の動きも遅くなっていたが、旗の前に陣取った時点で、その役目は果たしていた。旗を取られないようにする為の時間稼ぎだ。

 一方、伊吹はスレンダーな女性に先制攻撃を仕掛けようとしたが、彼女の『発動阻止』の方が早かった。突き出された彼女の手から伸びる白い光が当たり、『快感誘導』なしでの戦いを強いられる。

「知ってるでしょ? 私には『発動阻止』があるのよ」

「まいったな……」

 その言葉は女性を殴りたくないから、能力が使えないのは困るという意味である。相手をボコるくらいなら、足元にある砂で目つぶしをして、その隙に自分も旗を狙おうか……なんて思えてくる。その相手の旗に目を向けると、マユタンがゆっくり動いていた。

「あれ? マユタン、随分とゆっくり動いてるな」

「知ってるでしょ? あのキノコには『速度制限』のアビリティがあるのよ」

「知らないんですけど……」

「それじゃ、知りたいでしょ? 『速度制限』は自分の周囲にいる者の動きを遅くする能力なのよ」

 自分で説明するなら、『能力解析』を封じた意味も、あまり無いような気がした。

「あの能力も、あんたの『無効波動』で打ち消せるわけ?」

「当然」

 サーヤの質問にスレンダー女性が鼻で笑う。

「それじゃ、あんたは『無効波動』を使えないってわけだ。せっかくの時間稼ぎ能力が効果を失うんだからな」

「そうね。でも、問題ないわ。なぜなら、能力を打ち消す以前に、『発動阻止』で能力を使えなくするからよ。こんな風にね!」

 スレンダー女性の手がサーヤに向けられる。伊吹の能力を抑え込んでいた白い光は、今度はサーヤの能力を封じる。

「おっと、これはまいったね。これじゃ切り札が使えない……」

 サーヤは焦っているかのように、苦笑いを浮かべた。“切り札”と聴いても何のことかわからず、サーヤに疑問の視線を送ると彼女は軽くウインクした。これは彼女の演技なんだと知り、伊吹は口をつぐむ。

「どうやら、あなたが最も厄介な能力を持っていそうね」

 スレンダー女性はサーヤへの警戒を強め、さっきまで注視していた伊吹を見なくなる。サーヤの意味深な言動に、相手は彼女が凄いスキルを持っていると思ったようだった。彼女を狙うなら今だと、伊吹がダッシュで駆け寄る。

「甘いっ!」

 再び、『発動阻止』の光が伊吹を照らす。目論見が外れたことで、動きが止まる伊吹の前にサーヤが飛んでくる。

「あたいが盾になる」

 サーヤは『発動阻止』の光を受け止め、それが伊吹に届かないようにした。

「邪魔よっ!」

 苛立つスレンダー女性を見て、サーヤが指を鳴らす。

「やっぱり、このスキルは対象者が1人だ。2人分の光を出せない。あたいが光を受け止めるから、前に進め! イブキ」

「わかった」

 伊吹は迷わず相手へと突進した。何度か、光の方向を変えられたが、その変化に合わせてサーヤが飛び回り、結果として伊吹が当てられることはなかった。

「あぁ~もぉ~! イライラする!」

 『発動阻止』の光を伊吹に当てられずに苛立つスレンダー女性の前まで駆け寄ると、伊吹はしゃがみ込んで彼女の右足を掴んだ。

「何を!?」

 戸惑うスレンダー女性に『快感誘導』を発動させる。伊吹の手から放たれた赤い波動のようなものが、彼女の体を駆け巡った。

「ああぁんっ! ら、らめぇ~~!」

 言葉にならない声を上げ、スレンダー女性は快感に打ち震え、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

「知ってるでしょ? これが僕の『快感誘導』っていう……」

 彼女の真似をしてみたが、真似した当人の耳には届いていなかった。

 伊吹たちが戦っている頃、ワニックとブリオはガリと対峙していた。

 開始早々に宙に舞い上がったガリは、一直線に旗を目指した。そこに『瞬間加速』で戻ったワニックが立ちふさがると、ガリは急旋回して狙いをブリオに変える。

 ブリオは近づくガリに対応しきれないまま、急降下してきたガリに頭部を殴られて砂地に突っ伏した。ダメージが大きいと見なされたのか、ブリオは転移させられて治療を受けることになった。

 ワニックは投げようとしていたものを失うも、早く殴り合いたいという衝動を抑え、『瞬間加速』のスピード半減タイムが過ぎ去るのを待った。

 それに付き合うかのように、ガリはゆっくりとワニックに向かって歩いていく。

「飛ばないのか?」

「たまには歩いてみたくなるものだ」

 2、3歩踏み出せば相手に届くほどに近づくと、両者は体に力を入れて相手の出方を窺った。相手が仕掛けないと見るや否や、スピード半減タイムが終了したワニックは、踏み込んで右ストレートを放った。

 その攻撃を楽々かわすと、ガリはワニックのみぞおちに膝蹴りを食らわせた。ドスッという音がしたものの、ワニックは鈍い痛みを耐え忍んだ。

 ガリはワニックの反撃を警戒し、一歩後ろへと下がる。

「硬いが、遅い」

「これなら、どうだ!」

 ワニックは再び『瞬間加速』を使うと、通常の2倍のスピードでガリに殴り掛かった。次から次へとパンチを繰り出すものの、ガリは両手を使ってはねのけた。

 ならばと、ワニックが回し蹴りで頭部を狙うが、それも屈んだガリに避けられてしまう。

 早く動ける時間に限りがあるワニックは、休むことなく攻撃を続けたが、完全に動きが見切られていた。

 攻めあぐねているうちに時間が経ち、再びスピード半減タイムが訪れる。ワニックの動きが鈍くなるのを見て、今度はガリが攻撃に打って出る。

 ガリはワニックが突き出した左手を両手で掴むと、それを引っ張ると同時に素早く体を浮かせ、クロスさせた足先でワニックの首を締めにかかった。全体重をかけられたワニックは倒れ、腕ひしぎ十字固めが決まる。

「……っく」

 硬い皮膚を持つワニックも、関節を決められては迂闊に動けなかった。動き回って体力を消耗していたこともあり、疲れやすい彼としては行動限界に近かった。

 スレンダー女性を倒した伊吹が、次の行動に移ろうとしたのは、そんな時だった。ワニックの窮地を目にし、直感的に自陣の旗へと向かう。

「サーヤ、向こうの旗をお願い」

「わかった」

 相手の旗を託されたサーヤは天井付近まで飛び、スローな動きを続けるマユタンを眺めた。

「あの能力の範囲がわかればな……。仕方ない、できるだけ遠くから迫るか」

 巨大エリンギの『速度制限』の効果範囲が目に見えない以上、範囲内に入らないことを最優先に考え、サーヤは最も高い位置まで飛び、相手側の壁ギリギリのラインで降下した。しかし、効果範囲は壁際まで及んでおり、範囲内に入ると羽ばたくスピードが落ちて、ストンッと落下した。

 伊吹がワニックの元に駆けつけると、ガリは関節技を外して舞い上がった。技が解かれてもなお、ワニックは倒れたまま起き上がらない。

「ワニック……」

 治療してもらえるとはいえ、ワニックの無残な姿を見て、奮起するところがあった。伊吹は旗の前に立ち、ガリが降りてくるのを待った。

 目が合ったと思った瞬間、ガリは急降下して伊吹の左肩に踵を落とした。その足を掴んで『快感誘導』を放とうにも、速過ぎて満足に反応することも叶わない。

 肩に激痛が走り、砂地に膝をつくと、降り立ったガリの連打が各所に炸裂した。

「ぐはっ……」

 腹部に重いパンチを受け、胃液が込み上げる。

「お前では相手にならん。下がれ」

 ガリは旗の前から退くよう手で合図したが、伊吹は両手を広げて進路を塞ぐ意思を示す。

「心意気は認めよう。だが、手も足も出ないのなら、蛮勇と言わざるを得ない」

「手も足も出なくたって……口だけは出してやる」

「減らず口を……。おっと、これは褒め言葉になるのか」

 口にした言葉にガリが苦笑する。

 伊吹としては咄嗟に出た減らず口だったが、審判への暴言ひとつで負けが決まることもあるから、口先だって重要だと思い直す。現に、審判への幼女発言で負けたケースを耳にしたばかりだ。

 そこまで考えたところで、『遠隔受信』で聴いた幼い女の声が、今日の審判の声と似ていることに気づき、思わぬ戦法がひらめく。

「相手にならないから下がれとか、心意気は認めようとか、ちょっと格好つけた言い回しをして、女性によく見られようって魂胆だな。例えば、彼女のような女性に!」

 声を振り絞った後、体の痛みに堪えて審判を指さした。突然、指されたユーリの顔が赤くなる。

 だが、ガリは嘲笑して言い放った。

「女性だと? まだ幼女ではないか」

 ユーリは頬を膨らませると、持っていた杖を振って観客席に合図を送った。合図係は角笛を吹き、「勝者、スコウレリア第三事務所」という判定が下された。

「バカなっ!?」

 怒鳴るガリの元にユーリが大股で近づく。

「先の発言を審判に対する暴言とみなし、ツチ農林組合の反則負けとします。私は幼女ではありません、撤回してください」

「クッ……」

 ガリは頭を抱えたが、撤回する気配はなかった。


 家に戻ると、テーブルの上には色とりどりのキノコが並べられていた。軽く焼かれたそれに、塩辛い白い粉を振りかけて食べるのがマ国流とのこと。今日の食事を選んだのはチガヤで、購入理由は安かったからというものだった。

「これも美味しいけど、食事はマユタンが選びたかったのです」

 皆でテーブルを囲んで食べていると、マユタンは残念そうに言った。

「うん、それじゃ明日の食事は選んでもらうね」

「やったぁー!」

 キノコを食べながら、マユタンが諸手を上げて喜ぶ。

「それでね、明日はユニット交換会から戻ったら、マユタンの歓迎会をしようと思うんだ」

「歓迎会かぁ……」

 チガヤの提案を聴いて、伊吹は1対1で話し合う歓迎会を思い出した。そういえば、あのときはウサウサに『快感誘導』を使ったんだよなと振り返る。一週間ほど前のことなのに、今では随分と懐かしい。

「あの、昨日のことなんだけど……」

 歓迎会のことを思い出したついでに、ウサウサに言っておきたいことがあったと、伊吹は彼女に話しかけた。

「バトルでさ、もう光はたくさんだ……とか言っちゃったけど、あれは何と言うか、ちょっと眩しかったと言うか……」

 うまく言葉にできずに頭を掻く。

「とにかく、気にしないで。バトルに出ないでって意味じゃないし、というか一緒に戦ってほしくて、その、だから……」

「……はい、共に戦いましょう」

 ウサウサは伊吹の手に、そっと自分の手を重ねた。わかってもらえた気がして、伊吹は安堵の吐息を漏らす。

「マユタン、シオリン的にはアレを聴きたいんですねぇ~」

「了解なのです!」

 伊吹がウサウサと話している横では、シオリンがマユタンに『遠隔受信』をリクエストしていた。

 マユタンはテーブルを離れると両手を前に出し、手のひらからポコポコと黒い球体を浮き出させた。その1つにマユタンが触れ、男女の会話が聴こえてくると、それを話題にして二人はお喋りを始めた。

 話の内容から察するに、男女は言い寄る男性と無下にする女性という関係性だった。伊吹は心の中で男性を応援しながら、塩辛いキノコを味わった。



 翌日、ユニット交換会の会場に入ると、場内には既に大勢の人が入っていた。

 腕の星印を見るに、高レアリティのユニットが多かった。彼らは数人ほどでまとまっていて、その近くには所有者とおぼしき星印を持たない人がいる。

「たくさんいるね、お祭りみたい」

 大勢の人を目にして、チガヤが少し浮かれる。言われてみれば、お祭りの賑やかさに似ていた。

 後から入ってくる人たちに押される形で前に出ていくと、バトルフィールドから上がってきたマリーナとシモンヌに会う。

「あっ、イブキ。ちゃんと私たちに会いに来たのね。なかなか感心な奴め」

 マリーナは弟の頭でも撫でるように、伊吹の髪の上で手のひらを滑らせた。

「私たちの演出は、例の道具を使ったバトルが始まってからなの。それまで、適当に時間を潰して待ってなさい」

 シモンヌは伊吹の肩を叩くと、マリーナと一緒に観客席の上の方へと歩いて行った。

「知り合い?」

「うん、まぁ……そんなところ」

「ふぅ~ん」

 チガヤは立ち去っていく二人の姿をじっと見ていた。

「ところで、バトルイベントは、どんなものなんだ?」

 今日も戦えると張り切っているワニックが、バトルフィールドを覗き込んで言う。フィールドには昨日、マリーナたちと作成した丸い揚げ物が並べられ、その近くには小さなカゴ付きのヘアバンドがあった。

「あそこにある揚げ物を頭にのっけて、相手のを壊すルールらしいよ」

 揚げ物を指さすとワニックが目を見開いた。

「あんなのをのせたら、激しく動きまわれんではないか」

「バランス感覚が大事な戦いになりそうだよね」

 戦いの内容を聴かされたワニックは、近くの席にデンッと座って大きく息を吐いた。期待ハズレな内容だったのかもしれない。

「あたいは参加できないな、大きさ的に無理がある」

「マユタンは自分のを食べてしまいそうなのです」

「オイラも、食べたいんだな」

「シオリン的には、のせるのも厳しそうですねぇ~」

 それぞれがバトル内容に対する感想を言う。ウサウサはどうなのかと思って目をやると、ウサ耳を曲げたり伸ばしたりしていた。その耳で揚げ物を固定しようと練習している、そんなところだ。

「あら、来てくれたんですね」

 そう言って近づいてきたのはカリスタだった。今日は袖なしニットにタイトスカートの組み合わせで、腕には文字の書かれた腕章をしている。

 彼女の後ろには、昨日対戦したばかりのスレンダーな女性と巨大エリンギもいた。スレンダー女性は黒いズボンに白いブラウスという格好で、腕にはカリスタと同じ腕章をしていた。巨大エリンギも同じ文字が書かれたタスキをかけている。

「戴いた招待券、使わせてもらいました」

「使ってもらえて嬉しいわ」

「あの、そちらは?」

 後ろにいる女性のことを訊くと、カリスタはスッと横に逸れた。

「イベントスタッフとして、手伝ってもらっている方です。お知り合いかしら?」

「ええ、まぁ……」

 バトルで戦った相手を知り合いと言っていいのかには疑問があった。

「また、女性の知り合い」

 伊吹の後ろにいたチガヤがボソッと言う。バトルに来ない彼女にしてみれば、知らないところで、女性の知り合いばかり増えているのが不思議なのかもしれない。

「知り合いって言っても、一度戦っただけなんだけど……」

「ふぅ~ん。で、どこの何さん?」

「それが、名前は……」

 名前は聴いていなかった。

「知ってるでしょ? 私はヨハンナ。ツチ農林組合の従業員で29歳の独身。身長は157cmで体重は内緒」

 彼女の口癖なのか、スレンダー女性ことヨハンナは、相手が知っていることを前提で話を進める。

「名前、知ってるはずって言ってるけど……。それに、詳細なプロフィールも」

「いやいやいや、どれも初めて聴いたんだけど。というか、彼女はああいう話し方の人なんだよ」

「ふぅ~ん……」

 チガヤの目は明らかに何かを疑っていた。

「あの、イベントスタッフって何をするんですか?」

 カリスタに問いかけて話を逸らす。

「ユニット交換会が滞りなく進行するために、お客さんの誘導や人員整理なんかをしてもらうのだけれど、彼女たちの場合は注意事項を守らない人対策がメインかしら」

「注意事項?」

 カリスタは上を見るように手で促した。見上げると、赤い服を着た飛行ユニットが旋回しながら、何かを呼びかけていた。

「会場内での強化及び進化はご遠慮下さい。また、他のお客様のご迷惑になるような能力の使用はお控えください。そのような行為が見受けられた場合、退場してもらう場合がございます。ご協力をお願いします」

 飛行ユニットは背中にコウモリの羽根がある亜人種だった。その渋めの中年男性の声は、会場中に響き渡っている。

「よく響く声だね」

「音量を調節する『拡声調整』というスキルなのです」

 いつの間にか隣に来ていたマユタンが解説する。飛行ユニットに対して『能力解析』を使ったのだろう。

「なお、会場内におけるトラブル、事故、盗難、紛失、怪我などにつきましては、一切の責任を負いかねます」

 免責事項を言ったところで、飛行ユニットの呼びかけ内容が一巡したのか、“強化及び進化はご遠慮下さい”という注意事項を再び口にしていた。

「これが注意事項ですか」

「ええ。ちょっと厳しいかもしれないけど、円滑に進めるためには必要なことなの。協力してね」

「はい」

「それじゃ、ごゆっくり」

 軽く手を振ると、カリスタはヨハンナと巨大エリンギを連れて去っていった。その背を眺めていると、彼女たちと同じ腕章を付けた人が目に付く。

「あの腕章って何て書いてるの? イベントスタッフとか?」

「うん、そうだよ。イブキ、マ国の字を覚えたの?」

「いや、何となくそうかなって思っただけ」

 改めて辺りを見てみると、そこらじゅうにイベントスタッフがいた。タイプ的には人間は勿論、亜人種や異形の者もいて、年齢は幼女から老婆まで幅広かった。

 その幼女だと思った子は、よく見てみると昨日の審判ユーリだった。

「あっ、あの子……」

 昨日バトルに出た面子をつついて、彼女の姿を確認させる。

「昨日の審判じゃん、何してんだろ?」

「イベントスタッフみたいだよ」

「へぇ~」

 サーヤが意外そうに見ていると、ユーリが視線に気づいて走ってきた。

「何かご用ですか?」

「いえ、昨日バトルで見た人だなぁ~って話していただけです」

「そうでしたか。では」

 用が無いと知ると、ユーリはタカタカ走って元いた場所に戻った。

「あの幼い子も知り合いなんだ。イブキは女の子と知り合う為に、バトルしてるの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 実際には知り合うどころか、女の子を倒すことを目的にしているところがあった。

「ちょっと失礼」

 話し合っているところに、恰幅の良い中年男性が割って入る。伊吹たちが避けると、男性はその先にいた額の広い金髪男性に話しかけた。

「やぁ、チェストミールさん。久しいですな」

「ロブレヒトさんじゃないですか、ユニットオークション以来ですね」

 ロブレヒトと呼ばれた恰幅の良い中年男性は、額の広いチェストミールの手を取って再会を喜んだ。

「ここにいると邪魔になるね。そっちに行こう」

 伊吹は一段上の席を指し、チガヤたちを誘導する。ずっと立っているのも疲れるので席に座ると、チガヤ、マユタン、ウサウサと次々に座っていった。自然と、再会した男性たちの会話を聴く体勢になる。

「チェストミールさんがアンフィテアトルムに来るとは珍しいですな」

「なに、野暮用がありましてね。昔馴染みに、ユニットの交換を持ちかけられたのですよ」

「ほぉ~、どんなユニットです」

「サトル」

 チェストミールは後ろにいた黒髪で眼光の鋭い少年に声をかけた。黒いTシャツに黒いズボンを履いた少年は、チェストミールの傍に行くと、ロブレヒトに軽く頭を下げた。

「彼はサトルというのですが、近くにいる誰かの脳内にあるイメージを映し出す『脳内映写』というアビリティと、対象者と感覚を共有する『感覚共有』というスキルを持っていまして、今回は『脳内映写』に興味があると言われて来た次第です」

「初めて聴く能力ですな。交換するのは彼だけですか?」

「交換相手が決まっているのは彼だけです。後ろにいる二人は、私の護衛と交換希望者です」

「交換希望者? ユニット自ら他のところに行きたいと?」

「はい。どうも、うちのユニットたちと折り合いが悪いようでして……」

「それなら、私のユニットと交換しましょう。能力を教えていただけませんか?」

「いいですとも。ノエ、前へ」

 言われて出てきたのは、覇気のない暗い感じの男性だった。身にまとったローブから覗く腕には星印が5つ付いている。

 そのノエが出るのに合わせて、サトルが後ろへと下がる。護衛役とおぼしき茶色のマントを羽織った青年は、後ろで待機したままだ。

「彼のレアリティはウルトラレアです。スキルは能力を無効化する体表コーティングを施す『万物拒絶』で、アビリティは酸の雨を降らせる『硫酸降雨』になります。内容だけ聴くと凄そうに思えるかもしれませんが、『万物拒絶』の効果範囲は体の前半分。『硫酸降雨』は自分にも当たるので、事実上の死にスキルにアビリティです」

「ハッハッハ……これは何と奇遇な。うちにも同じ能力の者がいますよ。おい、トビアス」

 神経質そうな長身男性がロブレヒトに近寄る。男性は紺色の法衣を身にまとっていた。

「コイツも『万物拒絶』に『硫酸降雨』ですよ。最初に『万物拒絶』を見た時には笑いましたね。体の前半分がパックされたようになったら、微動だにできないときた。能力効果を無効化できても、動けないんじゃ意味ありませんて。なぁ、トビアス」

 ロブレヒトは笑いながらトビアスの背中をバンバン叩いた。トビアスは愛想笑いを浮かべたが、目だけは笑っていなかった。

「では、その彼と交換を?」

「いえ、こんな役立たずをチェストミールさんに渡すわけにはいきません。おい、デメトリオ」

 スキンヘッドの男が前に出る。デメトリオは上半身裸なのにマフラーをし、下は短パンという格好だった。腕には星印が4つある。

「彼は如何でしょう? レアリティこそSレアですが、髪の毛を自在に操れるスキル『頭髪操作』と、周囲にいる人間の痛覚を奪うアビリティ『痛覚遮断』を持っています。体の具合が悪いときなど、『痛覚遮断』で楽になれますよ」

「それは便利ですね。ロブレヒトさんが、彼との交換で構わないというのでしたら、是非ともお願いしたい」

「勿論、喜んで。では早速、『所持変更』が使えるスタッフのところに行きましょう」

「ええ」

「行くぞ、デメトリオ。カイルとトビアスは、そこで待ってろ」

 ロブレヒトはデメトリオを連れ、観客席の上の方へと向かった。その後をチェストミールが自分のユニットと一緒に追っていく。

 その場にはトビアスと、カイルと呼ばれた豹顔の亜人種が残された。

「私、ウルトラレアって初めて見た」

 会話を聴いていたチガヤが囁く。

「僕は前にも見たことあるけど、あんまりいないよね。ここにはゴロゴロしてそうだけど」

 見るからにお金を持ってそうな人がわんさかいると、そんな気がしてならなかった。

「そうだね。やっぱり召喚するのは、お金持ちの人かなぁ……」

 お金持ちと言われると、どうしてもヒューゴの顔が浮かんでしまう。そう言えば、このユニット交換会は、彼が主催者だったはず。前に、そう書かれたチラシを見た気がする。

「豹さんの能力は、肉体を数分前の状態に戻すスキル『可逆治癒』と、自分の周囲にある能力の痕跡を光らせるアビリティ『能力探知』なのです。いろんな能力の人がいて、マユタンは楽しいのです」

 マユタンは『能力解析』のスキルで、近くにいる人のスキルとアビリティ見て楽しんでいた。高レアリティのユニットが多い分、珍しい能力情報が入ってくるのかもしれない。

「あの護衛役の人は、どんな能力を持っていたのかわかる?」

「茶色のマントの人は、自分の指紋が残ってる物を呼び寄せるスキル『物質転送』と、自分の周りに炎の壁を出現させる『爆炎障壁』なのです」

「なんか、凄そうだね。彼とはバトルで当たりたくないな」

 『物質転送』で武器でも呼び寄せられたら、さすがに『快感誘導』があっても太刀打ちできそうにない。これから行われるイベントバトルのことを考えると、対戦したくない相手の筆頭になっていた。

「待たせたな、カイル、トビアス」

 ロブレヒトがノエを連れて戻ってくる。ユニット交換が終わり、チェストミールのユニットだったノエは、今やロブレヒトのものとなっているようだった。

「てっきり、自分が交換されるとばかり思ってました」

 能力をロブレヒトにバカにされていた長身男性のトビアスが、新しく加わったノエを見て言う。

「バカなことを言うな。同一型ユニットを揃える機会を……いや、何でもない」

 言いかけた言葉を飲み込むと、ロブレヒトは一番下の段の観客席を指した。

「トビアスとノエは、そこに立ってバトルフィールドを見ていてくれ。バトルイベントが始まりそうになったら呼ぶように」

「はい」

「わかりました」

 トビアスとノエが返事をすると、ロブレヒトはカイルについてくるよう合図し、観客席の上の方へと歩いて行った。トビアスとノエは指示された通り、バトルフィールドに目をやった。上の方に行ったロブレヒトからは、二人の背中が見える形となる。

 何をするんだろうと見ていると、ロブレヒトはノエを指さして声を張り上げた。

「ベースユニットをセット!」

 ロブレヒトが言い終わる前に、トビアスがノエを退かす。ベースユニットとして身体を赤い光で包まれたのは、トビアスの方だった。彼の腕に付いた5つの星がより赤みを増す。

「やると思っていましたよ、進化合成を。消されてたまるかっ!」

 ロブレヒトは苦虫を食い潰したような顔でトビアスを睨んだ。

「ベースユニットをセットしたからには、進化か強化をしなくてはならない。終わるまでは、関係ない言葉を発することができない。そうなんでしょう? だったら、俺を進化させてくださいよ。さぁ、早く!」

 トビアスが狂気じみた物言いで、ロブレヒトに進化を促す。それは嘆願ではなく脅迫だった。

「け、消されるのは嫌だ!」

 進化素材対象であるノエが走って逃げようとしたところで、ロブレヒトは彼を指さして言った。

「素材ユニットをセット!」

 ノエの身体が青い光に包まれ、星印の色が薄くなった。

「進化開始!」

 スッとノエの姿が無くなり、トビアスを包む赤い光が強まった。伊吹にはトビアスの体が少し大きくなったように見えた。

「チェストミールさん、すまない……」

 ロブレヒトが打ちひしがれ、トビアスは低い声で笑う。

「これが、これが進化なのかっ!」

 トビアスは手を掲げて、腕の星印を数えた。星印は6つあり、ウルトラレア以上のレアリティを示している。

「レジェンドレア……」

 ロブレヒトの傍でカイルが呟く。それはトビアスのレアリティを意味していた。

「な、何がレジェンドレアだ。粋がるなよトビアス、進化して能力が強化されたところで、お前の死にスキルがどうなるというのだ……ハハッ、ハハハハ」

「それが進化に期待していた人間の言葉か」

 強がって無理に笑うロブレヒトをトビアスが嘲笑する。

 スキルの変化が気になり、伊吹はマユタンの方を向いた。マユタンは伊吹と目が合うと、唇を震わせながら語った。

「強化された『万物拒絶』は、能力効果と物理ダメージを無効化する全身コーティングなのです……」

※ 2016年9月7日に、登場人物の名前を変更しています。

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