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人魚

作者: ひこゆき

人魚の暮らす世界は海のずっと底にあり、まだ幼さの残る彼女は地上にある人間の暮らす世界に興味を惹かれていた。

毎日海岸へ通っては岩陰からこっそり人間の事を眺めるのが楽しみで仕方無い、という程に。

そんなある日、ついに彼女は人間にその姿を見付かってしまう事になる。


「誰か居るの?」


眺めるのに夢中になって身を隠すのを忘れ、人間と目が合ってしまった。

人間に捕まったらどうなるのか……友達から両親から恐ろしい話を聞いている。幼い人魚は小さな肩を震わせた。


「来ないで!」


必死に出した声に近付いていた人間の足音が止まる。急いで隠れた岩陰の後ろまで人間は迫っていた。


「わ、私、人見知りなの!だからそれ以上近付かないで!!」


何とか考えた理由は口にすれば嘘っぽく、もう駄目かもしれないと人魚はきつく目を閉じる。


「そうなの? なら、此処でお話しをするのは大丈夫?」

「え?」


驚く事に人間は岩を挟んだ向こう側から動く気配はなく、人魚からの返事を待っているようだった。

さっきまであった恐怖が薄れていくのを人魚は感じた。


「うん、それなら大丈夫……」


ずっと思っていた、人間と話をしてみたいと。

それから、人間の少年と人魚の少女はたくさんの話をした。


少年の名前はアレクといい、少女はアクアという名前を教えた。

……夕暮れとなった別れ際、アレクはアクアに弟も会わせたいと話した。名前はライトといった。





何度目かの岩陰の逢瀬を繰り返したある日の事だった。

いつものように岩陰でアレクを待っていると、不意に頭上に影が差した。


「………………」


見知らぬ少年の顔がこちらを覗き込んでいた。驚きのあまり声は出なかった。

数秒も経たない内に、爆発のような恐怖がアクアの胸に広がった。


「いやっ……な、何で……!」


涙を浮かべて首を振るアクアに、少年の目が三日月の様に形を変えた。気味の悪い笑顔、だった。


「大丈夫、怖い事なんてしないよ。でも兄さんは君が人魚だなんて言ってなかったな」

「兄さん……?」

「うん、僕はライト。アレクの弟だよ」


そうライトは話すとまたあの気味の悪い笑顔を浮かべた。


人間に正体がバレてしまった。もう此処には来るべきでは無いかもしれない。それでも……アクアはアレクに会いたかった。






そして、運命の日は待ってはくれず……アクアの元へアレクが訪れる。


「アクア」


岩の向こう側から聞こえるアレクの声。愛しい声。何度も逢瀬を重ねる内に、アクアはアレクに恋をしていた。


「君の秘密をライトから聞いたんだ」


いつかはそうなってしまうだろうと思っていた。

自分の物にならないか?というライトの誘いを断り続けていたから。


「だから、君の姿を見てもいい?」

「アレク…………」

「僕は君を受け入れるから」


そのアレクの言葉が夢のようで嬉しくて、「いいよ」とアクアは答えを返した。


「すごい…………」


アクアの居る側は海水が流れ込んで溜まっていて、その中に光を反射して輝く魚の鱗が見えた。

アクアの全身を見たアレクは自然とその言葉を口にし、目を瞬かせた。


「綺麗だよ」


海水に足が濡れるのも構わずアレクはアクアに歩み寄り、その身体を抱き締めた。


「本当に君は綺麗だ」


夢にまで見た愛の言葉に、アクアは全てが泡の様に消えてしまうのではないかと怖く思った……


「君の下半身以外は」


信じられなかった。信じたくなかった。

耳元で囁かれた言葉に、一瞬で世界の全てが崩れていった。


「僕は魚が大嫌いなんだ。だけど、アクア……君の顔はとても綺麗だ。そこらの人間の女よりずっとね」


アクアの愛したアレクとの想い出が水に海に、溶けた………………。







「やっぱり兄さんに言って正解だったよ。アクアは兄さんに惚れてて、僕には何の興味も無いって感じだったから」

「そうか」

「ねえ、兄さん……そのアクアの尻尾どうするの?」

「お前にあげるよ」

「やった!ずぅっと食べたくて仕方無かったんだー!」

「そんなことだろうと思った」

「……で、兄さんはアクアをどうするの?」


と、ライトの質問にアレクの顔に笑顔が浮かんだ。


「一生可愛がるよ」

「そっか……兄さんと僕ってやっぱり似てるよ」




上半身だけとなったアクアの人形の様な瞳に、アレクの気味の悪い笑顔が映っていた。








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― 新着の感想 ―
[一言] アクアは最後殺されてしまったんですか? それとも愛する人から言われた言葉に喪失気味になってしまったのでしょうか?
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