新しい朝
2話です。
こんなペースで、大丈夫か俺・・・?
いつもと同じ朝。
いつもと同じ部屋。
椿由宇はベッドから身を起こす。
まだあまり脳が働いていないような気もするが、休日ではないので二度寝などするわけにいかない。清く正しい健全な学生を目指しているつもりなど毛頭ないが、時間という分かりやすい物差しで無精者のレッテルを貼り付けられるなど真っ平だった。
由宇の人生のモットーは「目立たないこと」。大多数の中に埋もれるためなら、努力は惜しまないのだ。
ベッドから降りると、まずは決められたルーチンをこなす。洗面台で顔を洗い、体のギアを徐々に上げていく。そのあとは朝食、歯磨き、着替えを含めた身嗜みを整える作業と続く。まずは、二階の自分の部屋から一階の洗面所に向かった。
顔を洗うと、靄がかかっていた頭がスッキリした。完全に開いた目で据え置きの鏡を見ると、鏡の中の由宇が外の由宇を見つめてくる。鏡の外の由宇は中の由宇の、右のこめかみを見つめる。
そこにあるのは、とても大きな傷。いつからか、洗面所の鏡の前に立つとこめかみの傷を見つめ指を這わせるのが由宇の朝の日課になった。この儀式めいた習慣を終えると、いつも陰鬱な気分になる。
(・・・自分で望んだことだろう)
心の中で、由宇は自分自身に問いかけた。