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第五話 スーパーコモン

「あれ? 間違えた?」

 辺りを確認してみるが、どう考えてもチガヤの家で間違いない。

「……誰?」

 見慣れたリビングの椅子に、中年の男女が呆けた顔をして座っているのを見て、伊吹はシオリンに小声で問いかけた。

「チガヤのパパとママですよぉ……」

「あれが……」

 二人の存在は知っていたし、同じ家にいることも聴かされていたが、実際に見るのは初めてだった。ずっと奥にある部屋から出てこなかった上に、中に入らないようチガヤから言われていたのを守っていたからだ。

 チガヤの両親が部屋から出てこない原因は病気にある。この国の人間が働くと罹るという社畜病になり、寝ているだけの状態になっていた。チガヤが中に入らないようにと言ったのは、二人がガチャによるユニットの召喚に反対する組織に属していたことにある。故にユニットである伊吹は、二人が目の前にいる状態では家に入れないでいた。

「パパ、ママ、掃除が終わったから、入っていいよー」

 奥の部屋からチガヤの声がする。

 椅子に座っていた二人はゆっくりと立ち上がると、のそのそと歩いて奥にある自室へと入っていった。二人と入れ替わるように、水桶を持ったチガヤが出てくる。

「あっ、おかえり」

 伊吹たちに気づいたチガヤが、部屋のドアを閉めて声をかける。

「……ただいま」

 小さめの声で返し、伊吹は家の中へと入った。

「モデルのお仕事、どうだった?」

「無事に終わったよ。と言っても、モデルになったのはワニック達で、僕は見ていただけなんだけど……」

「そうなんだ。こっちはね、サーヤが頑張ってくれたから、依頼した人に喜んでもらえたよ」

「そういえば、サーヤは?」

「もう寝ちゃったよ。ちょっと、疲れたみたい」

 天井を見上げると、専用のハンモックの上で横になっているサーヤが見えた。

「市場で、ご飯を買ってきてるから食べてね。テーブルにあがってるから」

「お腹すいたんだな」

 ブリオがテーブルに置かれた麻袋を開くと、中には様々な木の実が入っていた。それをヒレのような手で掻き込む。

「全部食べちゃダメですよぉ~」

「食べる時だけは早いな」

 シオリンとワニックも椅子に腰かけると、木の実を手に取って食べ始めた。ウサウサはブリオ達が食べるのを後ろから眺めている。

「イブキは食べないの?」

「食べるよ。その前に……」

 前座代としてもらった銀貨をポケットから取り出して渡す。

「これ、どうしたの?」

「臨時収入。依頼主から別の仕事を頼まれて、それで……」

 “バトルに出る”と言うだけで困った顔をするチガヤだけに、戦って稼いできましたとは言いづらかった。

「報酬が銀貨って……大変な仕事だったんじゃない?」

「うん、まぁ……そこそこに」

「あっ、そうだ。お金、少し貯まったから分けるね。みんなも買いたい物とか、あるよね」

 チガヤは受け取った銀貨を伊吹に返すと、貨幣を入れている袋から銀貨を取り出し、ウサウサ、ワニック、シオリン、ブリオの順で1枚ずつ渡していった。均等な配布に、ヒューゴが行った“働き具合に応じた査定”のことが脳裏をかすめる。

「サーヤは渡しても持つの大変だと思うから、使いたい時に声をかけてもらうことにするね」

「それはいいけど……。大丈夫なの? 配っちゃって」

「うん。バトル初勝利の時に金貨を貰ってるから、まだ結構残ってるよ。サーヤの分を抜いても、あと銀貨5枚と銅貨が7枚ある」

 “微妙な数だな”というのが、正直なところだった。彼女のこういうところが、召喚された日のような無一文状態に陥る要因に思えた。無計画だと言ってしまえばそれまでだが、宵越しの銭は持たない江戸っ子のように、貯蓄するという発想がないのかもしれない。

 とはいえ、受け取ったものを返す気はない。これはこれで、いざという時のために取っておきたかった。伊吹は銀貨を再びポケットに入れると、ワニック達に混ざって木の実を貪るように食べた。



 翌朝、伊吹が自室を出ると、玄関のドア下からチラシが入れられていた。何気なしに、それを手に取ってみる。

「今日も入ってたの?」

 チガヤが後ろから覗き込む。

「見た感じ、昨日と同じに見えるけど……何て書いてるの?」

「美女ユニット限定ガチャ、好評につき、開催期間延長……って、同じだね。一緒に開催してた飛行ユニット、小型ユニットの限定ガチャも、期間を延長してるよ」

「飛行ユニットかぁ……ちょっと欲しいかも」

 昨日、戦ったヨナーシュのこともあって、飛べる相手に対抗できる存在の必要性を感じていた。

「おい……」

 女性の低い声に上を向くと、サーヤがハンモックから身を乗り出していた。小さいとはいえ、この家では唯一の飛行ユニットになる。

「飛行ユニットが欲しいって? あの時、あたいがそっちを薦めたのに、美女ガチャを選んだのは誰だった?」

「僕です……」

「心変わりが早いな、お前は」

 サーヤが伊吹の目の前まで降りてくる。

「心変わりって言うか、飛行ユニットの重要性に気付いたというか……。もちろん、美女の重要性は何一つ変わってないから」

「ふ~ん……。そういや、美女がいれば、やる気が何倍にもなるんだったよな。ウサウサが加わったんだ、チガヤも入れて2人も美女がいれば、何十倍にもなったやる気で、空も飛べるんじゃないのか?」

 冗談めかしてサーヤが言う。

「空も飛べるって……。やる気は万能アイテムじゃないから。それに、美女の数なら、サーヤを入れて3人……あてっ!」

 言っている途中で、サーヤは伊吹の額を軽く蹴り上げた。

「あ、あたいは入れなくていい!」

 それだけ言うと、ハンモックへと戻っていった。

「何かあったんですかぁ~?」

 壁に張り付いて寝ていたシオリンが目を覚ます。壁を背に寝ていたブリオも目を開けて辺りを見回した。

「ちょっとサーヤに蹴られただけだよ。起こしちゃったかな?」

「サーヤに蹴られた? ああ、よくあることですねぇ~」

 シオリンは椅子に座って二度寝に入る。ブリオも再び寝ようとしたところに、ドアを開けてワニックが入ってきた。

「無念だ」

「どうしたの? ワニック」

 意気消沈しているワニックにチガヤが歩み寄る。

「バトルは既にエントリー済みだった」

「エントリー済みって、会社に行ってきたの?」

「ああ。昨日、先にエントリーしたチームがバトルに出られると聞いたからな。早い者勝ちというのなら、朝一番にエントリーすればと思ったのだが、先を越されるとは……」

「それじゃ、今日もバトルに出られないんだね」

 チガヤがホッとした顔を見せる。自分のユニットが戦って痛い思いをしなくて済むから、というのは伊吹にもわかった。逆に伊吹は、二日続けて先を越されたことで、エントリーした人物が気になっていた。

「誰がエントリーしたんだろう? 昨日と同じ人かな?」

「同じだ。ユニット所有者は、確かシャノンとか言ったはずだ。俺も気になったんで訊いておいた」

「シャノンさん、か……。一度、その人に会ってみたいね。僕らのほかにエントリーしているのが、その人だけっていうなら、交互に出ましょうとか言えるし」

「そうだな」

「む~、二人ともバトルの話ばっかり……」

 面白くないのか、チガヤが頬を膨らませる。

「痛い思いをしても知らないよーだ」

 少しイジケ気味に言って、チガヤは両親がいる部屋へと入っていった。伊吹とワニックは顔を見合わせて苦笑する。

「彼女の前では、バトルの話は控えた方がいいかもね」

「どうやら、そのようだ。戦いを好ましく思わんのだろう」

「うん、それもあると思うけど、何より僕らが殴られたりするのを、見たくないんじゃないかな」

 ますます、アンフィテアトルムでのことは話せないと思う伊吹だった。



 既にエントリー済みということを受け、いつも通りの時間に出勤する。

 受付で仕事のチケットを受け取ると、チガヤは自分のユニットを呼び寄せた。その手には仕事チケットの他に、封筒も握られている。

「今日の……じゃなくて、今回のお仕事を発表しまーす。今回は明後日までの期限で、サニタの卵を5つ集めるお仕事です。報酬は銀貨1枚、経費として銅貨を3枚まで使えるよ」

「サニタって、あのトイレにいるヤツ?」

「うん、そうだよ」

 この国のトイレには、黄色くて丸い4本脚の生き物がいた。排泄物を主食としている彼らが存在するお陰で、この国の衛生レベルが上がっているのは伊吹もわかってはいたが、トイレに行くたびに排泄する箇所を舐められるのは好きになれなかった。

 トイレは建物単位で設置されているのではなく、公衆トイレとして一定間隔で置かれていた。そもそも、トイレとは使う側が思っているだけであって、サニタからすれば巣になる。人間に巣の場所を用意され、そこに作らされているわけだ。

「それじゃ、あちこちのトイレをまわって、卵が無いか見て歩くの?」

「ううん、それはトイレの管理を頼まれた人がやってるよ。私たちが今回やるのは、野生のサニタの卵を取って来るお仕事。たぶん、トイレにいるサニタが産む分だけだと、足りないんじゃないのかなぁ」

「それだけ、新しいトイレが要るってことだよね。卵じゃなくて、成長したサニタじゃダメなの?」

「大きくなったサニタを別のところに連れて行っても、元いた巣に戻っちゃうよ。巣が無くなってれば別だけど、今あるトイレを壊すわけにもいかないから、卵を孵化させて、そこで餌を与えて、定着してもらうようにしてるんだよ」

「へぇ~……」

 あの“かまくら型の茶色い巣”を作るのに、こんなにも手間がかかっていると知り、設置の為に尽力した人への感謝の念が、伊吹の中で湧き起こる。

 伊吹の質問攻めが終わったところで、サーヤが今回の仕事の問題点を問う。

「野生のサニタ、か……。問題は何処にいるかだな」

「うん、サーヤの言う通り、探さないといけないよね。誰か知らないかなぁ?」

 チガヤが社内を見渡す。伊吹も一緒に見渡すものの、いかにも詳しそうな雰囲気の人など見当たらない。

「そういうのに詳しそうな人がいるの?」

「ん~、よく考えたら私、ほかの従業員とあまりお話したことないんだよね。シオリンは詳しそうな人、知らない?」

 チガヤは、えへっと笑ってシオリンに問いかけた。それを見て、サーヤが伊吹の耳元で囁く。

「チガヤは両親以外じゃ、あたいらしか知り合いがいないんだ。だから、まぁ、なんつーか、そういうところは、そっとしておいてほしい」

「うん、わかった……」

 “ぼっち”かと思うと、彼女の「ユニットは友達」発言も哀しく聴こえてくる。目の前では、チガヤの質問にシオリンが首を横に振っていた。

「そっかぁ、シオリンも知らないかぁ……。じゃ、情報倉庫に行こうかな」

「情報倉庫? あっ、そういえば……」

 伊吹は情報倉庫の初回無料券をポケットから出し、チガヤの目の前で広げて見せた。

「どうしたの? これ」

「昨日、仕事先で貰ったんだ。これ、使えるんでしょ?」

「うん、まだ利用したことが無い人なら使えるよ。私は何度も利用してるから使えないけど」

「あっ、そうなんだ。それじゃ、僕が野生のサニタがいそうな場所を、この券を使って調べてみるよ」

 チガヤは広げた券をそっと押し戻した。

「いいよ、経費で調べるから。これはイブキが貰ったものなんだから、何か調べたい時に使って」

「……わかった」

 券を再びポケットに入れる。

「それじゃ、みんなで情報倉庫に行こっか」

 チガヤに案内される形で、伊吹たちはスコウレリア情報倉庫へと向かった。



 情報倉庫は街の中心部にあり、その近くには市場やスコウレリア大金庫もあった。倉庫という名がついているものの、建物自体は第三事務所と大きな違いはなく、同じような位置に受付があり、その奥にはパーテーションで区切られた席が設けられている。

 中にいる人の大半はユニットだが、一番奥の本棚が並べられている所には、手に星印の無いマ国の住人が集まっていた。字を読める者となると、ユニットでは少ないのかもしれない。

 となると、銅貨1枚で色んな情報が買えるとはいえ、この国の字を読めない自分には利用できないのではないか……と、伊吹は手にした無料券を見て溜め息をつき、ポケットの中に押し戻した。

「いらっしゃいませ、スコウレリア情報倉庫へようこそ」

 チガヤが建物の中に入ると、受付の女性が笑顔で出迎えた。ここのスタッフの制服なのか、紫色の布をタスキ掛けしている人が彼女を含め何人かいる。

「会員のチガヤです。文書コースで、サニタの生息地域の情報をお願いします」

「銅貨1枚になります。会員カードのご提示をお願いします」

「はい、どうぞ。あと、領収書をお願いします。宛名はスコウレリア第三事務所で」

 受付はチガヤが差し出した銅貨1枚と会員カードを受け取ると、厚紙の束と帳簿を取り出して、両方のページをめくった。

「少々お待ちください……。え~、地域情報の棚の42番になりますね。領収書は、お帰りの際にお渡し致します。それでは、どうぞごゆっくり」

 そう言って受付は、棚の番号が書かれた木の札をチガヤに渡した。

「ちょっと待っててね」

 振り返って言うと、チガヤは本棚が並べられている場所へと向かった。

 伊吹は言われた通りに数分ほど待っていたものの、いろんな人が出入りするのを見るにつけ、中の様子が気になりだした。入り口付近で軽くジャンプしたり、つま先立ちしたりして、中を覗いていると受付が声をかけてきた。

「いらっしゃいませ」

「あっ、僕は待ってるだけなんで……」

「そうでしたか。でも、何か気になることがおありでしたら、そちらの無料券をお使いになられては?」

「無料券?」

 気づけばポケットから初回無料券がはみ出していた。これを使って文字資料を渡されたところで、マ国の文字が読めないのだから意味はない。ただ、中には入れそうだから、それだけでもいいかと思えてくる。

「じゃ、使ってみようかな」

「では、会員登録からですね。お名前は?」

「伊吹です」

「イブキ様……と」

 受付は取り出した台紙と帳簿にサラサラと文字を書いた。

「『形態投影』で姿を写させて頂きますので、そちらのパーテーションを背に立って下さい」

「こう……ですか?」

 伊吹は近くにあったパーテーションを背に、直立不動の姿勢を取った。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。はい、いきますよ」

 受付は伊吹を真っ直ぐに見据えると、指で枠を作る仕草を見せた後、台紙と帳簿に『形態投影』で伊吹の姿を写した。

「こちらが会員カードになります。ご利用の際には、必ずお持ちください」

「はい」

 差し出された会員カードを受け取って返事をする。

「当倉庫での情報取得には、口頭説明コースと文書コースがございます。口頭説明コースはスタッフが口頭で説明するコースで、文書コースは奥にある本棚の資料を閲覧するコースとなっております。両コースとも1件につき銅貨1枚となっておりますが、文書コースをご利用の場合のみ、1件につき1つのスタンプが帳簿に押され、貯めた数に応じて特典が付与されます」

 細かい内容は頭には入らなかったが、口頭説明コースなら文字が読めなくても内容を知ることができる、ということだけは理解できた。

「注意事項としまして、当倉庫内の資料を写す行為、資料の持ち出し、複数人でのご利用の禁止がございます。それでは、本日は何をお調べになられますか?」

「え~っと……」

 昨日、チガヤの両親を初めて見たこともあって、真っ先に浮かんだのは社畜病のことだった。病名自体、ヒューゴに言われるまで知らなかった、といっても『脳内変換』能力による名称だが、チガヤが罹る恐れもあるだけに、気にせずにはいられなかった。

「あの……」

 と、言いかけたところで、チガヤが戻って来た。

「イブキ、何をしてるの?」

「待ってる間に調べものをしようかと思って」

「そうなんだぁ。あのね、サニタのこと、思ったよりも時間がかかりそうだから、探しに行くのは明日にしようと思うの」

「うん、わかった」

 伊吹が頷くと、チガヤは他のユニットたちの元に行き、事情の説明を始めた。

「ちょっと、すみません」

 受付に断りを入れ、伊吹はチガヤの説明に加わった。

「……ということだから、ここで解散ね」

「それじゃ、先に帰ってますねぇ~」

「オイラも帰るんだな」

 シオリンとブリオが帰宅を表明したところで、ワニックが手を挙げる。

「俺は闘技場に行ってから戻る。どんな奴がエントリーしたのか気になる」

「あたいも、見ておきたいかな」

「私も、ご一緒させて頂いても、よろしいでしょうか?」

「俺は構わないが、また例の光を出したらマズいのではないか?」

 ワニックが言う例の光とは、ウサウサのアビリティ『光耀遮蔽』のことだ。アンフィテアトルムでは、出場したユニットの血しぶきを見た為に、隠したいものや見たくないものを光で覆う『光耀遮蔽』が発動してしまっていた。観客が試合をまともに見られなくなるからと、途中で退席した経緯がある。

「流血沙汰になりそうでしたら、その時はバトルから目を逸らしますので」

「それで発動しないなら構わないが……」

「大丈夫なんじゃない? 実際に出てみて思ったけどさ、バトルの質って変わったよな。前に見た時は、もっと血だらけになっているヤツが多かったけど、そういうの見ないし……。噂の民間闘技場に流れたのかもな、ヤバそうな連中が」

 『光耀遮蔽』のことを懸念するワニックを説得するように、サーヤがバトルの変化について語った。“死ぬ一歩手前まで行く”とか言ってた割に、骨が折られるようなこともないのは、伊吹も少し疑問視していた。

「イブキは、どうするの?」

 ワニック、サーヤ、ウサウサが闘技場行きを決めたと見たのか、チガヤが残った伊吹に訊いてくる。

「僕は、ここで調べものした後に、闘技場に行くよ。ワニックと同じで、エントリーした人が気になるし……」

「そっかぁ……。やっぱり、闘技場に行くんだ。バトルを観ても、変に感化されちゃダメだよ」

「うん、わかってる……つもり。じゃ、僕は調べものに戻るから」

 伊吹はチガヤから逃げるように、再び受付へと戻った。

「お決まりになりましたか?」

「社畜病について、口頭で説明してくれるコースで」

「初回無料券をお使いですよね?」

「はい」

 ポケットから無料券を出して渡すと、受付は厚紙の束をめくった。

「少々お待ちください……。え~、固有名詞の棚の721番になりますね。こちらの札を手が空いているスタッフにお渡しください」

「どうも」

 木の札を受け取った伊吹は、近くにいるスタッフを確認した。一番近くの男性スタッフが暇そうだったが、奥の方にる小柄な女性スタッフが手空きだったので駆け寄る。どうせなら、女性に説明して欲しいからだ。

「あの、これ、お願いします」

「かしこまりました」

 女性スタッフは笑顔で了承すると、木の札を受け取って本棚へと向かい、紐で縛られた厚紙の束を持ってきた。

「お待たせしました。どうぞ、こちらにおかけください」

 パーテーションで区切られた一角へと案内され、置いてあった椅子に腰掛ける。女性スタッフもテーブルを挟んで向き合う形で座った。

「それでは、社畜病について説明させて頂きます。発症が確認されたのは建国前である3700年ほど前という説もありますが、この名称が初めて使用されたのがマ国暦956年になります。ちょうど、ガチャの台座が発見された時期と重なります。どちらが先だったかは、今なお議論されております」

 今年が何年なのか知らない伊吹にとっては、それが何年前なのかわからなかったが、取り敢えずは黙って聴くことにした。

「主な症状としては、酷い脱力感と強い眠気、やる気の低下、食欲の低下、興味の喪失、動作が遅くなる、疲れやすいといったものが挙げられます。現在のところ、有効な治療方法は見つかっておりません」

 女性スタッフが厚紙をめくって続ける。

「発症の原因は、長時間の労働によるものという仮説が広まっておりますが、実際のところは仮説の域を出ておりません。他には、スキルによる人為的発症説、『脳内変換』アビリティによる副作用説がございます」

「働くとなるって、仮説だったんですか……」

「はい、広く一般に浸透しておりますが仮説に過ぎません。説明を続けますね。人為的発症説として、人を病気にするスキルを使ったものが考えられています。このような仮説が立ったのは、発症した人の多くが、ユニットの召喚は非人道的であると主張する『ガチャの廃止を求める会』や、この世界の住人以外を受け入れるべきではないと主張する『ユニット追放協会』のメンバーだからです。国策として行っているガチャに反対する組織のメンバーをスキルで潰し、国によるガチャの配備を推し進めたとのではないかというのが本仮説になります」

「こんなことを伝えて、国の方から何か言われないんですか?」

「今のところは特に。同じようなことを伝えていた別の情報倉庫は急に無くなりましたが、不思議と当倉庫には政府関係の方も来ませんね」

「そうなんですか……」

 話がきな臭くなってきた感がした。

「『脳内変換』アビリティによる副作用説は、ガチャの台座が発見された時期と重なることから考えられたものになります。先ほど話に出ました2つの団体のメンバーは、その主張からわかる通り、ユニットを所持しておりません。『脳内変換』アビリティは、契約済みのユニットとマ国の人間の言葉の壁をなくすものですが、ユニットを所持していないマ国の人間の言葉も変換されます。ユニットは未契約では言葉が通じないのに、誰とも契約をしていなくてもマ国の住人は通じる、そこの不自然さからくるものではないかというのが本仮説になります」

 女性スタッフは伊吹が聴いていることを確認し、先を読み進める。

「現在、マ国で言葉の壁が無いのは、『脳内変換』アビリティを有するユニットが、各地に配置されているからになります。これも国が行っておりますので、国が発症の原因を作ったとなれば大問題です。そこで、国としては長時間の労働によるものという仮説を広め、病気には罹らないユニットの召喚を推進していると主張している団体もあります。また、近年では1分働いても3分休めばよいといったような、ガチャをまわす余裕がない層に向けたメッセージを国の方で流している事実がございます。なお、副作用説に関してですが、アビリティの効果が及ばない地域に患者を連れ出しても、症状の改善は見られなかったという例が報告されています。社畜病については、以上になります」

 聴き終えた伊吹の感想は長いなということと、この国の闇は深そうだということだった。チガヤは、このことを知っているのだろうかとも思ったが、ここを利用していて調べていない訳がない。

 ここの情報を知っていたとしても、誰かに説明するとなると、やはりチガヤがしたように、メジャーな仮説を使うのが妥当な気がした。

「ちなみに、社畜病を調べられた方は、次のようなことも調べられています。ガチャの廃止を求める会、ユニット追放協会、ユニットの反乱、次元転移、ヒューゴ……」

「ヒューゴ? ここのオーナーの?」

「はい、プロフィールは本人の希望で削除されておりますが、著作を閲覧することは可能となっております。タイトルは、『お金の為に働いてはいけない、お金は働かせるものだ お金の奴隷にならない為の投資術』と『働き続けることが前提の人生で大丈夫か 働けなることを考慮に入れたライフプラン』ですが、いかがいたしましょうか?」

「結構です。それより、次元転移って何ですか?」

「元いた世界に戻すスキルのことですよ」

 さらりと言われた言葉に伊吹は固まり、理解すると共に大きな声を上げた。

「えぇーっ!?」

「あまり大きな声を出されると、他のお客様の迷惑になりますので……」

「す、すみません……」

 今の今まで“元いた世界に帰る”ということを考えていなかったことに、今頃になって気がついた。思えば、召喚されてすぐに強化される不安を覚え、その日の食事も無いという環境に置かれ上に、美女ガチャの存在によって大事なことを忘れさせられていた。

「そんなスキルがあるんですね。詳しく教えてくださいよ」

「では、この札を受付に返した後に、情報の購入を……」

 女性スタッフは木の札を返してきた。

「そうなりますよねぇ~……」

 伊吹は木の札を持って受付へと戻り、銀貨を両替して銅貨を払うと、次元転移の説明を口頭説明コースで頼んだ。

 席に戻って新たに渡された札を女性スタッフに渡すと、彼女は別の紙の束を持ってきて説明を始めた。

「それでは、次元転移について説明させて頂きます。存在が確認されたのはガチャの台座が発見され、ユニットが召喚され始めた年の終わりになります。最初のスキル所有者は、自分にスキルを使用し、元いた世界に戻っています」

「そりゃ、まぁ……帰るよね。帰れるんなら」

「いえ、元いた世界によっては、こちらに残られる方もいらっしゃいます。説明を続けますね。このスキルの所有者は年に数人は現れておりましたが、こちらに留まられる方は稀でした。そのため、召喚者にとっては、ユニットがいなくなって、貨幣が無駄になることから、ハズレと呼ばれるようになりました」

 駄菓子屋で空っぽのカプセルの出た日のことを思い出す。あれに近い感覚だろう。

「ところが、ハズレという認識を一変させる事件が発生します。それがケイモ事件です。次元転移のスキル保持者であるケイモが、元いた世界に帰りたい人を無償で帰し始め、それに多くのユニットが殺到するという事態になりました。街はパニック状態になり、ユニットを失った所有者たちは、その怒りの矛先をケイモへと向けました」

「それで、どうなったんですか?」

「ケイモと彼の所有者は捕えられ、事態は収束に向かいました。ハズレとされていた次元転移スキル保持者は、危険な存在と認識が改められ、召喚後の能力鑑定で発見されれば、直ちに拘束されて他人に触れることが出来ないよう、縛り上げられることになりました。その点に関しては今も変わっておりません」

 あの日、自分を鑑定した老婆が言いかけてやめたのは、このことではなかったのか……。そんな気がしてくる。

「拘束されるとはいえ、多くのスキル保持者は、収監されると自分に対してスキルを発動させ、元いた世界に帰っています。捕える時には、能力の発動を封じるスキルである『発動阻止』を使用していますが、ほかに危険なアビリティを持っていないのであれば、収監後は『発動阻止』によって能力の使用を封じられることはないと言われています」

「危険な存在は、いなくなってもらえれば、それでいいということですか……」

「そうなりますね」

「ケイモさんも、収監された後に帰ったんですか?」

「彼は現在も、この世界にいらっしゃいます。現在は浮遊島アンブカナニアにて、所有者である女性の方と暮らしておられます」

「どうやって抜け出したんですか? 暮らしてるって、追われていないんですか?」

「では、続きを説明させて頂きます」

 女性スタッフは再び紙の束に目線を移した。

「ケイモと彼の所有者は同じ場所に収監されていました。そこへ、新たな次元転移スキル保持者が入れられたのですが、その人物はユニット契約を終えていませんでした。召喚された時点で既に重い病に侵されていたことで、召喚主に見捨てられたと言われております。問題は、この人物がケイモと同種族で同じ能力を持つ、いわゆる同一型だったことにあります」

「それって……」

「進化素材になる……ということです。ユニット契約をしていませんから、星印に触れれば契約は成立してしまいます。同じ場所にはケイモの所有者がいましたから、進化に必要な要素が揃ってしまったことになります。進化したケイモのスキルは強化され、それまでは相手に触れなければ発動しなかった次元転移が、視界に入れただけで発動可能な能力へと変わったのです。同時に、効果の範囲選択も可能となり、対象の体の一部だけ転移させるといったことも出来るようになったとか。何より、『発動阻止』でも抑えられない力となったことが大きいです」

「その力を使って逃げたんですね?」

「はい。彼は看守ユニットに対し、強化された次元転移を使うことで、牢の鍵を手に入れて逃げ出したと言われています。その後、彼は浮遊島アンブカナニアに移り住み、次元転移を希望するユニットには、高額の謝礼と引き換えに、元の世界へと戻しているという情報を得ています」

 次元転移のことを知った時は戻れるという希望を持ったものの、高額の謝礼と聴いて故郷の風景が遠のいていった。それでも、女性スタッフの説明は続く。

「彼に対して追手が向けられたこともありますが、強化された次元転移を相手にするのは、ユニット兵部隊でも容易ではありませんでした」

「ユニット兵部隊って何ですか?」

「文字通り軍隊の一部隊で、ユニットだけで構成されています。メンバーはプレミアムガチャを超えるガチャ、レジェンドガチャから出されたユニットの中でも、特に戦闘面で役立ちそうな能力を持った者で構成されています。受付で、ユニット兵部隊でリクエストして頂ければ、より詳細なことをお伝えできますが?」

「お金、かかるんですよね?」

「もちろんです」

 にこやかな女性スタッフを見て、伊吹は所持金と相談した。銅貨が9枚ある。

「じゃ、結構です……。あの、レジェンドガチャって初めて聞いたんですけど……。確か、ガチャ神殿にあるのは、プレミアムガチャが最高じゃなかったですか?」

「そうですね、ガチャ神殿はプレミアムが最高です。レジェンドガチャは一般公開されていない政府専用のガチャになります。受付でリクエストして頂ければ、より詳細なことを……」

「結構ですから……」

「残念です。それでは、次元転移の続きに戻ります。ケイモが以前のような無償でのスキル使用ではなく、高額な謝礼との引き換えとなったことで、以前のようなパニックは起きませんでした。ケイモ自身も、自分を捕えていた人々や国に対して事を起こすこともなく、島からは出ない生活を送り始めたこともあり、国も彼に対して不干渉となっていったのです。そして、現在に至ります」

「なるほど……」

「ちなみに、次元転移を調べられた方は、次のようなことも調べられています。ユニットの反乱、社畜病……」

 またしてもな展開に、どこぞのレコメンド機能かよ、と突っ込みたくなる。この世界の人には通じない単語だが。

「社畜病って、このスキルと何か関係ありましたっけ?」

「ケイモの所有者が重度の社畜病患者なので、一緒に調べられている方が多いのではないでしょうか」

「ユニットの反乱というのは?」

「反乱軍のリーダーが、このスキルを持っていました。ケイモが捕えられていた頃、自分の革命が成功した暁には、参加者を無償で元の世界に戻すと言って扇動しましたので、一緒に調べられているのでしょう。反乱のキッカケになったのは、リーダーが元いた世界で交際していた女性が召喚され、所有者に強化素材にするぞと脅されて性的暴行を受けたことになります。これを受けてユニット保護法が制定されるのですが、こちらはリクエストなさいますよね?」

「ああ……え~っと、説明ありがとうございました!」

 伊吹は勢いよく頭を下げ、その場から逃げ出した。

 情報倉庫を出たところで、ふとチガヤのことが気になったが、手伝おうにも複数人での閲覧はできないし、何より自分はマ国の文字が読めない。

 当初の予定通り、闘技場へと向かうことにした。


 ギボウシの闘技場に入ると、観客席ではスコウレリア第三事務所のユニフォームを来た男性4人と見知らぬ女性が1人、そしてワニック達の姿が目に入った。

「お待たせ」

 自分を待っているかは知らないが、他に掛ける言葉もないので言ってみる。

「遅かったな。こっちにいるのは、バトルに出るメンバーだ」

 ワニックがユニフォームを着た4人組を紹介するように手を向ける。

「オラは、オトっす」

 朴訥そうな小人が頭を下げた。身長は80cmくらいで、耳が少しだけ尖っている。

「ニコラスだ」

 長身長髪の男が、椅子に寝転がったまま軽く手を挙げた。

「ワシはケントと申す」

 オト同様、身長80cm程度の小人が、下から伊吹を見上げる。彼も耳が少し尖っており、鼻が異様に大きかった。

「僕の名は……ミカエル……です」

 ガリガリの男性がカスカスの声で答える。身長は伊吹と同じくらいだったが、痩せすぎて骨と皮だけのような人物だった。ミカエルの自己紹介が終わると、彼らの傍にいた女性が伊吹の前に出る。

「私はシャノン。彼らの所有者ですわ。あなたは?」

「伊吹です」

 名乗りながらシャノンを見つめる。背格好はチガヤに似ていたが、雰囲気的には真逆だった。ネックレス、ブレスレッド、指輪と幾つも宝飾品を身に着けているせいか、チガヤにはないブルジョワ感が漂っている。身にまとっているローブも、見るからに質感と光沢の良さが違っていた。

「そう、イブキね。突然だけど、彼らと一緒にバトルに出てくれないかしら?」

「えっ? どうして僕が?」

「私の占いが、あなたが出れば勝てると告げたのよ」

 ドヤ顔で言うと、シャノンは目の前に小さな絨毯を敷き、そこにカラフルな石を転がした。石は赤、青、緑、黄色、透明など、様々な色があった。

「何度やっても同じね。活性化を示す赤の傍に透明な石が来てるわ。透明は人間を表しているの。つまり、これは今日のバトルは人間で行いなさいという天の導き。そして、石が表向きということは男性が望ましいわ」

「はぁ……」

「あなた、スコウレリア第三事務所の従業員なんでしょ? それなら、何の問題もないじゃない。バトルに出て、勝って、会社に貢献しなさい。そして、私の占いが当たることを証明するのです」

「別に僕が出なくても、あなたのユニットを出せばいいんじゃないですか?」

「残念なことに、私のユニットで人間は4人だけなのよ。妥協して、小人を入れてもね。これで我慢するほかないと思っていたところに、あなたのことを聞きましたの。やはり、4人よりも5人。戦わせるのであれば、フルメンバーにしてあげるのが親心ならぬ、ユニット所有者心というものではなくて」

「そうなんですか……」

「バトル開始まで時間がありますから、よくお考えになってくださいまし」

 それだけ言うと、シャノンは観客席の最上部へと向かった。その先には女性達がたむろしていて、何やら楽しげに話をしている。そこにシャノンが加わると、彼女達の会話がさらに弾んだ。

「あの人達は一体?」

「シャノンの取り巻きみたいなもんさ」

 サーヤは飛んでくると、伊吹の肩にとまった。彼女に続き、ウサウサも傍に寄る。

「お友達に、自分の占いが当たるところを見せたいようです」

「その為に戦うの?」

「はい……」

 ウサウサから戦う動機を聴かされて、変わった人もいるものだと、伊吹は半ば呆然とするところがあった。口を開けてシャノンを眺めているとサーヤが頬を突く。

「まぁ、彼女の道楽に付き合うのは嫌だろうけど、たださ……」

「ただ?」

「会社的には勝った方が良いんだよな」

「それはね……。サーヤは、勝つ為に僕に出ろと?」

「出るかどうかはイブキが決めることだ。あたいがとやかく言うことじゃない」

 そこまで言うと、サーヤは耳元に口を近づけた。

「本音を言えば、負けた時、あの女が、どんな顔をするのか見てみたいけどな」

 伊吹は軽く笑うだけにした。

 確かに、会社的には勝った方がいいのは間違いないが、勝つことで彼女が気をよくして、明日もエントリーされたら自分的には困る。そこのところが、伊吹としては複雑だった。ふと、前にドラマで観た社内での派閥争いのことが頭をよぎった。同じ会社の人間でも、それぞれの利益があるんだなと。

「巻き込んでしまって、申し訳ないっす」

 小人のオトが頭を下げる。

「ったく、俺がいれば勝てるってのによ」

 長身のニコラスが寝転がったまま、椅子に踵を叩きつけた。

「慢心してはならぬぞ、ニコラス」

 ケントがたしなめると、ニコラスは体を起こした。

「慢心も何も事実だ。俺の電磁結界があれば、誰も旗を取ることはできねぇ。前回もそうだったじゃねぇ~か」

「電磁結界って、周囲に電気の網を巡らせるアビリティですよね」

「お前、知ってるのか」

「昨日、二度も見たので」

 アンフィテアトルムで戦ったカリスタ、チャレンジバトルの大男が使うのを見たばかりだ。確かに、あのアビリティを発動してしまえば、旗を取るどころか、旗に近づくことも不可能に思える。

「俺の凄さは電磁結界だけじゃねぇ。スキルだって、相手の能力を発動させなくする『発動阻止』だ。どんな能力を持った奴も、封じてしまえば怖いもんなしさ」

 ニコラスは右手を突き上げた。その腕の星印は4つあり、彼がSレアであることを示している。

「じゃ、僕が出なくても勝てそうですね」

「まぁな!」

 自信満々のニコラスの服を掴み、ケントが首を横に振った。

「守りはいいかもしれぬが、攻め手に欠けるとは思わんか」

「その辺は何とかなるだろ。俺の電磁結界の凄さに勝つのは無理だとわかれば、いくらでも隙ができるだろうよ。そしたら、お前らでも相手の旗くらい取れるさ」

「確かに、前回は相手が戦意を失ったから勝てたが、今回も同じように運ぶとは限らん」

「悲観的な奴は陰気くさくてヤダねぇ」

 二人の会話を聴きながら、伊吹はニコラス以外の星印を確認した。オト、ケント、ミカエルの星印は3つでレアを示している。つまりは全員、何らかの能力が使えることになる。

「あの、ニコラスさん以外の能力を教えてもらってもいいですか?」

 その質問に真っ先に応えたのはオトだった。

「オラはスキルが『火炎五指』で、アビリティは『範囲消化』っす。こんな感じっす」

 オトは人差し指の先に炎を出して見せた。次は中指、薬指、小指、親指と、5本すべての指先に炎を灯すと、糸くずを近づけて燃やした。その後、「ハッ!」と気合いを入れると炎が一斉に消え去った。

「どこかで見たような……」

 伊吹は懐かしい気持ちになった。

「次は……僕の番……ですね」

 ミカエルは伊吹の前に出ると、ボディビルで言うところのモストマスキュラーというポーズを取った。

「フンッ!」

 掛け声と共にミカエルの筋肉が膨れ上がり、ガリガリだった体が標準的な体つきへと変化する。

「これが……僕のスキル『筋肉肥大』です。筋肉量を……一定時間……アップできます。再使用には、インターバルが要る……。アビリティは『音響反射』で、周りの音にエコーをかけるだけだから……役に立たないです」

 言い終わるとミカエルは、ゼェ、ゼェと苦しそうに息をした。

「最後はワシか」

 ケントは一つ咳払いをして話し始める。

「ワシのスキルは『形態投影』という、この国で最もメジャーな能力になる。アビリティは『養分枯渇』といって、土地を痩せさせるものじゃ」

 確かに、攻め手に欠ける能力だった。

 オトのライター並みの火、ガリガリのミカエルが使う『筋肉肥大』があったところで、戦局が有利になるとは思えない。ケントの見た物を写す『形態投影』に至っては、バトルでは何の役にも立たないだろう。やはり、自分も出た方が……という気持ちになってくる。

「攻め手に欠けるかもしんないっすけど、相手は3人だから一斉に突っ込めば何とかなるっす」

「えっ? 5人じゃないの?」

「3人っす。そう話していたっす」

 オトの言葉に耳を疑う。バトルは5人未満でも参加できるが、どこのチームも5人揃えてくるからだ。今まで5人揃えていないチームなどなかった。

「3人って、凄く強そうな人が3人とかなの?」

「違うっす。鳥頭の人と、女の子が2人っす」

「お、女の子?」

「そうっす。結構、可愛い子だったっす。バトルに出てくれるんっすか?」

「う~ん……」

 伊吹は少し考えるフリをした。女の子が出ると聴いた時点で、既に結論は出ている。

「同じ会社の人の頼みだからね、僕も出るよ」

「助かるっす」

 ケントとミカエルからも礼を言われたが、伊吹の頭には入ってこなかった。『快感誘導』を使うことで、頭が一杯になっていたからだ。



 バトル開始の時間となり、伊吹とシャノンのユニットはバトルフィールド上で、相手チームであるヤリカツギ清掃事務所のメンバーと対峙した。

 相手はオトが言った通り、大きな翼を持ったワシ顔の亜人種と2人の女の子だった。女の子は短めのスカートを履き、タンクトップから谷間をチラつかせる巨乳少女と、同じ服を着ているのに、谷間どころか膨らみもない貧乳少女がいた。

 巨乳少女が戦いの前から勝ち誇った顔をしているのに対し、貧乳少女は眠たげな目でぼんやりと宙を見つめていた。

 ワシ顔の鳥男は、黒いスパッツを着用しているだけで、腕の星印を隠そうともしていない。彼の星の数は1つで、一番下のレアリティであるコモンであることを示していた。

「おい、コモンがいるぜ。コモンってスキルもアビリティもないんだろ? バトルで勝てると思ってるわけ?」

 Sレアのニコラスが鳥男を見て嘲笑する。

「レアリティが勝利の絶対条件でないことを教えてやる」

 重々しく言うと、鳥男はニコラスに睨みを利かせる。ニコラスは鼻で笑って目線を逸らした。

 フィールドの端では、説明を終えた審判団が持っている杖を重ね合わせ、観客席にいる合図係に開始のサインを送っていた。合図係は、それ受けて角笛を吹く。

 笛の音が場内に鳴り響くと同時に、鳥男は翼をはためかせて宙に舞う。ニコラスも開始とともに旗の元へと急ぎ、辿りつくと同時に『電磁結界』を展開させた。得意げな表情を見せるニコラスに、鳥男は冷たい眼差しを送る。

 一方、オトとケントは旗に向かって駆け出したものの、貧乳少女と交錯すると彼女と一緒にその場に倒れ込んだ。

「か、体がくっついたっす」

「なんと、肌が張り付いておる」

 二人の体と貧乳少女の体が、接着剤でくっつけたかのように離れなくなっていた。彼女を離そうとしても、付着している皮膚が伸びるだけだった。

「何、あれ……」

 女の子とくっついて離れない二人を見て、伊吹は羨ましくなった。

「あれはネイオミのスキル『身体付着』よ。体に触れたものが、離れなくなるイヤらしい技なの」

 巨乳少女が解説する。

「イシドラには言われたくない。アビリティを使うから、入ってこないでね」

 ネイオミと呼ばれた貧乳少女は、巨乳少女にそう言うと、瞳を閉じて息を吸った後に大きく目を見開いた。すると、彼女を中心に直径3mほどの青い光の円が出現した。

「か、体の力が抜けていくっす……」

「まったく力が入らんとは」

 ネイオミを引きずったまま前進しようとしていた二人だったが、彼女のアビリティが発動すると、気の抜けた顔で砂地に突っ伏した。発動させたネイオミ自身も、今まで以上に眠そうな目になっている。

「さぁ、私と一緒にダラダラしましょう……バトルが終わるまで」

 オトは彼女の右手に右肩を付けたまま、ケントは彼女の左足の脛に下腹部を付けたまま、微動だにできなくなっていた。その光景に伊吹は“胸部と太ももが空いている”という感想しか抱けなかった。

「あの円の中に入ると、力を入れることができなくなるの。足止め要員であるネイオミに相応しいアビリティよね、『脱力円陣』って」

 巨乳少女イシドラが丁寧に状況を説明すると、ガリガリのミカエルは自ら円の中に入っていった。

「ホントだ……か、体から力が……抜けていく……」

 ただでさえフラフラだったミカエルは、円の中に入ってよろめくと、ネイオミの胸部に頭が行く形で倒れ込んだ。ミカエルの体がネイオミの体にピッタリと付着する。

「うわっ! 何やってんですか!?」

 伊吹が怒鳴る。それは自ら相手の能力の餌食になったことへの怒りではなく、先に彼女にくっついたことへのものだった。

「フフッ、バカなお仲間さんだこと。どうやら、あたしの相手は、あなただけのようね」

 イシドラが伊吹を向いて身構える。伊吹はすっかりハズレを掴まされた気分だったが、この悔しさをぶつけようと、彼女に『快感誘導』を放つ隙を窺った。

「ハッ!」

 先に動いたのはイシドラだった。短いスカートにも関わらず、彼女は大きく足を上げると踵を落としてきた。伊吹はスカートの中が気になって、それを避けることが出来なかった。

「……っく」

 踵が右肩に直撃して鈍い痛みが走る。

 続いて、イシドラは腰を大きく振ってパンチを繰り出してきた。胸が大きくブルンブルンと揺れて、それに目を奪われた伊吹は体の動きが止まっていた。

「アタッ……」

 顔面にまともに食らって、目の前に星が見えた。

「フフッ、女の子のパンチも避けられないなんて、情けない人ね」

 楽しそうに笑うと、イシドラは足技を多用してきた。避けようと思うたび、見えそうで見えないスカートの中が気になり、集中できずに何度も蹴りを食らう。

 体中が痣だらけになった頃、イシドラはジャンプキックばかり繰り返すようになった。彼女が砂地を蹴るたび、大きな胸が必要以上に揺れて気になる上に、やはりスカートの中も気になって、伊吹は一方的に攻撃を受けては倒れ込んでいた。

「どうして、見えないんだ……」

 激しい動きをしているハズなのに、まったくめくれ上がらないスカートに疑問を抱く。

「それは、こういうことよ!」

 イシドラは伊吹の目の前で逆立ちしてみせた。

 彼女の胸は相変わらず無駄に揺れ動いたが、伊吹が目を奪われたのはそこではなかった。逆立ちしているにも関わらず、彼女のスカートは重力に逆らって体に付いている。その事実から目を離せなかった。

「そんなバカな……」

「これが、あたしのスキル『着衣付着』」

「着衣付着って……」

「着ているものが体に張り付く能力。だから、どんなに激しく動いても、スカートがめくれあがることはないのよ。フフッ、残念でした……っと」

 逆立ちをやめて伊吹の前に立つと、イシドラは軽くジャンプしてみせた。大きな胸が上下に揺れた後、何故か左右にも揺れ動く。

「そして、アビリティの『胸部震動』よ。周囲にいる人の胸が必要以上に揺れるものだけど、男性やネイオミのような貧乳には効果が無いの。どう? ショックだったかしら?」

「そんな……」

「そんな?」

「そんなことはない! うちには、もっと酷いアビリティを使う人がいるから、スカートの中が見えないくらい、どうってことないよ!」

 伊吹の堂々とした発言にイシドラがよろめく。

「あ、あたしの男心を弄ぶ能力で心が折れないなんて、一体どんなアビリティを使う人がいるというの!?」

「男が見たいものを光で覆うアビリティさ!」

「な、なんて酷い……」

 伊吹はイシドラがひるんだ隙を見逃さなかった。彼女を喘がせたいという想いが、体の痛みを忘れさせ、彼に猛烈なスピードを与える。

 一瞬でイシドラの懐に入ると、伊吹は彼女の腹部に手を当て、念願の『快感誘導』を放った。

「いやぁぁんっ!」

 艶めかしい嬌声をあげると、体のバランスを崩した彼女は倒れ込んだ。『快感誘導』を受けて意識が集中できなくなったからか、スキルの効果がなくなって彼女のスカートがめくれあがる。

 伊吹がスカートの中に期待したその時、見慣れた光がイシドラのデルタ地帯を覆う。

 ウサウサの『光耀遮蔽』だった。

「クソアビリティが……」

 そう思って観客席の方を振り返った伊吹の目に映ったのは、翼で砂煙を巻き起こす鳥男の姿だった。

「目潰しのつもりか?」

 舞い上がった砂にニコラスが顔を覆う。彼が展開した電磁結界は電気の網だけに、その隙間に砂を通すことは易しかった。

「こんなことで、俺の電磁結界が破れるものか」

 ニコラスの言葉を無視して、鳥男は翼で風を起こし続ける。その風は砂を電気の網へと運び、砂と接触した電気の網がバチバチという音を立てる。

「ここの砂は電気を通す。いずれ、巻き上げられた砂を伝い、お前の体にも電気が届くだろう」

「クッ……」

 感電の可能性を示唆されたニコラスは、自ら電磁結界を消滅させた。電気の網がなくなった瞬間、鳥男はニコラスに飛びかかると、顔面を掴んで砂地へと沈めた。

 マズいと思った伊吹が相手陣地の旗を取りにかかった時には、鳥男は既に旗を手にしていた。

「勝者! ヤリカツギ清掃事務所」

 判定が下り、角笛が吹かれる。

 歓声が上がると同時にネイオミが能力の使用をやめて立ち上がり、回復役は『可逆治癒』を使って傷ついたユニットを治してまわった。

「何なんだよ、てめぇ~は……」

 起き上がったニコラスが鳥男を見上げる。

「我が名はガリ。人呼んでスーパーコモン、ガリだ!」

 誇らしげに言うガリに、突っ込みどころが多いなと思いながらも、負けたという事実よりも可能性を感じる伊吹だった。



「いやぁ~、凄かったね。あの鳥の人」

 観客席で観ていたワニック達と合流した伊吹の第一声は“負けた”ではなかった。

「ああ、あの鳥男。いつか戦ってみたいものだ」

 ワニックは力強く拳を握った。

「お疲れ~」

「お疲れ様でした」

 サーヤとウサウサが苦労をねぎらう。

「勝てなかったよ」

「確かに、バトルには負けたけど、結果的にはベストかもな」

「どういうこと?」

「シャノンは、もうバトルに出ないってさ。取り巻きの前で、自分の占いが当たらないことを証明する結果になったんだ。面白くなかったろうよ……。“コモンに負けるだなんて、もうバトルなんて出ませんわ”って捨て台詞を残して出てったさ」

 楽しそうにサーヤが語る。これでまた、自分たちがエントリーできると思うと、やはり結果的にはよかった気がしてくる。

「で、どうする? まだ観ていく?」

「僕はいいよ。ちょっと、チガヤに頼みたいことがあるし……」

「頼みたいこと?」

「さっき、鳥の人を見て改めて思ったけど、やっぱり力のある飛行ユニットがいると助かるかなって……。だから、飛行ユニット限定ガチャを回してもらえないかと思って」

「そっか……。じゃ、あたいも行こうかな。ワニックとウサウサはどうする?」

「俺は、まだ観ていく」

「私はガチャが回されるところを見てみたいです」

 意見が割れたところで、自然と二手に分かれた。

「それじゃワニック、また家でな」

「おう」

 サーヤがワニックに手を振り、ワニックも拳を突き上げて応える。伊吹たちは闘技場にワニックを残し、まだチガヤがいるかもしれない情報倉庫へと向かった。



「僕も、戦士だったワニックに鍛えてもらえば、少しは戦闘向きになるかなぁ?」

 情報倉庫に向かって歩く中、伊吹は力こぶを作りながら二人に問いかけた。伊吹の前を飛んでいたサーヤが振り返って答える。

「鍛えないよりだったら、鍛えた方がいいだろうけどさ……」

「けど?」

「一朝一夕には変わらないし、人には自分に合ったやり方みたいなもんが、あるんじゃない?」

「僕に合ったやり方かぁ……」

 サーヤに言われ、“自分らしさ”を考えてみるがピンと来なかった。

「ほら、前にサウナがどうとか言って、相手を口車に乗せてたじゃん。ああいうのが合ってるよ、イブキには」

「褒められてる気がしないんだけど……」

「別に褒めてないし。タダの分析だってのに、そういう受け取り方するのも、らしいと言えばらしいか」

 そう言いながらサーヤは伊吹の鼻をツンッと突いた。伊吹は“それがお前だ”と言われている気がした。

「僕らしさって、何だと思う?」

 後ろを歩いているウサウサにも意見を求める。

「すみません、わからないです……」

「そ、そうだよね……」

 答えづらいことを訊いて悪いなと思う。

「あの、よくはわかりませんが、優しい方だとは思います」

「えっ? 僕が優しい?」

「はい。歓迎会の時、私が漏らした声をかき消すために、大きな声をあげてくれました。嬉しかったです……。お礼を言ってなくて、すみません」

「あぁ、あれ……」

 伊吹は思い出した。『快感誘導』の効果を掴みかねていた頃、実験台になるといったウサウサにスキルを使ったことがあった。彼女は喘いでしゃがみ込み、その声を誤魔化すために自分も叫んでいた。その甲斐あって、近くにいたチガヤ達には“大声競争をしていた”という風に思わせることができた。

 そんなことを今になって言ってくるのは、ずっとお礼を言わなかったことを、気にしていたのだろう。そう思って彼女の顔を見てみると、見慣れた光が差し込み、表情を捉えることができなかった。ただ、普段はツンッと立っている耳が、若干へにゃっと前に倒れている。

「顔が光で覆われてるけど……何か、恥ずかしかった?」

「いえ、ちょっと思い出し笑いを。あの時、叫ばれた言葉が面白くて……」

 『光耀遮蔽』で彼女の顔が覆われるのは、恥ずかしくて顔を隠したい時だとばかり思っていたが、笑い顔でも隠したいと知って驚く。

「笑った顔なんて、別に隠す必要ないのに……」

 ウサウサの顔から光が消え、いつものクールな表情に戻る。耳もピンッと立った。

「もう隠す必要がないのは、わかっているのですが、ずっと表情を見せないようにしてきましたので……」

「それって、前にいた世界で?」

「はい。供物に感情は不要だと言われてきましたので、表情を隠すことばかり考える癖がついてしまいました」

 彼女が生まれた時から生贄になることが決まっていたことを思うと、自分らしさを追求できる自分は恵まれているんだなという実感が湧く。同時に、いつの日にか、彼女の表情が光で覆われない日を来ることを祈りたくなった。

「その癖、治せるといいね」

「はい……」

「そしたら、笑顔を見せてね」

 ウサウサは黙って頷いた。



 情報倉庫でチガヤと会うことが出来た伊吹はガチャの件を話し、OKを出した彼女と共にガチャ神殿へと向かうことになった。

 ここに来るのはウサウサを出した美女ガチャ以来になるが、来場者の数は相変わらずだった。それでも、美女ガチャに比べれば、飛行ユニット限定ガチャの列は少なかった。

 今回も、ガチャの台座の横には、ガチャで出るユニットを限定する能力を使うユニットがいた。美女ガチャの時はスキンヘッドの男性だったが、飛行ガチャは翼のある巨大なモグラのような生き物がいる。

「あんな生き物が出るのかな……」

 巨大モグラを見て伊吹が呟く。

「可能性はあるだろうな。あたいは前にも言ったけど、乗れるくらい大型のがいい。移動が楽になるし、荷物運びの仕事もできるしな」

「そんな大きいの、うちには入れられないよ」

 サーヤの希望に珍しくチガヤが意見する。

「大きな連中は外で充分だろ。食費がかさみそうなのが難点だけど、その分を補って余りあるくらい稼ぐって、翼竜乗りのオッサンから聴いたことがある」

「へぇ~」

 話している間にも列は進み、前の人がガチャを回していた。

 ドンっという音と共に家を模した箱が落ち、中から黒い生き物が出てくる。卵型で黒光りするボディは1mほどあり、6本の細い脚と頭部から伸びる触覚を持っていた。箱の中に粘液があるのか、脚の先がベトついているようだった。

 その生き物から伊吹が連想したのはゴキブリだった。

「初めて見たけど、物凄い嫌悪感を覚えるユニットだな」

「ちょっと怖い感じがするね」

 目の前に現れた黒い生き物を見て、チガヤとサーヤが顔を引きつらせる。そんな二人をあざ笑うかのように、黒い生き物は羽根を広げて飛び去って行った。それを召喚主が慌てて追っていく。

「次の方~」

 台座の周りで演奏している人たちに呼ばれ、チガヤは銀貨を手に台座へと近づく。

「いよいよですね」

 何が出るのか楽しみなのか、ウサウサは少しそわそわしていた。伊吹は強い飛行ユニットが出ることを祈りながら、チガヤが突起物をまわすのを見守った。

 ガシャガシャという音と共に、台座の上に黒い霧が現れ、土偶型の黒い物体が落ちてきた。ドスンッという大きな音を受けて、台座を囲む集団が演奏を始める。

「何だろう、あれ……」

 伊吹たちが台座の近くまで駆け寄る。

 台座の上に落ちたのは、土偶型の全身スーツのようなものだった。

 着ている人にピッタリとフィットしているどころか、ギュウギュウに締め付けられている感があった。

 召喚されるのは何かに入った状態で、今いる世界を離れたいって思った人だけとはいえ、これも何かに入った状態と言えるのだろうかと伊吹が思っていると、チガヤが恐る恐る黒い全身スーツに近づいて行った。

「お、起きてください……」

 チガヤがツンツンと突くと、全身スーツの中の人がビクッと体を動かし、ゆっくりと起き上がった。

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