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タイムマシンの使い道

作者: ト部泰史
掲載日:2012/08/19

 きっかけはなんてことはないSF映画だった。空飛ぶ車、立体映像の広告、道行くロボット。当時未来なんて言葉も知らなかった子供の時の俺は、そのまばゆいばかりの世界に心奪われた。いつかあの世界に行ってみたい――。俺は強くそう思った。

 それから数十年たち科学者となった俺は、順風満帆な毎日を送っていた。嫁も去年もらい、腹にはもう子供もできている。

 そんなある日、休日にテレビを見ていると、あの子供のときに見たSF映画がやっていた。今にして見れば大して面白くもないB級映画だ。しかし観ているうちに初めてこの映画を見たときの感情が沸き起こってきた。

 あの世界に行ってみたい――。

 映画を見終わると俺は研究室に向かった。普通であれば未来に行くなんて事は、子供の空想だと諦めてしまうだろう。だが俺は科学者だ。タイムマシンを開発し、未来に行くことも不可能ではないはずだ。

 それからというもの家にほとんど帰らず、タイムマシンの開発に明け暮れた。妻から連絡が何回かあったが、開発のことで頭がいっぱいでほとんど耳に入らない。そして一ヶ月ぶりに家に帰ると妻の姿がなかった。代わりにあったのは離婚届と、赤ん坊の写真――。

 その一件があってから俺は今まで以上に開発に打ち込んだ。妻と子がいなくなった悲しみを紛らわすためだ。それにこうなってしまった以上はタイムマシンを完成させなければ妻という犠牲が無駄になる。

 だが、タイムマシンなんてものはそうそう簡単にできるものではない。最初でこそ何人かいた協力者も一人二人と減り、数ヵ月後には俺だけとなってしまった。開発を辞めようかと考えたこともあったが、もう俺にはタイムマシンしか残されてないことを思うと辞めることもできない。

俺は後戻りができないよう現代社会とのつながりを徐々に絶ち、そのたびに開発にのめりこんでいった。もう俺の目の前にはあの輝かしいほどの未来しか見えていなかった。


 ――それから三十年後。苦心の末にようやくタイムマシンが完成した。俺はすぐにでも未来に行こうとしたが、その前に外に出てみることにした。思えばこの三十年間ほとんど外に出ることもなかった。食べ物も宅配業者に届けさせていたから、外の様子がまったく分からない。三十年ぶりの外の世界。果たしてどうなっているのだろうか。

 俺はドアを開け外に出た。そして目の前の光景を疑った。

 空飛ぶ車、立体映像の広告、道行くロボット。すべて俺がずっと頭の中に思い描いてきたあの未来の世界だ。タイムマシンはまだ起動していないはずなのに。いったい何が起こったというのか。

 俺は近くにいた人に話を聞いてみた。はじめのうちは不信そうな顔つきでこちらを見ていたが、事情を話すとやがて同情するような眼つきに変わり、今までのことを話してくれた。

 なんでも俺が研究室に閉じこもるようになってから急速に科学技術が進歩し、今から二十年前には今のような世界が出来上がったのだという。

 俺はその人に礼を言うと研究室に戻り、しばらく呆然としていた。タイムマシンを作らなくても十年も待てば憧れの世界になっていたとは。俺のこの三十年間は何だったのだろうか。そう思いタイムマシンを見ると憎々しく感じる。何が未来に行くことのできる乗り物だ。俺は近くにあった工具を手に取り、タイムマシンに思いっきり振り下ろそうとした。だがすんでのところでやめた。こいつの使い道を思いついたからだ。

 俺はすぐさまタイムマシンに乗り込むと過去へと跳んだ。こいつの開発をやめさせに行くために。

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