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#1

霧の先に観える得体の知れない怪物共の跨がる馬の聲。

蹄鉄に蹂躙された草と泥の薫る風。

その風と馬が渾然となり夢の中の僕の顔を蹴る。

気にしない、明晰夢には慣れている。

それにしてもうるさい夢だ・・・

何かが大地を爆ぜながら駆け抜け迫って来る。

慣れる事の無い不安を掻き立てられる蹄の音。


『この夢に応えてはならない。』


明晰夢等と言う言葉すら知らない峻厳なる祖父の言葉だ。

僕の家系はこの恐ろしい夢を観る事が宿命付けられていると言う。

もしも夢の中で夢に応えれば"今生から夢に落ちる"と伝わっている。

その深い意味等は到底分からない。

これは古い家訓で祖父は曾祖父から曾祖父は高祖父から高祖父は玄祖父から玄祖父は来祖父から来祖父は昆祖父から昆祖父は仍祖父から仍祖父は雲祖父から受け継いだ。

それによると雲祖父の雲祖父がこの家訓を守らなかった為に"今生から夢に落ちた"のだと言う。

そして消えた彼は百年後まったく老いていない姿で夢から戻って来た。

龍の牙を手に握りしめて。

まともな怪談にすらならない、不出来な馬鹿馬鹿しい口伝だ。

何が雲祖父の雲祖父だろうか?「守らなかった」と言う事はそれ以前から伝説じみた法螺話が伝わっていたとでも言いたいのだろうか?

だが嘗て大陸に居た頃の祖先には口伝では無く古文書が伝わっていたと言う。

渤海大秦王だの竜宮城王だのの貴種の裔だったが富と臣下を積んだ宝船も嵐に砕かれ裸身一つにまで波に剥かれ邪馬台へと流れ着いたと言うが果たして・・・ここまで来れば法螺も立派な物だろう。

そして父も・・・その法螺の中に消えてしまった。

今でも覚えている。

4歳の時分、祖父との朝稽古をサボり隠れて父と母の布団に潜り込み図鑑を読んでいた、その真横でソレを観ていた。

父と母が僕を残し寝床ごと忽然と消える瞬間(ソレ)を。

祖父以外に信じる者は居なかった。

皆、両親はどこかに蒸発し死んだのだと言っていた。


うるさい!


嫌な夢だ!


思い出させるな!


何かを堪え切れなかった。

何かに声を荒げていた。

何かに罵声を浴びせていた。





ある朝、夢の中で吸った空気がいつもと違う味がした。

ゆっくりと眼を開ける。

いつもと変わらない布団の中で僕は眼を覚ます。

「草原・・・」

布団から身を起こし見渡す-

見渡す限り草原が広がっていた-


シュッツ


一本の線が目の前を掠めた。


・・・矢?


本能からおぞけと共に体を横に捻り飛ぶ。


タタタッ


音がした方に顔だけ戻す

元居た布団に三本の矢が刺さっていた。

布団より先に恐る恐る顔を持ち上げる・・・

地を踏みしめる二本足には鋭い鍵爪のある三本指。

鱗に覆われた長い尾。

丸い胴長の体を覆う様な奇っ怪な鎧。

僕よりも少し大きい位の体型。

二本の腕と三本の指で弓を構えている。

人間では無かった。

頭は特撮映画でよく見慣れた怪獣のそれだった。

こういうのを龍人とでも言うのか?

酷く動揺した様子でこちらを窺っている。


『親父‼こいつの牙を折ればいいんだな‼』

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